シーニー
夏久九郎
第一章 シェイプシフターの謎を追って
第一話 天文サークル冬季合宿計画 side:七瀬華
困った。私は、学外活動申請書を前に自分のデスクで頭を抱えた。
私は産休に入った
理由は明白だった。私が、まだ教師一年目の新人であり、修学旅行の引率やクラス担任の経験がないからだ。
しかし、相澤先生は別の条件を満たせれば、許可できるとも言ってくれた。
それは、引率可能なベテランの先生と共に合宿を実施するという条件だった。そこで、私は天文サークルの外部顧問の天野美月先生の名前を出したが、教師経験があるとはいえ、そもそも学外の人間であるため、生徒たちの親御さんからすれば、納得できないだろうということだった。
年末の、学校が休みになる時期、多くの教員たちが思い思いの時間を過ごす時期と考えると、新人の私が声をかけられそうなベテランの先生は皆無だ。
思わず、「はぁ」とため息が出る。
「七瀬先生。どうしました」
後ろから、大柄な体育教師が声を掛けてくる。隣のデスクの
「実は、天文サークルの冬季合宿を計画しているのですが、許可が下りなかったんですよ。ベテランの先生が引率するならば許可すると言われたんですけど、時期が時期ですからね」
私は諦念をにじませながら、そう言った。
大山先生は、私の手元にある学外活動申請書を見つめて、口を開いた。
「七瀬先生。そこ。私の実家の旅館がある場所ですよ。年末、実家に帰るので、私で良ければ、引率もできますよ」
「えっ。本当ですか。本当にいいんですか」
私はその申し出に耳を疑い、思わず確認してしまう。
「ええ。旅館も実家で良ければ手配できるかもしれません。天文サークルのメンバー程度の人数であれば、部屋は準備できると思います」
ありがたすぎる申し出に、改めて、私は一瞬迷う。大山先生は、一度、私に交際を申し込んできたことがある。今のところ、一度食事をして、私の趣味である昆虫の博物館にプライベートで一緒に行ったきりで、特に進展はなく、交際はしていないという形になっている。
今思えば、昆虫博物館に連れて行ったのは間違いだった。虫嫌いを克服したいという大山先生たっての希望で同伴したのだが、ゴキブリの展示をみた瞬間、「ギャーッ」と言って、大男が私の後ろに隠れ、周りの小学生やその親御さんに笑われたのは、かなり恥ずかしかったと同時に、情けないと思った。
虫好きの私と虫が苦手な大山先生。私個人の感情としては、あまり変な借りを作りたくないが、冬季合宿を楽しみにしているサークル代表の佐藤さんのことを考えると、この申し出は受け入れるべきだ。そう決心し、
「すみませんが、引率よろしくお願いします。あと、宿の手配も、ありがとうございます」
私は、素直にお礼を言った。
大山先生は少年のような笑顔で「お任せ下さい」と言って、早速、携帯電話でどこかに電話をかけていた。
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