魔法の崇められる世界で魔力なしと測定された俺。 しかし、その力世界最強につき

REI KATO

転生

第1話 転生した1

【生後一ヶ月】


「バブ」


 オレはめがさめた。

 いいにおいがしたからだ。

 オレは、それにとびついた。


「まあ、お坊ちゃまが言葉を発しましたわ! まだ生後一ヶ月ほどなのに」


 ことば?

 

「バブ」


「まあ、可愛い! さあ、たんとおあがりなさいな」

 

 オレはひたすらそのいいにおいのするものをすった。

 ただ、ぼんやりとしていた。


「ゲプ」


 ああ、ごきげんだ。

 ねむくなった。

 ねる。


 ……

  

 めがさめた。

 おなかのしたのほうがきもちわるい。


「おぎゃー」


「あらまあ、どうしましたの? ああ、お通じがありましたかね。さあ、おむつを取り替えましょうね」


「きゃっきゃっ」


 きもちがいい。

 ねむくなった。

 ねる。


 ……

 

【生後二ヶ月】


 やがて、あたまがはっきりしてきた。


「む?」


 まわりもみえるようになってきた。

 

 めをうごかしてみる。

 オレはどこかにねかされている。


「(おひめさまべっど?)」


 ことばそのものが頭に浮かんだわけではない。

 ただ、なんとなく見おぼえのある形が浮かんできた。

 

「あらまあ、ひょっとしたらはっきりと目が見えるようになってきましたか?」


 ああ、いいにおいがやってきた。


「バブバブ」


「お腹がすきましたか? じゃあ、おっぱい飲みましょうね」


 おっぱい?

 うむ。

 とてもうきうきすることばだ。

 オレはいつもおっぱいがのみたいのだ。


「ゲプ」


 おなかいっぱいできぶんがよくなった。

 ねむくなった。

 ねる。


 ……


 めがさめた。

 おなかがゆるい。

 ちょっとちからをいれた。

 ああ、きもちいい。

 でも、すぐにきもちわるくなった。

 

「おぎゃー」


 がまんできない。

 しかし、なんにもできない。

 なくしかない。


「あらまあ、どうしましたの?」


「う○ち」


「え? あらまあ、お坊ちゃまがしっかりした言葉を」


 オレはおむつをかえてもらった。

 こわそうな人がへやにはいってきた。


「これは御主人様」


「よい。面をあげよ。フェルノーが言葉を発したというのは本当か」


 フェルノー?

 オレのことか?


「はい。『う○ち』と」


「ほお! フェルはまだ生後ニヶ月なのに随分と成長が早いな」


「はい。普通ですと早くても生後半年とかなんですが」


「優秀な子だな」


「ええ。さすがは御主人様のお子様なだけはありますわ」


 ゆうしゅう?

 ほめられたような気がする。


「きゃっきゃっ」


 きぶんが良くなった。

 ねむくなった。

 ねる。



【生後三ヶ月】


 その後、どんどんと言葉がふえていった。

 いや、しぜんと言葉がわいてきた。


『プーン』


 オレはこの音がきらいだ。

 チクリとした後、からだがとてもかゆくなる。


「まあ、どうしました? あれ? 蚊が飛んでいるようですね」


 こいつは『か』というのか。


「か、きらい」


「まあ! 文章も言えるようになってきましたのね。なんて、賢いんでしょう! 待ってなさい。いま、蚊を退治しますからね」


『パン!』


「ああ、うまくやっつけたわ」

 

 ああやって『か』をやっつけるんだ。

 でも、オレはうまく体がつかえない。


『プーン』


 ああ、また飛んできた。

 オレはこの音にじっと耳をすませた。

 すると、頭のなかに何かがうかんできた。


 『れーだー』。


 そんな言葉がうかんできた。

 どうやら、この『か』の位置をあらわしているようだ。


 なんとかしたい。

 『か』にオレは【力】をそそぎこんだ。


『ブチッ』

 

 よし、やった。

 オレはこの音のするやつをひねりつぶした。

 


 この【力】、どんどんと強くなっていった。

 ある日など、部屋に三匹の『か』がはいってきた。

 レーダーに三つの光る点が。

 オレはそれらにねらいをしぼり、【力】をこめる。


『ブチブチブチッ』


 あっというまに音は消えた。

 ああ、ちょっと疲れた。

 眠くなった。

 寝る。



【生後四ヶ月】


 おっぱい以外にオレがいつも楽しみにしているものがある。


「えほん」


「ああ、絵本を読んでほしいのですか? 本当にお坊ちゃまは絵本がすきですね」


 オレが初めて読んでもらった絵本。

 『はらぺこわんちゃん』

 それがオレのいちばん好きな絵本。


 部屋には本だながおかれることになった。

 どんどんと絵本がたまっていく。


 ある日のことだ。

 おっぱいがなにかしている。

 おっぱいは『うば』というらしい。

 しているのはあみものというらしい。


 することがない。

 手足をバタバタする。

 顔を動かす。

 やがては寝返りがうてるようになった。

 

 顔を本だなにむける。

 あそこに、オレの大好きな絵本がある。

 

「えほん」


 オレは絵本を見つめた。

 

「えほん、こちらに」


 と何度もねがった。

 そして、【力】を本にそそぎこんだ。


『コト』


 あ、本が動いた。

 オレはもっと強くねがった。

 【力】をもっと強くそそぎこんだ。


「えほん、こちらに」


 その日はそれ以上本は動かなかった。

 オレは気持ち悪くなり、そのまま眠りについた。



 オレは次の日からえほんを動かすことに熱中した。

 

「えほん、こちらに」


 何度も強くねがった。

 【力】も強くそそぎこんだ。

 

『コト』としか動かなかったのが、『コトコト』となり、1カ月後には『ズルリ』と動くようになった。



「あら? 絵本が本棚から落ちてるわ。おかしいわね」


 ある日、とうとう本を本棚から落とすまでになった。

 でも、本を動かしたのが見つかると戻されてしまう。


 オレは人のいないときに本を移動させることにした。



「えほん、こちらに」


 さらにオレは【力】を絵本にそそいだ。


『ふわり』


 絵本は空中に浮かび上がり、オレの方へ。

 ページを開くにはさらに時間がかかった。

 それも数日でオレはものにした。

 本を空中に固定し、思う存分楽しんだ。


 誰かがやってくると急いで絵本を本棚に戻した。

 当初は動かすのがフワリだった。

 今では、すっと移動させることができるようになった。


 ただ、何度も繰り返しているとやがて気持ち悪くなり、そのまま眠りについた。



【生後五ヶ月】


 オレは、おすわりができるようになった。


「本当にお坊ちゃまは成長が早いのですね」


 だが、絵本にあきてきた。

 文字も絵も本の汚れさえもおぼえてしまった。


 何かないか。

 オレのレーダーは少しずつ範囲を広げた。

 そして、離れた部屋に本がたくさんあることを知った。



「まあ、お坊ちゃまがハイハイし始めたわ!」


 オレはベッドの上でハイハイができるようになった。

 床に下ろしてもらうと、早速部屋をハイハイした。

 そうして、離れた部屋にいこうとした。

 しかし、とびらが立ちふさがる。


「お坊ちゃま、お外はまだ早いですよ」


 そんなことはない。

 オレの求めるものがすぐそばにある。


 

 オレは誰もいないのを見計らって、ベッドから体を浮かせた。

 これにはけっこうな【力】が必要だった。


『ガチャリ』


 ぜえぜえ言いながら床に降りると、とびらを【力】で開けた。

 とびらの開け方は知っていた。

 あの棒をひねるだけだ。

 ただ、気力体力をかなり使った。


「あとすこし」


 やはりぜえぜえ言いながらハイハイして本のある部屋に到達した。

 だが、その部屋のとびらは固かった。

 棒を捻るだけではとびらはあかなかった。


 オレの冒険はここまでだった。

 急速に気持ちが悪くなり、オレは気を失った。



「あれ、お坊ちゃまが!」


 メイドが廊下で寝ているオレを見つけた。

 大あわてでオレを部屋に戻した。

 よけいなお世話だ。

 あの部屋に行くにはさらにこっそりと行かなくてはならないことを学んだ。

 

 オレはその後もこっそりとチャレンジした。

 付近に人がいないのをよく確かめた。

 レーダーも少しずつ広がっていった。


 しかし、あの部屋のとびらをあけられない。

 人がやってくると大急ぎでベッドに戻った。

 体力がバク上がりしていった。



【生後六ヶ月】


「ああ、とうとうお坊ちゃまが歩けるように!」


 その日、オレを見にたくさんの人がやってきた。

 オレはよたよたしながら立ち上がって歩いていた。


「ほう、さすがは私の息子だけのことはある」


 ヒゲをたくわえた人がそう言った。

 みごとなプナチナブロンドに青い目。

 オレはこの人を知っている。

 まえにこの部屋で見かけた。

 『ごしゅじんさま』だ。

 どうやら、『ちちうえ』というものらしい。


「ええ、本当に。優秀な御主人様の血を受け継いでいますわ。普通ですと早くても歩けるのは生後1歳前後といったところ。半年で歩けるなんて成長が早すぎます」


 となりで時々オレの部屋にやってくる女性もそう言った。

 こちらはよく知っている。

 オレの『ははうえ』だ。

 こちらは薄めの緑色髪にエメラルドグリーンの瞳。


 ははうえ、という言葉には馴染みがある。

 オレの本当の『ははうえ』は『おっぱい』を与えてくれる女性だ。

 『うば』である。

 おっぱいは最高だ。

 最高に美味い。


 

 さて、オレが歩くだけでみんながほめてくれる。

 オレは気分がよくなった。

 さらに歩いていくと、みんながオレについてくる。

 扉のそばに行くと、扉をあけてくれる。

 みんなニコニコしている。

 これはチャンスだ。


 オレは本のおいてある部屋まで歩いていった。

 そして、とびらの前で


「ほん、よみたい」


 と『ちちうえ』を見上げて頼んでみた。


「おお、おお、お前はそこに本があることがわかるのか? よろしい。もっと本をお前の部屋にもってこさせよう。おい」


「は。畏まりました」


 オレの部屋はすこしずつ本が増えていった。

 そしてオレは学んだ。

 あの部屋には『かぎ』というものがあることを。


 鍵穴に鍵がさしこまれる。

 オレはそれをじっとながめる。

 すると、鍵のしくみが頭の中に浮かんできた。

 オレは鍵の開け方を理解した。

 次からは簡単に扉を開けられるようになった。 


 オレは新しい本をどんどんとオレの部屋に運んだ。

 読んだ本はあの部屋に戻していった。

 オレは眠くなるまで本を楽しんだ。


 オレの脳は急速に明晰になっていった。

 話す言葉もどんどんと複雑になった。


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