頼みごと(助けはしない)

 騒々しい購買から目的のご飯を奪取した僕はそのまま自販機で飲み物を眺めていた彼女の元へ向かう。「いとは何飲むの?」と尋ねられ「んー、」と悩む横顔がまぁ整っていらっしゃることの甚だしさでございまして。


 2のこともあり自販機の周囲に人が集っているエリアが展開されているのだが彼らはこれが分かっているのだろうか?ハリウッドスターが来た空港みたいになってるよここ。


「ごめん、戻った」


「おかえり、伊都イト。目的のものは買えた?」


「買えたよ」


 ぼーっとレモンスカッシュと紅茶に目線を行き来させている彼女に話しかけると急にぱぁっと笑みを見せる。それに後ろの群衆が若干ざわついたが後ろを気にしてても仕方が無いのでスルー。少し相手の頬を撫でると柔らかく笑みを浮かべたが途中で人前であることを思い出したのか嫌がるように身動ぎした。僕はまぁそうかと思いつつ彼女の隣の2人の男女に目を遣る。

あのまま屋上のドアでスタン入ってたらもうちょっとぶっ倒れてたら良かったのに。


「なんでついてきた?」


「まぁそんな事言うなよマイフレンド大親友


「えキモ」


「泣くよ????」


 無駄に顔がいいから適当なこと言ってても画になるのが余計腹が立つ。なんだこのイケメン。あと別にそんなクサいこと言うタイプじゃないでしょ普段。マイフレンド(自称)はだめなテンションっぽいので無視して織の隣でしゃんと立っている美少女に相対する。


「なんの御用ですか、剣道部部長?」


「……別に」


「なんもないこたないでしょ」


悠霞ゆうかが伊都君とご飯食べるって言うから、着いてきたの。」


「…それだけ?」


「…ん」


 立ち姿がまさに牡丹や梅を想像させるように真直ぐであり、触ると火傷をしそうな程に美麗としか言いようがない和風美人はまさしく高嶺の花であり、さらに武道に精通しているといえば男子どころか一部の女子が恋慕して止まない美少女、というかもはや美女とも言えるような、悠霞イケメンに付いてきた彼の恋人である女子生徒は白河旭しらかわあさひ


 剣道部部長かつ個人成績が全国出場であり、またその美貌も雑誌に取り上げられたレベルではあるのだが、彼女はうち《弊校》においてはその寡黙さでも有名であった。告白してきた男子生徒にたっぷり無言の空間を作り上げたうえ「……、あの」と告げるだけで泣きながらその男子生徒が逃げ出した、という話はそのたった一言を発すまでの時間がいかに長かったかをよく表している。


「え?いやあさひが「織ちゃんとご飯食べたいかも、」っていうから俺着いてきtぁ​──────」


 横にいた二枚目イケメンは軽々しく真実らしき何かを口に出しかけ恋人に結構荒々しく口を閉じさせられている。そのまま数メートル分引き摺られていった。


 なんでこの男顔はいいのに性格が残念なんだろう。ほんとに。自販機で紅茶とレモンスカッシュを購入して購買の袋に入れる間にカップルの談合言い聞かせは終わったらしく「俺、伊都とご飯食べたくてきた!!うん!!」とか言い出した。おもろ


「織。飲み物買ったから屋上戻ろうか」


「またわたしの目線読んだ?ちょっとこわいよそれ」


 欲しかった飲み物のどちらを飲むか迷っていた織は僕の「どっちも買ったから好きなの飲んでいいよ片方僕が飲むから」という無言のメッセージをちゃんと受け取ってくれたらしい。理解のある恋人ってすごい。


「ごめん、割と顔の方が雄弁に語るから可愛くて」


「……いこ、旭ちゃん」


「うん」


 誤魔化しに甘めの台詞を吐くと思ったより効いたのか、恥ずかしがって目線を外した彼女はその場にいた白河をこれ幸いと捕まえて中央階段の方に逃げていった。僕も一応それに続く。いい感じに女子衆が仲良くしてると後ろの群衆がザワつくんだよな。僕のなのでそういうのは無いですよー。


「お、俺なんで置いていかれるの?ねぇ!あ、っちょ、待ってしょう彩稀さつき!ちょ、助けてあさひっ、待って朔弥さやも来た終わった」


 男衆と友達たちの怨みと憎しみの報復と言う名の八つ当たり白川さんと姫宮さんと仲良くしやがってに揉みくちゃにされながら人波に消されていったマイフレンド(笑)を眺めながら屋上に戻った。







 ローストビーフのサンドイッチとかいうすごく値段が高そうなものが割とリーズナブルな値段で売ってあることや、料理をしているおじさんおばさんお兄さんお姉さんの人柄がいいこと、アレルギーなどの対応もしっかりしてあることもあり、この学校の購買は開校からずっと人気を博し続けている。


 そのローストビーフサンドイッチを齧りながら屋上の庭園の端でカップルのランチシーンを見せられる僕。バカ可哀想では?


「………わたしは恋人ではない、?」


 なぜ心を読めたのか的確に僕の考えを当ててきた彼女の頭を撫でる。さらさらの髪が質感のいい布のようで、頭頂部から手櫛を落として耳を擽れば肩を竦めて「や、めて」と言ってくる。


 もうこの子だけいたら僕の宇宙は完結するんだけどな、宇宙の半径3キロとかでいいよこの子とふたりなら。


悠霞ゆうか、頂戴」


「えぇ?うえー…、あっ」


 目の前のカップルはこっちのことなんてどうでもいいかのように従僕かれしの唐揚げを奪って満足げな皇女様かのじょがいらっしゃいます。イチャイチャしやがってよ(自分のことは棚に上げるとする)


 白河の方はたまに織と目を合わせてはニコッと笑顔を交わしているが、ほんとになんなんだ…?


 あまり得意ではないミルクティーを飲みながら校庭を見る。昼ご飯を終えた同級生どもがバレーの真似事や野外バスケコートで少人数ゲームをしているのが見える。


「んでさ、伊都」


「……」


「…、おーいマイフレンド」


「…、ほー」


「いとくん???」


「おっ、うめぇ」


「…、ごめん姫ちゃんこいつ呼んで」


「おまかせ、あれ」


 アンバランスな男女混合チームがほぼ全員男子のチームを翻弄しながらレイアップやワン・ツーを決めているバスケのゲームに夢中になっていると、


伊都イト、おきて、もうあさだよ、昨日あーんなに元気だっ…」


 変なことを僕の耳に囁いてくる小悪魔が若干1名来店。とりあえずめちゃくちゃ素早く口を塞ぐことで対応。むぐむぐいってるけど関係ない。してもいない事実を捏造するな。


「……なに?白瀬か白河がなんか話してた?あとなんかこの子の発言ヒトコトでも聞いた?殺す」


「……イヤナニモ」


「白河さんやっていいよ」


「………、なかよしでいいなぁ」


「あっ、あさひ!?!?」


 僕の腕の中でむぐむぐ言ってる美少女がにこにこ仕出した。悪戯成功してすごい嬉しがるやん100倍返ししないと。白河が欲求不満そうな声を出したのに喜んでるのもありそう。純情を弄ぶ儚い系美少女っているんだ。


「白河さんがむっつりなのは今に始まった話じゃないけどなんで僕が悪戯された?なんか話でもあったの?単にご飯食べに来るならもっと早く言いに来るもんなそういえば」


「…しばく」


「旭は落ち着いてねあとで竹刀でならやっていいと思うよ」


 木刀か真剣かを持ち出そうとする剣道部全国選手権プレイヤーこわい。殺意を僕の首筋あたりに飛ばす恋人を落ち着かせた白瀬ゆうかはコホン、と白々しい咳払いをすると、ようやっと本題を口にした。


「えー、春の遠足というか校外でのイベントやりたいですーって言ったら丸投げされちゃった☆たすけて☆」


「やだ☆」


 どうしてここまで僕の友人は問題をこう引っ張り出して挙句人に泣きつくのかとこめかみを押さえながらため息をつくのであった。もちろん「やだ☆」は満面の笑みで返したのだが。

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