第8話 回想とゲームの仕様

私の彼氏は、不思議な人だった。



「グループワーク始めてくださーい。」


大学の課題で、グループで発表することになった時。


その課題は、与えられた文章を読んで自分で考えて、それをグループワークで発表の形にするものだった。


「皆どんな感じ?…じゃあ、1人ずつ発表していきますか!」



わりと目立つタイプの男子が聞く。


私も含め一人一人意見を言っていき、彼氏の番になった。


彼氏は、くそ真面目だった。


「ここはこう書いてあるからこうだろう。」


彼氏は、「読んで自分で考える系」の問題なのに本文に載っている言葉を直接抜き出していた。


また、資料作りの時も他の人より超細かくフォントや配置にこだわっていた。


私は割と大雑把だったので、それが非常に興味深く感じた。


しかし、周囲はそこまでこだわって作ろうと思っていない。授業は単位が取れればいい、程よく手を抜きたい、そんな人達が多いからだ。


周囲と彼の温度差が違いすぎて、なんかかわいそうになってきた。


「私も手伝います。」


それが彼氏との出会いだった。


授業が終わり、他のメンバーが帰った後も毎週1〜2時間残って、準備をした。


連絡先も交換して、授業外も集まって、2人で一生懸命考えた。


そうして迎えた発表の日。

彼は緊張していないように見えるが、緊張していたらしい。

元々淡々と話すタイプで、あまりそうは見えなかった。


私も発表をした。緊張して声が震えたが、せっかく彼と頑張ったのだから、動揺せず頑張ろうと思った。


発表は大成功だった。

先生から「今までにないくらい良い発表でした。」と褒められた。


彼氏の方を見ると、一見無表情だけど、少し口の端が笑っていた。


彼が嬉しそうで、私も思わず笑ってしまった。


「……っ!!」


急に脳内を駆け巡る記憶。

しかし、他の記憶は思い出せない。


「なんで他は思い出せないんだろう…?」


しばらく私は考えた後、一つの結論に辿り着いた。


「……ゲームの仕様だ。」


乙女ゲームにしろ他のゲームにしろ、大抵は主人公の回想シーンとは一度に解放されず、徐々に話されていくものである。


つまり、私の彼氏に関する記憶も、それと連動しているのではないだろうか。


何かの拍子に記憶を獲得しなければ、記憶が解放されないということかも。


「……。ゲームの仕様ってここまで反映されるんだ。」


転生しないと分からないものである。


しかし、少なくとも私には彼氏がいたし、その人がとても大切な存在であることも分かった。


「……早く元の世界に戻らないと。」


でも、おばあさまとおじいさまのこともあるから、ヘレヨンに物理的にしろ間接的にしろ一杯食わせてから帰りたいな。

とすればしばらくはこの城で情報調査を…。


そう思っていた矢先、先ほど光に包まれて消えた本があった場所に、新しい本が設置されていた。


「これは?」


思わず手に取る。

開いた私は、思わず凍りついた。


その本には、【今回の転生者】という項目があり、転生前の私の情報が記載されていたのだ。そのページにはイラストで転生前の外見が描かれていて、その横にも年齢、性格など事細かに綴られていた。


でもそれはどうでもよくて、問題は次のページだ。


文章とかはまだ一切ないのだが、その項目に私の彼氏としか思えないイラストが載っていたのである。


……私の彼氏も転生してるってこと!!??

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