「絡みつく影」
人一
「絡みつく影」
「あ〜、なんか面白いことないかな……」
『動画投稿サイトでデビューするからお前も来ないか?』
「本気か?そんなん乗るわけないだろ。」
……過去の自分を殴ってやりたい。
あの日断った友人は、1年も経たないうちに投稿サイトで指折りの人気者になっていた。
あいつなんて俺がいないと、何もできなかったクセにもう手の届かないところに行ってしまった。
対する俺は、万年コンビニバイトだ。
あいつの成功を祝ってやりたいが……俺はそこまでできた人間ではないらしい。
本当に嫉妬や妬みで狂いそうだった。
……あいつの顔も、見れない日々が続いたとある日。
SNSで『簡単!誰でも出来る呪い10選!』なんてサイトを見つけた。
何気なく開くと、タイトルの通り誰もが知る呪術が載っていた。
その中で一際目をひいたのは、白装束を着た女性が暗い森の中で何かをしている写真だった。
「丑の刻参り?必要なものは人形とハンマーと大きめの釘だけか……
いや、別に試そうって訳じゃないしな。」
そう言って、目を逸らすようにサイトを閉じた。
数日後俺の目の前には、簡素な人形・ハンマー・8寸釘があった。
「買ってしまった……いや、こんなんお遊びだろうし、本当に何か起こる訳ないしな。」
そして、少しの高揚感を覚えながら例のサイトを開いて手順を確認した。
1、丑三つ時(午前3時前)に行うこと。
2、誰にも見られないようにすること。
3、呪いたい相手の顔をしっかり思い浮かべながら、必ず人形の胸に釘を打ち込むこと。
4、呪いたい相手に変化があるまで人形はその場に放置すること。
「……丑の刻参りってこんな感じなのか。それにしても、随分丁寧に書かれててありがたいな。」
スマホをチラリと見ると時間は0時半過ぎだった。
「今から出ればちょうどいいくらいの時間になるな。」
そして俺は道具をカバンに詰め込み出発した。
しばらく車を走らせて到着したのは、錆びた鳥居の目立つ寂れた神社だった。
「よし……ここなら大丈夫だろ。」
スマホを見ると午前2時を回ったところだった。
人目を気にしながら小走りで、カバンを持って一際大きな木の前に立った。
人形を木に押し付けて釘をあてがう。
そしてあの"友人"の顔をしっかり思い浮かべながら、何度も何度も釘を打ち付けた。
――カン、カン、カン、カン……
人形がしっかりと木に固定されるまで叩いた後、気持ちがいくらかスッキリしたので止めた。
あいつがどんな反応してくれるか想像するだけで、口角が引き攣るように上がってしまう。
……あの儀式の日から数日が経った。
だが、あいつは今日も元気に動画を投稿している。
「やっぱりガセネタ掴んだだけか……」
正直ガッカリはしたが、どこか安心感も感じていた。
「今からでも、土下座すれば雑用でもやらせてくれるかな……」
ふと頭をよぎった考えからスマホに手をかけた。
その瞬間――
胸に、なにかが、刺さるような感覚と同時に身を割くような激痛に襲われた。
1度だけでなく、何度も何度も深く、奥へ奥へと沈みこんでいく異物の感触。
意識が途切れる最中……
――カン、カン、カン、カン…………
そんな音が確かに響いていた。
とある配信者がニュースをつけると、たまたま地元のニュースがやっていた。
『――市の〇〇アパートにて男性が死亡しているのが発見されました。その胸にはぽっかりと穴が空いていたようです。
警察は事件と事故の両面で捜査を進めているが、原因は未だ不明のままです。』
変なニュースもあるもんだ。
久しぶりに地元を見て友人の顔が思い浮かんだ。「そういえば……あいつ元気かな。」
そんな思いで、連絡するも繋がることは無かった。
「絡みつく影」 人一 @hitoHito93
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