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「もしもし。今どこにいるの?」

「もしもし、俺。今? 家の前だけど。うん、まあ、そういうことだけど」


「え? 嘘、私、鍵持ってないよ。忘れちゃったよ」

「え? いや、俺は持ってるけど、でもさ」


 僕とひかりの家は、隣同士。お互い、家の前で電話をしている。内容はかぶっているけれど、別々の相手とだ。

 ひかりは、ひかりのお母さんに電話をかけた。

 僕は、僕の母さんから電話が来た。

 ひかりのお母さんと僕の母さんは、同じ場所にいる。駅前のカラオケ店。他にも数名誰かいるようで、母さんの声の後ろに曲と歌声が流れている。

『一緒に帰って来たんなら、時間延長でってことでいいでしょ? じゃあね、紳士でいなさいよお』

「え、いや、あのさ、ちょっ……」

 母さんは電話を切った。

 ひかりはまだ電話をしている。

「う、うん。分かった。じゃあ、そうする。……あ、はいっ、大丈夫です。はい、はい、じゃあ」

 ひかりが電話を切った。

「ひかりのお母さん、なんて言ってた?」

「もうすぐ町内会のカラオケ大会があるから、みんなで練習することになったんだって。夜遅くまでやるらしいよ。うち、お父さんも仕事で今日遅くなるし。なんで鍵忘れるの? だって」

「うちは父親、出張だよ」

「隣の家にお邪魔してなさいって。おばさんも、ゆっくりしていていいからねって、言ってくれた。夕食も食べていいって。食材、好きに使っていいそうだよ」

「夕食って……、いつまでカラオケする気だよ!」

「さあ。みなさん、かなり気合い入ってるみたいだから……、くしゅっ」

「あれ、もしかして雨に当たって風邪引いたか?」

「そこまでではないと思うけど」

「とりあえず家入ろうぜ。着替え貸してやるから、シャワーでも浴びろよ」

「うん、そうする。くしゅ」

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