スキル【生きる】―Dark side―

αβーアルファベーター

スキル《生きる》 ―Dark side―


第一部 ──祝福だと信じた日


生まれた瞬間、

額に蒼白い光が浮かび、

スキルウィンドウが開いた。


> 【スキル:《生きる》】

効果:死を拒絶する。




村人は喜び、

父は泣き、母は俺を抱きしめた。


「これでお前は永遠に生きられる」

当時の俺は、

それが祝福だと信じていた。



---


第二部 ──死ねないという地獄


十七の年、魔物が村を襲った。

炎に飲まれ、骨が焼ける匂いの中で、俺は剣を握ったが、

あっけなく胸を貫かれた。


……だが死ななかった。


血が溢れ、痛みが脳を灼いても、

心臓は動き続けた。


魔物は驚き、何度も斬りつけたが、

俺は倒れず、ただ悲鳴をあげ続けた。


それから何十年も、

俺は戦場を渡り歩いた。


仲間は老い、

死に、骨になり、土に還っていった。


俺だけが若いまま、死ねず、痛みだけを抱えて残った。


やがて、俺を知る者は誰もいなくなった。



---


第三部 ──終わらない戦い


百年後、俺は魔王の城で戦っていた。


それはもはや

「勝つための戦い」ではない。


倒れても倒れても立ち上がる俺を、

魔王は玩具のように弄んだ。


剣で切られ、腕をもがれ、頭蓋を砕かれても、肉は再生し、視界は戻った。


何度も心が折れた。


「誰か、殺してくれ……」と懇願しても、世界は聞き入れない。


スキルウィンドウは淡々と光り続ける。


> 《生きる》は発動中です。

停止条件:ありません。




そして気づく。


俺はもう、生きていない。


ただ、死ねないだけだ。


この永劫の戦いが終わる日は、決して来ない。


――スキル《生きる》。


それは祝福ではなく、

世界が俺に与えた罰だった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る