第11話 ヤマモト牧場の草刈り②
草刈り作業二日目の早朝。悠真はトラックの荷台に積んだ自走式草刈り機と、いつものエンジン式刈払機を携え、「ヤマモト牧場」へと向かっていた。異世界転移の検証実験をしようとカリ梅も大袋で持ってきている。
現場に到着し、牧場の敷地から少し離れた土地を担当することになり、作業責任者の好夫さんからトランシーバーを連絡用に渡される。
今日は顔見知りの高志さんと一緒に作業する。担当現場は牧場の奥まった場所でツタ類が多い。ツタは刈払機泣かせの草で、回転する刃に絡まりやすくてなかなか作業が捗らない。しばらく作業していると、草むらの中に蜂の巣があるようでブンブンと蜂が飛んでいる。もう慣れたもので慌てず蜂用の殺虫剤を撒いて様子を見る。
丁度、小休止のタイミングだったので離れた木陰で休む。汗ばんだ身体に木々の間を吹き抜ける風が心地よい。バッグの中の大袋に入っているカリ梅を小袋だけ、昨日のような転移が出来るか頭の中で念じてみると、転移は成功してポケットの中に小袋のカリ梅が2つ移動していた。僕は嬉しくなり思わず2袋食べてしまい「なんだか急に、頭がスッキリしたと思ったら、すんげぇ酸っぱい!口の中が爆発したみたいだ!」と昨日の作業者のように叫んでしまった。調子に乗ってもう一度やると今度も成功した。
殺虫剤が効いたのか蜂はいなくなったが一応、好夫さんに連絡すると、そこは後回しで違う場所の作業を指示されまた移動する。その後はトラブルもなく時間まで作業出来た。
自走式草刈り機が刈れる場所は終わったということで、和央さんの店に機械を返しに行き自宅へ戻る。
今日も姪の結衣が出迎えてくれると思い「ただいまー」と玄関のドアを開けたがお出迎えは無く、居間の方から「おかえり」と母と妹の希実の声が聞こえた。
居間に行くと、結衣はソファーですやすや寝ていた。
「ごめんね。今日は夕ご飯作るの面倒になって3人で外食してきたの」
「そうなんだ。じゃコンビニにでも行って来るよ」と家を出ようとすると希実が
「もう相変わらずお兄ちゃんは気が利かないな。美咲を夕ご飯に誘いなさいよ」と言うので、(ちょっと前、ご両親と一緒に食べたんだけど…と思いつつ)夕ご飯のお誘いメールを送ると意外にも美咲から直ぐに「OK」と返信メールが届いた。
希実に返信メールを見せると「私が美咲に返信してお店も探しとくから、お兄ちゃんはシャワーで身体を綺麗にして、小ぎれいな服に着替えて」と風呂に追い立てられる。
世話好き(兄思い?)の妹の指示に従い、シャワーを浴び初夏らしい服に着替える。
着替えて居間に戻ると「隣町のダイニングレストランにしたからね。美咲は美味亭で待ってるっていうから」とダイニングレストランの地図が表示されてるスマートフォンを渡され追い立てられるように迎えに行く。
美咲を迎えに行くと、いつもはTシャツとジーパンというラフな格好が多いが、今日はスカートを穿いていてメイクもばっちりしている。車内では急に誘ったことを謝ると、なぜか美咲も謝るという奇妙な状況になった。雰囲気が良いというクチコミの隣町のダイニングレストランに着き、美咲と和食料理を食べながら、会話の話題に異世界の話は当然伏せ、草刈り作業の時、蜂の巣が合った事や、草刈りばかりしていたら家で「草刈正雄」と呼ばれた話をすると、美咲の兄の好夫さんも同じように奥さんにそう呼ばれているという。どうやら草刈り作業者のあるあるネタらしく全国にたくさんの「草刈正雄」さんがいるみたいだ。
寂れた商店街の将来についても語り合う。
美咲は観光課職員として、商店街のテコ入れに協力したいと熱意を見せる。悠真は彼女の地元愛に触れ、改めて異世界転移を上手く使って店を立て直す決意を固める。
お腹もふくれ、明日も仕事があるしそろそろ店を出ようかというタイミングで美咲がスマートフォンを取り出し写真を悠真に見せてきた。
「今日、仕事で駅に行って、ちょっと「ながもり」のお店を覗いたら希実と結衣ちゃんがいたからお店に寄ってみたの」と
そこには、店内の「
「結衣ちゃんが可愛いから一杯撮っちゃった。それで、希実に私も早く可愛い子供が欲しいなって冗談を言ったら、希実が悠真と私の関係を心配してくれてね。それで二人きりで食事でもして本音を話しなさいってアドバイスされて。後は私に任せといてと言ってくれたから」
急に美咲を食事に誘えと言うから何かあると思ったが...兄と友人思いの妹に感謝しつつ会計をして店を出る。
車に乗ると、味見して貰おうと持ってきた異世界転移したカリ梅を美咲に口直しに食べてもらう。僕も一緒に食べ、「頭がスッキリしたと思ったら、すごい酸っぱい!口の中が爆発したみたい!」と二人で叫ぶ。
美咲が「このカリ梅はお店の新製品?」と聞いてきたので
「なんかハマっちゃって店のオリジナル商品に出来ないかと思ってるんだ」と答える。
「確かに初めて食べてびっくりする味だけどクセになるかも。何だか頭がスッキリして元気になった」と美咲が感想を言う。
「僕なんか今食べたので今日は3個目なんだ。」
「いくらなんでも食べ過ぎじゃないかな。高血圧になるよ」と美咲が心配する。
「美咲も言う通り頭はスッキリしたんだけど、身体もすごく熱くなってきた」
「ほらー、やっぱり食べ過ぎたんじゃないの」と帰り道の信号で止まった車内でイチャコラしていると美咲の顔が悠真に近づいてくる。
悠真は間近に美咲を見て思わずキスをしてしまった。
信号が青に変わり、美咲は慌てて席に戻り、悠真は車を発進させる。
美咲は少しむくれて「もう、私をからかって」と言ったが、、僕は先ほどのキスで身体にスイッチが入ったような全身が熱を帯びた感じで欲望が抑えられない。いつにない真剣な表情で美咲をホテルに誘ってみる。美咲が「イヤッ」と言わないのを言い訳にして、国道沿いにあるホテルに入り、僕は美咲と久しぶりに身体を重ね合い、愛を全身で確かめあったのだった。
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