第5話 わずかな歪み

馬車の中でしきりに王子が話しかけてくるが、適当に受け流す。


そんなやつだったっけ。


まさか、『囚われのヴィヨレ』の王子、ヘレヨンがこんな最低な奴だったなんて。


少なくとも、私がプレイしてたゲーム内では、こんな奴じゃなかった。


確かにヤンデレだけど、ザ・優男みたいな物腰で、突然人殺すような情緒不安定な奴じゃなかった。


「何でだろう…?」


「ん?何か言ったかな?」


ヘレヨンは私に話しかけられたと思って嬉しそうにしている。


「……。お城にはもう着くの?」


「あぁ。もうすぐそこだよ。」


「そう。」


この後私は監禁される。牢屋に入れられる。

そう思ったら震えが止まらない。


でも、平常心を装わないと。

ヤンデレゲームにおいてヒロインが恐怖するのは相手を怒らせるフラグでしかない。


それに、おばあさまとおじいさまの仇を取らないと。取り乱すなんてもっての外だわ。


そんなことを思い巡らせているうち、城へついた。


私は降ろされた。


あぁ、牢屋に入れられる。


そして、鉄格子の立派な牢屋に案内された。


だけだった。


「あ、ここ牢屋ね。他にも案内しないとね。」


「え?」


ストーリーでは確か牢屋に監禁されるはず。


「…何でですか。」


「え?部屋の案内はしないと。僕の案内じゃ嫌だった?これから君住むんでしょ?」


「………。入れないんですか。牢屋、とか。」


「何でよ。君は僕のお嫁さんでしょう?ここでは好きに過ごしなよ。あ、城の外に出るのは禁止だけど。」


「………。」


勝ち目は、ある。


「…そうですよね!では、続きを案内してください。」


絶対に、私が勝つ。

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