私の今一番の推し

🐉東雲 晴加🏔️

第一話 私の今一番の推し






 私は生粋のインドア派である。


 ユーチューブでチルい音楽を1日中流し、コーヒーを豆から淹れ、リビングをめちゃくちゃ居心地良くして、1日中リビングから出なくても平気なくらいインドア派だ。


 趣味といえばカフェを巡ったり、小さな雑貨店に一人で出かけたり。家にこもってお絵描きしたり。


 結婚して子どもができて、習い事とかしたい! と言い出したら自分で行って自分で帰ってこられる範囲のものをしてもらおうと思っていた。


 ところがどっこい(古い)、思うようにいかないのが人生である。


 喘息持ちで、インドア派の母に育てられたおかげで子ども達も立派なインドア派。

 喘息にいいだろうと習わせた水泳と幼稚園の延長の体操教室を子ども達には習わせていたが、持久走をやれば後ろから二番目の子ども達。走るフォームを見てもどう見てもボテボテで早く走れそうにない。縄跳びを飛ばせればひと目で「こりゃ飛べないわ」と思える飛び方。


 ……まあ、私自身が運動は嫌いなので仕方ないでしょ。蛙の子はカエルなんです。と思っていた。


 転機は幼稚園の体操教室を上の子が卒業し、下の子はまだ体操教室に在籍していたので上の子も連れて体操教室に通っていた。


 そこで体操教室の指導者に声をかけられたのだ、


「息子くん、暇してるなら知り合いの武道やってみない?」


 と。


 息子は争いごとが嫌いだ。力に物を言わせて言うことを聞かせようとする輩が嫌いだ。


 ただ、正義感は強かった。曲がったことも嫌いだった。

 そして母は運動はしたくないが戦隊モノが大好きで、アクションや殺陣を見るのは大好きだった。


 とりあえず見学だけでもどう? と言われて、長年お世話になっている体操教室の先生がいうなら……と興味本位で見に行った。


 そこは小学生から高校生までいる道場で、主には小中学生なのだけど、道着を来ていたら中学生以上は大人か子どもか区別がつかない。そして大人に見える高校生はめちゃくちゃ大きくて圧が凄い。


 夏の道場の熱気、飛び散る汗、響く気合。投げ技で床に打ち付けられたら揺れる床。


 テレビで観るアクションは編集されていてもちろん格好良く仕上がっているのですが、実物の熱気と床の揺れが胸の鼓動とリンクして、東雲親子は一気に引き込まれてしまいました。


 ともすれば、怖い! と思えるほどだったのですが、そんな気迫のこもった練習をしている小学生も高校生も、演武が終わるところっと笑顔に。


 そして子ども達にニコニコしながら「一緒にやってみない?」と声をかけてくれます。


 精神的に早熟だった息子は当時同級生との関係に悩んでおり、学校に気のおける友達がいない……と感じていました。

 なので全然知らない人達にニコニコ声をかけてもらったことが大変嬉しかったらしく、しかも学校ならちょっと失敗すれば笑われたのに、教えてくれた人達はみんな「頑張れば絶対に上手になるからね! うまいうまい!」と頑張っている姿を褒めてくれる。誰も自分を馬鹿にしない。


 家に帰って、息子の口から初めて習い事を自分から「やりたい、やらせて下さい」と言われました。


 この時にはもう親子で心囚われていて、息子の気持ちは痛いほど解ったし、何より自分からやりたいやらせて下さいと言ったその願いを叶えてあげたかった。


 ……しかし問題なのは我々は完全なインドア派だということ。


 当時体操教室とまだ水泳に通っており、その武道の修練の日と日程が被っていた。しかも下の子はまだ幼児。夫は単身赴任中。


 武道は他の習い事とはやはりちょっと違って、しかも全国大会で上位に入賞している選手を現在進行系で輩出している道場だったため、週二回の修練は正月以外基本休みなし。親は練習中完全付き添いという内容でした。


 保護者との付き合いも怖いな……と思っていた東雲はかなり迷いましたが、いつも人に譲ってばかりで自己肯定感の低い息子が自分からやりたいと言い出したものをやらせてあげたい……なおかつあんな特撮みたいな格好いいアクションがタダで週二回も目の前で見られる……!! という浅ましい思いが私の心を決めさせました(笑)


 続きます……!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る