第2話 黒幕との対峙

 街中から絶叫が響き渡る。……中には悲痛の叫びもあればオークの鳴き声、笑い声までもある。そして地面からはいきなりそこらじゅうから火柱が立ち始め、炎が建物を覆っている。そして、そんな中リンは出来るだけ冷静にその推理を口にする


「やっぱり……魔物達の襲撃だ!……でもどうしてこんな街に……それに隠れて侵入してから一気に騒動を起こす、なんて計画をする知力なんて、こんな魔物達にあるはずが……いや、今はそんなことより……!」


 いつもは何が起きようと冷静なリンだが、今回は少し焦っているようだ。ボソボソと独り言を言っているが、その間にも街は火の海と化している


「えっと……店長、私どうしたら……それに、何が起きて……」


 ミミックは不安そうな顔で後ろを振り返ってリンに質問をする。……が、既にそこにリンの姿は無く、辺りを見渡すと遠く離れた場所で走っているリンの姿だけが見える。


「ちょっ、店長!待ってよ!…………はあっ、はぁっ、なんでチビの癖してそんな足速いんですかぁ……」


 ミミックは驚きながらもすぐにリンを追いかける───が、追いつく所かリンの姿を見失ってしまった。そしてしばらくリンを探すも、遂に目の前まで火が迫って来たため、仕方なく街の避難所へと向かうのだった……


 ……そうして肝心のリンはというと、人間離れした脚力で燃えている建物から建物へと飛び移って一点へと向かっている。 そこは───────


「時計塔。なにかがあるならあそこしかないよねっ。」


 そうしてリンは夜、火の海と化した街を駆けていく。血生臭い匂いも、子供の泣き声すらも無視をして、時計塔へと向かう。

 きっとそれが最も多くの人を救う最良の手段である筈だから───────




〜時計塔前の広場〜


 普段は自然豊かで子供達の遊び場や社会人の休憩場として街では賑わっている広場。しかし、今の状態は悲惨なものである。遊具やベンチ、形あるものは全て壊れていて、残っているものといえば人としての原型すら残していない見るも無惨な死体がいくつか転がっているくらいだ。


 しかし、そんな夜の広場にも二つだけ影が伸びている。一方大きくて、もう一方は小さい。


「やあ兄ちゃん。夜宴やえんにしては少し過激すぎやしないかい?

 これじゃあ街の人も迷惑だろう?」


 小さな影の正体はリンだ。クスクスと笑いながらその相手に話しかける。


「……丁度盛り上がってきた所なんだ。君みたいな女のガキにはご退場願うね。」


 苛つきながら話すその男は街で暴れているゴブリンやオークと違ってれっきとした人間だ。ただその容貌は鎧と兜で身を包み、大きな剣を携えていて……そして肩にどこかの国の紋章らしきマークが付いている。


「へえ〜。……でも君は退屈じゃないかい?そこでどうだ。今夜の夜宴は僕と一緒に踊ろうじゃないか」


 リンは笑顔でその男にそう言い放つ。その顔が作り笑顔であることはその怒り混じりの声からも容易に分かる。


「ふんっ。生意気なクソガキが。いいだろう、踊ってやる。だが一つ覚えておけ、俺は下手くそは容赦なく切り捨てるぞ?────────」


男は話し終えると同時に、大剣に炎を纏わせてリンに切り掛かる…!。───が、

リンは【二重強化魔法ダブルアッパー】を自分自身の足に付与してそれをいとも容易く避ける。……しかし、避けられたそのつるぎは空気を切り裂き、地面を溶かしながら抉った。……その威力は強化魔法バフを掛けていようと一撃でもモロに喰らえば命を落とさせると感じさせる程のものである。


「……強いね。それこそ、魔王がいた時代でも一線級で戦える程度には……。

だからこそ、邪魔なんだ。悪いけどすぐに決着ケリを付けさせて貰うよ…!」


 そう喋り終わった瞬間、男は下からリン目掛けて剣を振り上げる……!

リンはそれを避けようとするが、反応が少し遅れたのか、はたまた剣が加速したのかその剣はリンの腕を掠って血が付着する。


「はんっ。所詮ガキよ。まぐれで一発避けれたようだが、次で終わりだ……!」


 その剣が掠ったことで男は調子に乗っている。……その中でリンは小さく呟く


「次はないよ。チェックメイトだ」


膨張する血晶クリスタル・ブラッド!】


その魔法の名が言霊としてリンから発せられると共に、剣に付着したリンの血に異変が起きる。その血はまるで赤い結晶のような形になり、剣を通してその結晶は伝っていき、剣と鎧ごとその男は一瞬で結晶に変えられた。


 そうして、リンは魔法で強化した腕でその結晶を殴り、粉々にする。それと同時に街を侵食していた炎が消えていくのが見てとれる。


「ふう〜、やっぱりこいつが黒幕かぁ。炎の増え方がおかしいと思ったんだよ。魔法の炎は燃え広がらないからね。……それに、魔法を使うのも戦うのも何年振りだ?……ま、いっか。それよりこいつが付けている腕章の方が気になる」


 そう言うと、リンは男の腕の部分の結晶を集めて、観察する。


「この鎧、どっかで見たことあるなと思ったら【アドラーシ王国】の奴じゃん。

てっきり僕を殺しにきた国の奴かと思ったのに……。おかしいなぁ、アドラーシに喧嘩なんか吹っかけたっけ?」


 そうしてしばらく悩んでいたリンだったが、やることを思い出して時計塔に登り始める。時計塔の頂上は街を一望することが出来る人気スポットだが、今の状況では誰一人としていない。


「よいしょっと。」


リンが登り終えると街の光景が目に入る。その光景からは炎こそあの男を倒してから消えたが、オークやゴブリンは依然として街に蔓延っていることが分かる。


「んーーー。いつもなら綺麗な眺めなんだけどね。こいつらがいるとどうにも目が汚れる。………それじゃ、やりますかっ!」


リンはそう発すると同時に一瞬で魔法陣を展開する。……それも通常の魔法使いが使うそれではない。街の上空を覆い尽くすほどの大きさのものだ。それから、一度大きく深呼吸をしてその魔法を発動するべく詠唱を始めた。


「天よ、雲よ、協力したまえ。我は魔力と共鳴せしものなり。この魔力チカラの名を持ってして命ずる。罪人に裁きを……!」


呪いの神槍カース・スピアー


これは本来の詠唱の半分程度に省略したものだがリンは充分と判断したようだ。


詠唱が終わると同時に魔法陣はなくなり、蒼鈍色の雲が代わりに出来ている。

そうして詠唱が終わってから10秒ほど経った頃、雨が降り始めた。


無論、普通の雨ではない。その雨粒は一つ一つが小さな槍の形状をしている。

そしてその【雨粒】はただ落ちるのではなく、建物や罪のない人は避けて、魔物達に当たるように軌道を変える。


雨が降り始めて5分程度経った時、そして実に約3000本もの【雨粒】が降り注いだ時、魔法は止まった。


それが意味するのは────────────

























 

 

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“勇者殺し“は売れない魔道具店を経営します ミランダ_milanda @121012

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