世界征服してみたけど、400年で飽きたので黒幕やめます ~みんな俺を探しているけど、ここだよとは言えません~
エリザベス
第1話 黒幕の憂鬱
この世界に転生したのは500年前。
日本とは違う、魔法とスキルが存在するファンタジー世界。
心が躍った。まるでRPGに入り込んだかのようなわくわくに俺は包み込まれていた。
この世界には、光、闇、火、風、土、雷、そして秩序の7つの属性が存在するといわれている。人間は持っている属性の魔法やスキルしか使えないとされた。
だが、転生した際に俺が獲得したのは、存在しないはずの第八の属性――虚数だった。
この世の裏側に干渉できる唯一の力。
だから俺は決めた。
――世界征服でもっすかなぁ~。
そう、軽いノリで決めてしまった。
今思えば、それは最悪の決断だった。
俺はそれから世界征服のロードマップを描いた。
世界征服とはなに? に対して俺が出した結論は世界の経済も政治も闇より支配することだった。
そのほうがかっこいいからだ。
いま思えば、中二病全開で死にたくなるが、当時の俺はそれはそれはわくわくしていた。
世界征服の第一歩に、俺は仮面をつけて、虚数という理不尽な力でこの世界にある裏組織を片っ端潰した。その残党を吸収して、『ナウル』という名を与えた。
そして、手に入れた裏組織の資金を、俺の前世の記憶、つまり日本の商品の開発・販売に注ぎ込んだ。
そして、商会を立ち上げて、地道にその販路を拡大させていった。
ちなみに商会の名前は『カンパニー』。そのままの意味だけど、この世界に英語は存在しないから、誰にもバレなかった。
『カンパニー』は日本の叡智のおかげで、一躍世界中の経済を支配するに至った。
裏の『ナウル』、表の『カンパニー』、俺の計画は着実に形になっていった。
だが、ことはそう簡単にいかなかった。
俺の次の目標は各国の政治を掌握することだった。
災害が発生した年で、『カンパニー』で各国に返しきれないほどの金を貸し付けて、発言力を高め、そして意に添わぬ者を『ナウル』で人知れずに屠ってもらった。
しかし、俺の意思に反して、各国の掌握は思ったより進まなかった。
その根源にあるのはこの世界を統べる『アストラ教』、いわゆる宗教だ。
人々は『アストラ教』の唯一神であるアストラを信仰し、その影響力は絶大だった。
『アストラ教』の最高司祭が選んだ王族が、各国の国王になるというまさに宗教が国を凌駕している体制が出来上がっていた。
俺は暗殺や借金をほのめかしても、結局各国は『アストラ教』のいいなりであった。
これで分かった。俺の敵は『アストラ教』だと。
俺は新興宗教である『イズエ教』を立ち上げた。由来は俺の前世の苗字である出江からだ。
思った通り、『イズエ教』は『アストラ教』を信仰している民衆から非難され、さらに『アストラ教』に圧力をかけられた各国に弾圧されていた。
そこから始まるのは『百年戦争』という、俺の『イズエ教』と既存勢力の『アストラ教』による権力の闘争。
世界は戦火に包まれた。
戦局は『アストラ教』最高司祭率いる連合軍と、俺率いる『ナウル』の全勢力に二分された。
数で劣っている俺の陣営は最初こそ押されていたが、資金面で潤沢な『カンパニー』の支援を受けることによって、敵はだんだんとジリ貧になっていった。
そして、激しい戦争によって、誕生した7つの特異点。
それは『ナウル』が戦力を拡大させるために拾った孤児であった。
この世界にまれに存在する第七の属性――秩序。
それを持った7人の子供が戦争の盤面を一変させた。
そこから始まったのは一方的な蹂躙だった。
俺はついに連合軍を壊滅に追いやった。
だが、そこで現れたのは『アストラ教』最高司祭――ナズル・レイという女性だった。
彼女もなんと秩序の属性を持ち、しかもこの世の理に干渉する権能を持っていた。
7つの特異点は彼女の前では敗北。
趨勢はまたもや変わってしまった。
だから、俺は意を決して、彼女に挑んだ。
その日の決闘は『神の再誕』と呼ばれていた。
死闘の末、俺は虚数の力でナズルを倒した。
だが、その代償、俺の虚数という力は人々に知れ渡ってしまった。
いや、むしろそれは好都合だったのかもしれない。
俺の力を目撃した人々は、俺こそ「真の神」として『イズエ教』を信仰し始めた。
そして、百年の戦争で衰退した各国は、勝者である『イズエ教』に従うようになった。
それから400年、俺は世界を闇より支配する黒幕として悠々自適に過ごしていたのだが……。
「飽きたぁぁぁぁあっ!!」
そう、俺は飽きてしまったんだ。
最初はよかった。わくわくしてた。
でもね? 400年もスローライフしてたらそりゃあくびも出るわな。
世界はものすごーく平和になって、『カンパニー』の資金援助で各国が発展し、『ナウル』が幅効かせているから、小悪党などが少なくなって治安もよくなっている。
まるでぬるま湯に浸かっているような気分だ。
俺だって学園に行って青春してぇ! 冒険者になって魔物と戦いてぇ!
好きな人とイチャイチャちゅーちゅーしたい!!
そう、俺も普通の人間と同じように、普通の人生を送りたいと思うようになった。
この瞬間、俺は悟ったんだ。
――黒幕をやめればよくない?
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