旅立ちの時

お迎えに上がりました

「こんばんは。お迎えに上がりました」

　あなたの目の前にその男は現れました。

　あなたはゆっくりとベットから身を起こします。

　長身瘦躯に銀髪、真っ赤な瞳。黒スーツに黒ネクタイ。

　初めて見る男です。

　あなたはその男が誰だかすぐに分かりました。

「とうとう来たのね」あなたはつぶやきます。

　あなたは男が黙って頷くのを見ました。

　そして……無表情だった男はあなたに向かって微笑みました。

「心の準備は出来ているようですね」

　あなたはこれからこの男と長い旅に出るようです。

　覚悟は出来ているのしょうか。あなたに心残りはないのでしょうか。

　あなたは脳裏にさまざまな思い出が浮かぶのを感じました。

　家族との楽しかった時間。　つらかった治療の日々。

　そして来るべき時が来たのです。

　あなたはご両親に会えることでしょう。

　可愛がっていた愛犬もあなたを待っています。

　あなたは旅立つのです。

「さあ、行きましょう……死神さん」

　あなたは男の冷たい手を取りました。