第11話 模擬試験、静寂の中の火花

試験当日。

早朝のセイリュウ魔導学園には、いつもより張り詰めた空気が流れていた。


初等部三年生の中から選ばれた12人は、学園の裏手にある第三訓練場に集合していた。

周囲をぐるりと囲むように見学用の結界が張られ、教師たちの目が光る。


悠真は、周囲の選抜者たちを見回す。

綾乃、理央、他にも実力ある面々──自分よりも確実に上だとわかる者たち。


(でも、今日は下を向かないって決めた)


彼は胸の内で、静かに誓った。



◆ 開会宣言と試験形式


教師の一人が前に出て、試験概要を告げる。


「これより《選抜模擬演習》を開始する。形式は実戦型ペア戦。実力・判断力・連携力の三点を評価対象とする」


教員が魔法板を操作し、12人の名前が自動でペアに割り振られる。


──ペア戦。


ざわつきが起こる前に、次々と名前が読み上げられていく。


「第1組、紫月理央・篠原大地」

「第2組、綾乃・神谷悠真」


「……っ」


思わず、悠真は綾乃を見る。

綾乃も、少し驚いたように目を瞬かせたが、すぐに笑みを浮かべて小さく頷いた。


「よかった。悠真くんとなら、やれる気がする」



◆ 試験開始──最初の戦場へ


結界で仕切られた第一区画。そこが悠真と綾乃の試験フィールドだった。

地形は不規則な岩場。遮蔽物は多いが、視界が狭くなるぶん、奇襲には不利。


試験開始の合図とともに、相手チーム──氷魔法を主軸にする俊敏な男子と、補助回復型の女子が前方から現れる。


「まずは探る。私が前に出るから、悠真くんは後ろから魔力の動きを見て」


「うん、任せて」


綾乃が滑るように前へ出ると、鋭い詠唱で風刃を放つ。

相手が氷壁で防御を固めるその間、悠真は息を整えて集中した。


(……風が、ぶつかった。魔素が渦を巻いてる)


「火よ、絡みつけ──《火種・封焔陣》!」


詠唱が走る。


綾乃の攻撃の隙間を縫って放たれた封焔陣は、敵の回避ルートを塞ぐように発動。

氷使いの少年が一瞬身を固める。その一瞬を見逃さず、綾乃が風刃を畳み掛けた。


──命中。


「ナイス、悠真くん!」


声を上げた綾乃に、悠真も笑みを返す。


(今までの僕なら、狙えなかった。理央さんの言葉、綾乃さんの助言……全部、ここにある)



◆ 試験後半──選択の場


ペアごとの模擬戦は進んでいくが、2戦目の直前、教師から追加の発表が行われた。


「2戦目以降は、個人戦とする。魔力総量、応用力、そして“自立性”を見るためだ」


周囲が再びざわつく。


綾乃が、隣にいる悠真の肩に軽く手を置いた。


「……今度はライバル同士、だね」


その手はすぐに離れたが、彼女の声はどこか寂しげだった。


悠真は、ほんの一瞬だけ迷いそうになる心を抑えて、前を向く。


「うん。でも、戦えるのが嬉しい。……今度は僕が、追いつく番だから」


綾乃が微笑む。けれど、その目には、少しだけ複雑な光があった。


(……私だって、立ち止まらない)



◆ 対峙──そして試練の兆し


1対1の演習が始まる頃。

悠真の名前が呼ばれる。対戦相手は、火属性に秀でた上位生・風見清志。


(属性が被ってる……けど、相手の方が純粋に強い)


フィールドに立った悠真の前で、風見は余裕の笑みを浮かべていた。


「演習でちょっと目立った落ちこぼれ、だっけ? 本気で来いよ」


(舐められてる……でも、それでもいい。僕は……)


「火よ、砕け──《火種・破裂陣》!」


その瞬間、悠真の詠唱が、以前よりも明らかに早く、鋭くなっていた。


風見が眉をひそめたその時、爆撃のタイミングがわずかにズレる。


(……違う。何か……魔力の感覚が、前と違う?)


悠真自身が、その変化に気づき始めていた。


小さな異変──魔力制御が、少しだけ“過敏”になっている。

まるで、身体の奥で何かが目覚めかけているかのように。


(これは……何だ……?)


試験の勝敗よりも先に、悠真の中で“未知なる何か”が動き始めていた。


──それが、のちに大きな波紋を呼ぶことになるとは、まだ誰も知らなかった。

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