星の調整力

Zamta_Dall_yegna

星の調整力

 この星には食物連鎖が存在している。頂点に立つのは『マンティコア』と呼ばれる生き物だ。その下は『ハンター』と呼ばれる知恵がある人間のような生き物で、彼らの下にいる『ケプヴァ』と呼ばれる人型の獣を食する。『ケプヴァ』は白い体毛に青い瞳を持つ獣で、木の実や草等を食していた。


 『マンティコア』は、基本的に『ハンター』や木の実を食し、『ケプヴァ』を襲うことは無い。そのため、『ケプヴァ』の中には『マンティコア』を信仰する者がいる。彼らは『ハンター』に襲われそうになると、祈りを捧げて『マンティコア』を呼び出すのだ。故に、『ハンター』は彼らを忌み嫌い、『邪教徒』と呼んだ。


 今の世の中、『ハンター』が増え続けていた。知恵をつけ、技術を身に着けて、ありとあらゆる『ケプヴァ』を狩っていたのだ。


 一面真っ白な雪山の中。ボロボロな遺跡の中に1人の青年がいた。彼は『ケプヴァ』として、この山に住んでいた。『ハンター』から逃れ、無事に木の実を得るためだ。だが、ここにも『ハンター』の魔の手が襲ってきていた。飢餓に襲われていた彼は、どうにか、彼らの来ない時間帯を狙って草をむしって食べていた。

 ―そろそろ味のついたものを食べたいな―

 それは、彼の切実な願いだった。


 彼は『隠れ身師』として、有名な『ケプヴァ』だった。雪の上で横たわり、体を覆うサイズの布を全身に被せた。優秀な『ハンター』で無い限り、この格好を見て生きているとバレることは、まず無い。彼は、万が一そうなった場合に、回避して逃げるための穴を用意していた。


 3人の『ハンター』がうろついているのが見える。彼は体を横たわらせ、動かないように全身に力を入れた。急だったので、仰向け状態だ。彼の手は横につけて、顔は真顔を保っている。すると、1人の『ハンター』が彼のところへ来た。

 「これは、生きているのか?」

 高めの男性の声がそういうと、シーツがまくられた。『ケプヴァ』が見ると、そこには黒髪黒目の鷹のような顔つきをした『ハンター』がいた。


 「動いていない…死んでいるんじゃないか?」

 彼の視界の外から声が聞こえた。そう、彼らは動いていなければ、見えなければ物として扱う存在なのだ。

 「こんな遺跡の跡地、しかも屋根のないところでやられているなんて…変ね。まさか、邪教徒じゃないでしょうね?」 


 『ハンター』たちは、彼の見えぬところで狼狽えているようだ。だが、黒髪黒目の男は違うらしく、『ケプヴァ』の全身を見回していた。

 「大丈夫だろう。見たところ、祈りを捧げている顔でも無いし。」

 一瞬、彼は男と目が合った。ドキリとしつつも、彼は目をそらすことも出来ずに固まっていた。少し体が震えるも、『ハンター』たちにはバレていない。


 「この手のポーズも邪神への祈りには見えないし、足だってそうだ」

 何度か目が合うも、彼は決して動くことは無く、これからの行動を考えていた。

 ―逃げるなら一瞬の隙をつくしかない。だが、この人数が相手となると、やはり穴を使うしかないだろう。布を使って姿を隠せば上手くいくかもしれないな―


 ふと、彼は男が意図的に目を合わせていることに気づいた。背筋が凍りつくような、視線が彼を貫いていた。

 「だが、こいつは俺と何回、目が合ったんだ?」

 男の分厚い靴が、彼の喉元を狙って踏みつけてきた。


****


 辺り一面が、白から赤に変わっていく。グチャグチャと肉を貪る音が響き、猟銃が3本程転がっている。肉を食していたのは『ハンター』ではない。彼だった。


 白かった体毛は赤に変色し、青い瞳はギラついて、歯は3列に増えていた。そう、彼は『マンティコア』に進化していたのだ。星の調整力により、『ハンター』を狩り尽くす存在となったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

星の調整力 Zamta_Dall_yegna @Zamta_Dall_yegna

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説