救えなかった救難船

五來 小真

救えなかった救難船


 星間航行中のトラブルの救難信号を受けた。

 必死に全速力で救助に向かったが、運悪くその船はブラックホールに近かった。

 試しに近づくと、自分の船が緊急アラートを鳴り響かせた。

 やはり重力が、エンジン出力の限界を超えるエリアにまで行ってしまっている。

 既に救いようがないのだ。


 せめて最後を見届けようと、飲み込まれる船を見続けた。


 すまない、救助が遅れて。

 すまない、私が無力で。

 エンジンの出力が、もっと大きければ——。

 

 できうる限りの反省を、3周してもまだ船は飲み込まれていなかった。

 船内を拡大してみると、スローモーな乗組員が見えた。

 

 案外のんびりしている——?

 

 ——いや、そういえば聞いたことがある。

 光を飲み込むブラックホールは、時間の流れが遅くなるって。

 とすると、あれでも慌てているのか。

  

 ……。

 もしかして、この状況はまだまだ続くの?


 他に救助を待ってる船もある——。

 いつまで見続けるか、迷う気持ちが出始めていた。

 録画して倍速で見るのはどうだろう?

 ——いや、そういう問題ではないよな。

 これ以上見てると反省より別の気持ちの方が大きくなりそうで、現場を立ち去ることにした。


 それから2件の救助を終え、3件目の救助に向かう際にブラックホールの近くを通った。

 飲み込まれかけた船は、まだ船体の1/3を穴の外に残していた。

 

 <了>

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救えなかった救難船 五來 小真 @doug-bobson

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