観察者

Kei

観察者


 気が付いた。



 体が動かない。

 声も出ない。

 目だけしか動かない。


 見えている景色には人が倒れている。

 横転したバスと… 周りの藪が所々燃えている。


 そうだ、事故だ。

 バスが崖から落ちて… 気を失ったのか。


 全身が痛い。痺れている。

 体を強く打っただけじゃない。どこか損傷したようだ。


 久しぶりに取れた休みだった。

 夜行バスで帰省する、それだけだった。

 まさかこんな目に遭うとは…


 事故… そうだ、誰かが突然、道路に…


 ああ

 息が苦しくなってきた。

 頭がボーッとしてきた。


 ?


 誰だ? たすけ…




…死んだみたいだ。


こんなところだろう。彼の心の声は。


今回は即死が少なくてよかった。7人分も映像に収めることができた。

毎回道路に飛び出すのは負担も大きいが、それだけの価値がある。

目が合った瞬間の何とも言えない表情。

彼らが最後に見たのはビデオを構えた私の姿だ。


誰か来る前に離れよう。




* * * * *




「先輩、遺体の照合終わりました」


「全員見つかったのか?」


「いえ、ひとり乗客名簿に載ってない男性がいまして」


「じゃあ事故の相手側だろ」


「離れたところに飛ばされてましたんで、おそらく…」


「その男とぶつかってバスは崖から落ちた、と。で、どこの誰だったんだ?」


「わからないんですよ。体は潰れてて、身元が判るような所持品も一切なくて。ただ、そばにビデオカメラが落ちてたそうで…」


「何か映ってたか?」


「それが、事故直後の現場が映されてまして… 一体誰が撮ったのか…」


「そりゃあ、その男だろ」


「先輩、適当すぎませんか? その男性の遺体の様子も映されてたんですよ。『これは駄目だ、即死だ』って音声まで入ってます」

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観察者 Kei @Keitlyn

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