第14話 執着

俺は宅配便の人になりすまして、彼女の家に押しかけた。もちろんちゃんとアルバイトの雇用場所を探して、好機を狙っただけ、ただそれだけだ。今まで何かに夢中になったことのない自分は、どうしてこうまでして彼女に執着するのか分からなかった。でもこれだけは言える。

俺は彼女と続きがしたかった。

あわよくば、もう一度付き合えたら。静香と別れられたらどんなに良いことかと思った。静香は自分じゃなくて兄さんにしか目がない。俺はただの置き物だ。行為なんて片手で数えるほどしかしていない。

インターホンを鳴らすと、彼女がいた。年を重ねてさらに綺麗になっていて、身体が熱くなった。

「じ、仁…??」

俺は段ボールを床にドサッと落とした。

「明菜………!!」

今すぐにでも抱きしめたかった。愛おしい彼女。俺は彼女の女っぽい香りが好きで、香水も彼女の匂いに近づけられるように、桃の香りのものばかりつけていた。そのくらい愛していた。

玄関に置いてある他の男とのツーショット写真を見ても、俺の気持ちは何も揺るがなかった。だけど、彼女は俺のことが嫌いなはずだ。彼女のほうから振ってきたから。

でも俺らはこの日、身体の関係を結んでしまったのだ。

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