第4話 昨夜はお楽しみでしたね

//SE 静かな住宅街の早朝の環境音(小鳥のさえずり、遠くで車の走る音)

//SE タオルケットの擦れる音


「……先輩、おはようございます……」//心底申し訳無さそうな声で


「はい……なんで、わたしがスーツ姿のまま、先輩のお部屋で、一泊しているのか……状況は理解してます、つもりです……はい……」


「……えっと……正直……、記憶は結構曖昧で……二軒目で、日本酒を頼んだあたりまでは、覚えてるんですけど……そのあとは……」


「…………」


//SE 後輩がスムーズに土下座の体勢に移行する音


「すいませんでしたっ!!!」


「わたし……! いつの間にか酔いつぶれちゃって……! 先輩が介抱してくれたんですよね……!?」


「本当にごめんなさいですっ! なんといったらいいか、お詫びのしようもございません!!」


「…………っ」


「えっと、無理です。気にします……申し訳なさすぎて、先輩の顔を見られません……」


「……うぅ」


「……はい、そりゃ、先輩を励まそうと思ったのは、そうなんですけど……でも、その結果、自分が酔いつぶれてたら、本末転倒っていうか……」


「……え? 俺も楽しかったって……」


//SE 後輩が顔を上げる音。


「うぅ……せんぱいぃ……」//半分泣き声


「……普通なら置き去りにされても、文句言えないのに……やっぱり先輩は優しいです……いい人過ぎますよぅ……」


「……」


「……わかりました、これ以上、わたしが謝っても、先輩に気を使わせちゃうだけですよね……だから、もう謝るのはやめにします」


「その代わり……」


//SE 後輩が近づく音。


「先輩っ! 朝ご飯まだですよね!? お詫びに、ご飯を作らせてくださいっ!」


「いえ、遠慮しないでください! それくらいしないと、流石に私の気がすみませんのでっ!」


//SE 立ち上がる音、ぱたぱたとキッチンに向かう足音


「えっと……冷蔵庫、失礼しますね……!」


//SE バタンと冷蔵庫を開ける音。


「おお、卵と……冷ごはん、お漬物もあるじゃないですか!」


「あ、鮭フレーク発見です。あと梅干しも。よしよしっ」


「よし、おにぎりと卵焼きにしましょう。あと、お味噌汁も作っちゃいますね!」


//SE 冷蔵庫を閉める音、ぱたぱたとキッチンから戻る足音


「先輩っ。というわけで、朝ご飯は私にお任せください。こう見えて、料理は得意なんです!」


「よーし、燃えてきました! 昨晩の醜態の挽回のためにもっ。最高に美味しい朝ご飯を、先輩にお見舞いいたしますのでっ!」


「……え?」


「その前に、シャワー貸すから、浴びてこい?」


「……酒臭い?」


「……すいません、えへへ……」


「……あと、誓って変なことはしてないから、安心しろって……」


「…………」


「……変なことしてくれてよかったのに」//ボソリと


「あ、いや! なんでもありません! じゃあ、シャワーを浴びてきちゃうので、少々お待ち下さい!」



◇◆◇◆◇◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ふんふーん」//後輩が歌う鼻歌


//SE 包丁でネギを刻むトントンという音

//SE 卵を割る音、かき混ぜる音、フライパンに油をひく音

//SE 焼き上がる卵のジュウという音、おにぎりを握る音


「これで卵焼きはオッケー。お味噌汁は……」


「うん、いい感じ……あとはこうして、盛り付けてっと……」


//SE 後輩が食器に朝ご飯を盛り付ける音。


「完成だ! 先輩、できましたよー」


//SE 朝ご飯をのせたお盆をもって、後輩がこちらに近づいてくる足音

//SE 食器をちゃぶ台の上に乗せる音

//SE あなたの対面に後輩が座る音


「お待たせしました。じゃあさっそく食べましょう!」


「いただきまーす!」


//SE 二人で箸を動かす音、味噌汁をすする音


「……どうですか?」


「おいしい!? ホントですか!? やたっ!」


「よかったぁ……お口に合ってなによりです!」


「沢山作りましたから……どんどん、お代わりもしてくださいね」


「わたしも食べよっと。はむ……」


//SE 後輩がおにぎりを頬張る音。(もぐもぐ音


「……うん、上出来♪」


//SE 後輩が味噌汁をすする音。


「……あー、酒浸りの身体に染みますねえ」


「やっぱり、日本人の朝ご飯は、お米とお味噌汁ですねえ……先輩もそう思いませんか?」


「ですよねぇ……やっぱり細胞のミトコンドリア的なものに、刻み込まれてますよねえ……」


「あ……玉子焼きの味はいかがですか? だし巻き玉子風にしてみたんですが……」


「……おいしい? よかったぁ……」


「……へへっ」


「あ、ごめんなさい……」


「いえ、その……なんか……先輩とこうして向かい合って朝ご飯食べる日がくるなんて、思わなくて……」


「なんていうか……夫婦みたい……なんちゃって……」


「あははははっ……冗談ですよっ」//すごい照れてる


「先輩、顔真っ赤じゃないですか〜、あはははは……」


「いや、私が赤いのは、二日酔いの影響ですから……!」


「あっ……! っていうか先輩、ほっぺた。ご飯粒ついてます!」


「そっちじゃなくて、反対です。もう、私がとってあげますね」


「よいしょ……」//声が近寄る


「……ん、とれました」


「……ふふっ、子供みたい。可愛いです、先輩っ」


◇◆◇◆◇◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る