第3話 2軒目〜隠れ屋風日本酒バー


//SE カランカランというドアベルの音

   個室に通される音

   席に座る音


「はえ〜、おしゃれなお店ですねえ」


「それに、個室だし……ここなら人目を気にせず、ゆっくりおしゃべりできますね、にしし……」


「え? 別にいいじゃないですか。ちょっとくらい狭くても。隣のほうが喋りやすいですし……」


「それに……」


//SE 頭を撫でる音


「こっちのほうが、傷心の先輩を、沢山ナデナデできますし……」


「先輩、照れてますね……かーわいい……」


//SE おもむろに注文メニューを抜き取る音


「そうですね、飲み物を注文しましょっか」


「えーと、店員さんを呼ぶボタンは……あ、タッチパネルか……。んー、どれにしよーかなー」


「あ……これ。先輩が前に、ちょっと飲ませてくれた、日本酒ですよね?」


「また、飲みたいと思ってたんですよー! 私、これがいいです!」


「一合で……おちょこは二つで……」


「おつまみは……しめ鯖と……浅漬と……チーズの盛り合わせとかに、しときます……?」


「はい、注文完了です……」


//SE 店員が近づく足音

//SE 個室のドアが開かれて、注文したメニューが置かれる音


「わー来た来た」


「先輩、お注ぎさせていただきますね」


//SE トットットと、日本酒をおちょこにそそぐ音。


「あ……ありがとうございます。私もいただきます……」


//SE トットットと、日本酒をおちょこにそそぐ音。


「それじゃあ……先輩、あらためて、乾杯ですっ」


//SE おちょことおちょこが軽くぶつかる音


「んっ……」//後輩がちびりと日本酒を飲む音


「ふぁーっ、やっぱり美味しいなぁー」


「いやー日本酒って不思議ですよねぇ。アルコール度がけっこう高いお酒なのに……メロンみたいにいい香りで……水みたいにするっと飲めちゃうなんて……」


「んふふ……カルアミルクしか飲めなかった私が、まさか日本酒を飲めるようになるなんてなあ……」


「この美味しさを楽しめるようになったのも、先輩のおかげなんですよ?」


「ほら、覚えてます? 私が入社したとき、部の歓迎会があって……」


「私が座っていた席の皆が酔っ払っちゃって……一気飲みの流れになっちゃって……困っていた私のこと、先輩がこっそり、自分の席に呼んでくれたじゃないですか……」


「あのとき、先輩が飲んでたのが、この日本酒なんです……」


「それから、なんだか日本酒を飲むたびに、先輩のことを思い出すようになって……」


「ほら、味って思い出とくっついちゃうじゃないですか……」


「私、それまでは、お酒の美味しさって、あまり分からなかったんですけど……あの日のお酒は、特別で……なんだか甘かったっていうか……」


「んっ……」//後輩がちびりと日本酒を飲む音


「んふふふ……今日のお酒もとっても甘いです……」


「きっと先輩と一緒だからだな……ひっく」


「先輩は、お仕事だけじゃなくて、お酒のことも、私に教えてくれたんですよー……」


「だから、本当に、先輩には、感謝してもしきれないんです……ひっく」


「え? 酔ってる? ……そんなことないですよー。今日はとことん先輩に付き合う夜なんですから……まだまだ……ひっく」


//あなたがグラスに水を注いで、後輩に手渡す音


「……水、まあ、いただきますけど……」


「……んっ、んっ。ぷはぁ」//後輩、水を飲む


「なんですか、先輩……なんで、笑ってるんですか……」


「……え、ありがとうって……」


「いや、無理なんかしてないですよっ! ひっくっ」


「……そりゃ、先輩みたいにお酒は強くないけど……日本酒が好きなのはホントですし……もっと、先輩と一緒にいたかったのもホントだし……」


//あなたが後輩の頭を撫でる音


「……ひゃ! な、なにするんですか! 今日、先輩の頭をナデナデするのは私の役目なのに……!」


「……! かわいいって……」


「……っ」


「先輩……その〝可愛い〟っていうのは……どういう意味ですか……?」


「……ただの後輩って意味ですか……?」


「それとも……」


「…………っ」//何かを決意したように


//SE 後輩が、日本酒をおちょこに凄い勢いでそそぐ音。

   それを一気に飲み干す音。


「っぷはーっ……!!」


//SE 後輩が、テーブルに日本酒を勢いよく置く音。


「失礼しますねっ!」


//SE 後輩があなたに身体をもたれかかる、衣擦れの音。


「いーじゃないですかあ……ちょっとひっついたって……」


「せっかくの個室なんですから……誰も見てません……!」


「……ねぇ、先輩……! ひっく……さっきの話、なんですけど……」


「ちょっと、真剣に考えてみません……?」


「……だからぁ、そのう……」


「わたしがせんぱぃの……かのじょに、立候補するって……はなしっすよぅ……」


//以降、後輩の声が徐々にへべれけになっていく。


「言っとくけど……わたし……本気ですよぅ……? ひっく。きっと、私は……先輩のこと……絶対泣かせない……とおもぃます……」


「……それに私、自分で言うのもなんですけど……結構、モテるんですよ……? ひっく。入社してから……もう三人に、告白されてます……ひっく」


「……でもでも、全部断ってます……だって……先輩がいるんだもん……」


「……だからぁ、ぜんぜん、酔っ払ってなんか、ないでっすって……本気なんでしゅから……」


「いったでしょ……? 私が……今のお仕事を続けられているのは……ぜ〜んぶ先輩のおかげなんです。先輩がいるから頑張れてるんです……ひっく」


「……これまでは、彼女さんがいたから、ずっと我慢してたんでしゅよ。ひっく。でも、もう彼女がいないなら……」


「もう……せんぱいのこと……ひっく……好きになっていいんですよね……?」


「ねえ……先輩……ひっく、私のこと……ひっく。どうおもってりゅんですかぁ……?」


「ごまかしゃないでくだしゃい! ひっくっ」


「はい! 私の目をみて……!」


「……え? みじゅ……?」


//SE 水を継ぐ音。

//SE グラスを差し出す音


「あ……ありがと、ざいます」


「……んっ、んっ」//水を飲む


//SE ダンッとグラスを置く音


「ぷはあっ!」


「……はにゃあ〜」


//SE 身体がゆっくり傾く音

//SE ドサッとカウンターにうつ伏せになる音。


「……むにゃ……せんぱい、すき……むにゃむにゃ……」


◇◆◇◆◇◇◆◇◆◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




お読みいただきありがとうございます!


本作は第4回『G’sこえけん』音声化短編コンテスト参加作品になります。

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