第10話 召喚陣(コール)①

 玄関のドアを開け「ただいま」と言うと「おじしゃん おかえりなしゃい」と可愛いお出迎えがあった。疲れた顔が思わずほころぶ。3歳になる姪の「結衣ゆい」が来ていた。

「ただいま」と返事をしつつ、結衣を抱っこして居間に行くと、結衣の母親で妹の希実から「お帰り 早かったね」と言われる。

「ただいま、店番ありがとう」と今日のお礼を言っておく。


「母さんは?」と聞くと

「結衣がバァバのご飯が食べたいって言ったら張り切っちゃって、ご馳走作るって」

「お母さんがお兄ちゃんが最近「草刈正雄」になったって言って、さっきまで二人で大笑いしてたんだ。本当に草刈りしてるから日に焼けて顔が真っ黒だね」

「最近、美咲とは上手く行ってる?。悲しませたりしてないでしょうね」と希実が言うのは、美咲とは幼なじみで高校のクラスメイトだったからだ。

「一昨日は「美味亭」でご両親と一緒に夕飯食べたし、メールとかもちゃんと返事してるよ」と答える。

「ならいいけど、私が言うのも変だけど早く結婚してあげなよ」と余計な世話をやかれた。


「店の方はどうだった」と聞くと

「お母さんが旬の果物が売れそうって言うから知り合いのブルーベリー農園に頼んで20パック仕入れて、ついでにスモモも勧められたから同じ数量仕入れたんだよ」と当たり前のごとく言う。

「そんなに仕入れて売れるわけないだろう」とつい大声が出てしまった。

「何大きな声出してるんだい。結衣が驚くだろう」と料理を運びながら母が入ってきた。


「看板娘が二人いて売れない訳ないっしょ」

「ないっしょ」の所を母娘でハモる。

「お母さんの予想が大的中で、たまたま団体のお客さんが店に来てくれてね。旬にはまだ早いみたいで珍しがって買ってくれたから完売。結衣は、はしゃぎ疲れて「召喚陣コール」で寝てただけなんだけど店の前を通る人たちが、寝てる結衣を見て「可愛い」って言って、店内まで来てくれて色々買ってくれたんだよねー」

「ねー」の所でまたハモる。

「いつも結衣が召喚陣コールでお昼寝してると、なぜかお客さんが店にきてくれるのよね」不思議そうに希実が言う。

 「召喚陣コール」で寝ていた結衣が、思いがけなく店にとって福の神になっていたのだ。


 10年前にこの町を舞台したアニメが放映され、熱心なファンが聖地巡礼と称しこの町を訪れたらしい。そもそも僕は当時、大学生でこの町にはいなかったしアニメも未視聴だ。まだ高校生だった希実がいち早く店にアニメのキャラクターグッズを仕入れることを提案し、販売した事でそれ目当てのファンと店とで交流が生まれた。その中のファンの一人が店内の空きスペースにアニメに出てきた召喚陣を白地のシートに描いて敷き、アニメの登場キャラクターのぬいぐるみやグッズなどを飾りつけをした。そこを設定上の名称の「召喚陣コール」と呼んで今もそのまま保存しているのだ。


「へー、さすがだな」と気の無い返事をすると

 母が「結衣が次の看板娘と呼ばれるまで、おじさんに頑張って店を盛り上げて貰わないとね」と結衣に話しかけて夕ご飯となった。

 夕ご飯を食べて「おうちに帰りたい」とグズり始めた結衣を抱っこして希実の車まで運ぶ。

「明日も店頼むよ。結衣もおやすみ。じゃ気をつけて帰れよ」と母娘を見送って、家に入る。

 さすがに疲れてたので風呂に入ってすぐに寝てしまった。


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