第12話 ヤマモト牧場の草刈り③

 夜12時頃にサービスタイムが終わりホテルを出る。美咲は「希実に順番が違っても結果は変わらないんだからねって言われて、実は少し焦ってたんだ。だけど、今日の悠真、凄く逞しかったよ。本当に大好き! 」と話してくれ満足気な表情。僕は背中の痛さを気にしつつ美咲を家に送り届け、自宅に帰った。


 美咲と愛を確かめ合った翌朝、僕は身体の底から湧き上がるような活力を感じていた。昨日までの疲労は消え、まるで全身の細胞が活性化したかのように体が軽い。昨晩の情熱的な夜の影響もあるだろうが、それだけではない、と僕は悟った。

 ​「…これ、やっぱりカリ梅のせいか」

 ​口にした瞬間に脳が覚醒し、身体に熱が満ちたあの感覚。あれは単なる覚醒作用ではなく、疲労どころか、人間の肉体そのものを一時的に強化させるような効果だったのかもしれない。


 ​昨夜、美咲も「頭がスッキリして元気になった」と言っていたのが、何よりの証拠だ。異世界では「疲労魔力回復アイテム」として売りたいと考えているが、この日本側では、それは一種の高性能ドーピング剤として機能している。悠真も異世界転移したカリ梅を食べ過ぎたと後悔した。日本では異世界転移カリ梅を小袋を2,000円位にして売れば食べ過ぎないだろうなと考えながら、草刈り最終日のヤマモト牧場へトラックを走らせた。


 牧場に到着すると、昨日と同じように和央さんの店からの派遺された作業員たちと、現場の責任者として好夫さん。牧場側の人員が集合していた。

 今日は、二日目まで刈りきれなかった残りの場所の草刈りと、刈った草を集めて所定の場所に運ぶのが主なので初日の半分位の人数だ。


 昨日は二人で作業した現場の奥を一人で担当するように好夫さんに言われ現場に向かう。

 草を刈り終わり好夫さんにトランシーバーで連絡し現場の確認を頼み、木陰で小休止する。

 昨日、カリ梅を食べ過ぎたせいか疲労感がないので麦茶で水分補給するだけで十分だ。

 やがて、軽トラックに乗って好夫さんが確認に来た。

「ここはOKだ。草は刈りっぱなしでいいから、俺と一緒に他の刈った草の片付けをやってくれ」と好夫さんの軽トラックの後について悠真もトラックを走らせる。好夫さんの軽トラックに道沿いの草を集めて載せる。


 指定の場所に草を集め、三日間のヤマモト牧場の草刈りが終わった。作業者もそれぞれ帰宅の準備をしている。

 好夫さんは「お疲れさん。三日間ありがとう」と悠真たちに言って一足先に帰って行った。


 皆なもそれぞれ帰って行く。悠真も帰り支度をしているとスマートフォンに電話がかかってきた。

 一瞬、またリリエッタからと思ったら昨日、一緒に作業した高志さんからだった。

「もしもし、長森です。高志さんどうかしましたか?」と電話に出ると

「もしもし、悠真君。まだヤマモト牧場にいる?。他の人に頼もう思ったけど、もうヤマモト牧場にいないと言われちゃって」

「僕はまだヤマモト牧場にいますけど…」と返答する。

「悪いけど、昨日二人で作業した場所に刈払機の交換用バッテリーを忘れてきたかもしれないんだ。充電しようとしたら1個見つからなくて。ちょっとあの辺り見てくきてくれないか」と探しものを頼まれる。


「良いですよ。まだ陽が明るいから見てきます」と高志さんに答え、僕はトラックに乗り昨日の場所へ向かった。

 トラックを道端に止め、歩いて昨日の場所を見て回るがバッテリーは無い。


 もしかして、昨日休んだ所かと思い出して行ってみるとバッテリーは木の陰で見付かった。人騒がせなと思いつつ、見つかった事を高志さんに連絡するため、スマートフォンを取り出し電話しようとした瞬間、僕は周りの空気が変わったのを感じた。やたら生臭い匂いが漂い始め、何かが木にぶつかるような音が近付いてきた。

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