第11話 『蛇と王様』

そして私は、この国に伝わる「昔話」に手を伸ばした。



『蛇と王様』



昔々あるところに、1人の王様がまだ王子様だった頃。

王子は、とても戦争にも強く、賢い方でしたが、毎日退屈で退屈でしょうがありませんでした。


ある日、王子様は趣味の狩りをしに、家来たちと森へ出かけました。


「よし。鳥を撃ち落としたぞ。」


そう言って撃ち落とした鳥を拾いに行こうとしましたが、その先は崖の麓で、王子様は崖の下まで降りて取りに行くことにしました。


「お前たちはここで待っていろ。」


家来を置いていき、慎重に崖の麓に降りる王子様。

すると、降りた先には大変美しい女性がいたのです。

王様は思わず、一目惚れしてしまいました。


その女性はこの森に住んでいるらしく、それから王様は毎日女性に逢いに行きました。

そして、やがて王様はその女性と一緒に暮らしたいと考えるようになったのです。


「私と一緒に暮らさないか。城へ来ないか。」


「いえ…私はそのようなことは叶わぬ身。こうやってお逢いできるだけで充分ですわ。」


「なぜそのようなことを…。」


王子様は納得いきませんでした。そこで、王子様はある日、無理やり女性を城へ連れて行こうとしたのです。


「おやめください!おやめください!!」


「なぜ断るのだ!!あなたも私のことを愛しているのだろう?」


「愛していますが!どうか、おやめください!!」


しかし、拒む女性を無視して、王子は女性を抱き上げて城へと走っていきました。


するとどうでしょう。みるみる女性の顔が蛇のようになっていくではありませんか。

そして森を出る頃には、女性は完全に蛇の姿になってしまったのです。


王子は泣きながら女性の名を呼びましたが、ついぞ人間の姿になることはありませんでした。


きっとあれは蛇の精だったのでしょう。


『蛇と王様』おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る