13
「って、全部、卵割っちゃったよ! ちゃんと止めてよ!」
「ああ、悪い。ボケだったのか。楽しんでるのかと思った」
「ボケてないっ、……まあ、うん、楽しんではいた」
「だろ」
「ふふふふ」
急に、ユキ姉が笑った。
「何だよ?」
「いいイチャイチャ、見せてもらったよ」
「いや、どこがいちゃいちゃなんだよ」
「ふふふ。酒のサカナにちょうどいいってことだよ」
そう言うと、ユキ姉は酒を飲んだ。ごくごく。
「って、ユキ姉、いつのまに二本目に突入したんだよ」
「ノンアルビールだよ」
「いや、そういうことじゃなくてさ、酒、あんまり飲むと、体壊すぞ」
「お前は分かってないねえ、酒は人生の道しるべだよ」
「なんだよ、その五十年来の大酒飲みのおっさんの、訳の分からない格言みたいなのは。そもそもユキ姉、酒飲める年齢になって、まだ一年かそこらだろ。呑まれすぎじゃね?」
「一年か……」
ユキ姉は、何やらしんみりと言った。
「ユキ姉?」
つられて、僕も真剣な声になる。
「私さ、お酒を飲むようになってから、人生が変わったんだ。でっかい夢がさ、一つできたんだ」
「夢? 将来居酒屋を開きたいとか」
「そんなんじゃないよ。居酒屋は、べろべろに酔っぱらうための場所だよ」
「べろべろはダメだろ。で、どんな夢だよ」
「それには、ひかりちゃんが必要なんだけれどね」
「ひかりが?」
カシャカシャカ……。
「私?」
ボウルに入った大量の卵を箸でかき回していたひかりが手を止める。
「うん。ひかりちゃんがさ、将来お酒を飲める年齢になってさ、私と一緒にお酒を楽しんで飲んでくれるようになってさ、そのとき、こう言ってほしいんだよ。こう、酒で満たされたグラスを私に差し出しながらさ……
(※がやがやとした居酒屋の音。酒のCMっぽいBGM)
(ひかりの声で)
♪ もっと飲んじゃお~。
♪ ぐびっといっちゃお~。
……ふわあああ。いい! ひかりちゃん、いい笑顔! 無限に飲めそう~」
「いや、無限は、ダメだろ。ユキ姉が体壊したら、ひかりのせいになるだろ」
確かに、想像すると何かいい感じだが。
「はあん? まあ、そうか。じゃあ、ひかりちゃんといい酒飲むだけにしとこかな。ウシシシシシ」
ウ、ウシ……? なんのキャラだ? もう意味分からん。さすが酔っぱらい。ノンアルだけど。
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