第5話 夢の中で明かされる秘密

 夢の中で僕は、真っ白な空間に立っていた。足元には何も無く、ただ茫漠とした光が僕を包んでいる。目の前に、老人のような、若者のような、曖昧な姿の存在が浮かび上がった。その声は、性別も年齢も超えた、深く響く音だった。

「ようこそ、この狭間へ。悠真、お前の力がなければ、こうして直接話しかけることはできなかった」

 突然のことに驚き、僕は言葉を失う。誰だ、何なんだ、と問おうとした瞬間、その存在は先んじて語り始めた。


「私はこの世界の、いや、お前が認識している世界の、より根源的な存在だ。いわば、世界のシステムそのものと言えるだろう。ここ数年、お前がいる世界の隣、つまりお前が『異世界』と呼んでいる世界との境界が、なぜか綻び始めている。急ぎ修繕を試みているが、なかなかうまくいかない」

 世界の境界が綻びる?異世界?頭が混乱する。その存在は僕の困惑を見透かしたように話を続けた。


「お前が店を構えるあの場所、そこにも大きな『裂け目』ができてしまった。通常、裂け目から建物が丸ごと移動することなどありえない。しかし、お前は違った。お前には、隠された能力があるようだ。世界と世界を結びつけ、物理的な障壁を越える力。その力がお前を、そして店を、裂け目の向こう側へと引き寄せたのだ」


 自分の知らない力。店が異世界に転移した理由。すべてが急に目の前に突きつけられ、僕は呼吸を忘れるほど驚いた。

「この能力は、お前の意識とは無関係に発動する。まだ不安定で、いつ、どこで、どれくらいの規模で発動するかは予測がつかない。しかし、お前が店を転移できたのはまさにその能力が最大限に発揮された結果だ。そして、その能力こそが、私がお前に期待する『修繕の鍵』となる」


 世界のシステムだという存在は、悠真の能力を「鍵」と呼んだ。それは一体どういう意味なのか。混乱しながらも、問いかける。「僕が何をすればいいんですか?」

「安心しろ。お前はただ、普段通りに過ごしていればいい。お前の隠された能力は、徐々に世界と世界の結びつきを強め、ひいては裂け目を修復する方向に働く。お前自身が気づかなくても、日々の行動が修繕の手助けになるのだ。」

「ただし、この能力は同時に危険もはらんでいる。お前の行動によって、異世界から予期せぬ影響がこちら側へ流れ込んでくる可能性がある。今日、エルフの少女が買っていった『キティのストラップ』は、本来はこちらの世界でしか機能しないものだ。それが異世界でも『魔除け』として意味を持ったのは、お前の能力が両世界の概念を融合させた結果だ」


 温泉饅頭キティのストラップが魔除けに…?あの奇妙な出来事にも、こんな理由があったのか。僕の能力が、知らないうちに世界の常識を変えていたなんて。


「質問なんですが、古びた額縁鏡を拭いていたら、異世界に転移したんですがそれが原因じゃないのですか。それと、異世界で商売はしないほうが良いのでしょうか。僕の世界の商品を異世界で売ったら、異世界の産業や経済は簡単に破綻すると思います。貨幣価値の違いもありますし」悠真は語りかける存在に矢継ぎ早に尋ねる。


「額縁鏡は転移とは関係ないぞ、たまたまだ。だがせっかくだから、両世界の様子が分かるように鏡に映し出すようにしておこう。無用なトラブルは回避出来るだろう。商売の難しさは異世界でも同じだ。敢えて我が、異世界について説明はしないでおこう。自分で見て聞いて確かめてみるが良い。今の規模の商売ならたいした問題にもならない。ただ、異世界の貨幣が集まり過ぎても困るな。異世界の貨幣システムをお前の世界の預金口座みたいにひも付けて、貨幣は消えるが同じ額を収納できるスキルをやろう。出し入れ自由で財布として使える。」


「覚えておけ、悠真。お前はただの人間ではない。二つの世界を繋ぐ、特別な存在だ。その力は、使い方を間違えれば、両世界を混乱に陥れる可能性もある。まずはその力を理解し、受け入れることだ」

 その声が遠のくと、僕の意識は急速に現実へと引き戻された。

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