ドリーム・トキソプラズマ

リュウ

第1話 ドリーム・トキソプラズマ

 僕は、モルグに居た。

 教授の呼び出しだった。

「君に是非、見せたいものがある」そう言っていた。


 部屋に着くと教授がこっちに来るようにと手招きした。

 椅子を出してくれて、僕はそれに座った。


 教授は、いきなり講義を始めるようだ。

 僕は、言葉を聞き逃さないように博士に集中する。


「悪性新生物、心疾患、老衰、脳血管疾患、肺炎、不慮の事故、自殺……

 死因は、色々だ。

 大きく分けると、病死や自然死、不慮の事故死、不詳の外因死だ」


「この死因の分け方が、本当の死因を見えなくしている」


「本当の……死因?」



「最近は、事故や犯罪による事が多いのだよ。

 事故は、判断ミスや反応時間が遅いことで起こっている。

 それだけでなく、自分から死にに行っているヤツも多い

 無謀な行動だな。

 ストリートファイトや薬や高いところに登ったりしている。

 まるで、自殺志願者のようにな」


「何が原因だと思う?」


「AIに仕事を奪われた人たちがストレスをため込んだためだと」


「格差が縮まらない閉塞感が、やる気を無くしたり、暴力を振るったりして、結果、死に至っているということか」


「そうじゃないですかね」


「この電子顕微鏡を見てくれ」


 僕は、顕微鏡を覗き込む。

 そこには、弓形のくねくねしたモノがうごめく。


「これは、なんですか?」


「見つけたんだ。検死体から採取したものだ。

 新鮮な死体にしかいないんだ。

 なんだと思う?」


 僕は、わからないと首を振った。


「寄生虫だよ」


「きっ寄生虫?」


「今では、滅多に聞かない単語かもしれないけど、無くなってはいない。

 昔からあるんだ……常に宿主を求めている。

 新しい宿主に移るためにはどうする?」

「新しい宿主に接触する」

「そうだ。新しい宿主に食べられればいい。

 人を食べることを禁止されているから、食べられるのはないかな。

 じゃぁ、どうする。

 事故とかに会って、体液をぶちまけるんだ。

 そうすれば、新しい宿主の粘膜から侵入できる。

 新しい宿主に移るためなら、宿主を殺すこともできるのだ。

 こいつは、宿主の脳を操ることができる。

 反応時間を遅らせたり、危険を恐れなくすることもできる。

 よく、道の真ん中に突っ立っていて、車にひかれたりするヤツが居るだろ。

 クラクションを鳴らしていてもどかないヤツ」


 楽しそうにしゃべる博士が気味悪くなっていた。

 

「私は、これをドリーム・トキソプラズマと名付けた。

 新発見だぁ。

 まだ、誰も……誰も発見していない

 これで、私の夢が叶うのだぁ!」

 

 博士は、僕の肩を力強く掴んだ。


「まだ、データが足りなくてな」


 博士は、僕の首に噛り付いた。

 僕は渾身の力を振り絞り、博士を突き飛ばした。


 博士は、そのまま動きを止めていた。

 目をかっと見開き、口を大きく開けていた。


 死んだのだ。


 それで、新しい宿主を探して、博士を操ったのか?


 今、僕の体の中に居るのか?


 僕は、部屋に鍵をかけると、ガスバーナーに火を点けた。


 この部屋から、出してはいけないと……。


 部屋に広がる炎を見ながら、呟いていた。


「僕は、誰に選ばれたのだろう、ここに来るようにと」

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ドリーム・トキソプラズマ リュウ @ryu_labo

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