第12話 レーヴ領② (Side:アルヴィン)

 レーヴ家のカントリーハウスに滞在させてもらうことで話がまとまると、トビアス氏は少し言いにくそうに切り出した。


「その……用意する部屋についてですが」

「あ、勿論突然のことですし、今の僕らは傭兵ですから、使用人部屋でも全く文句は――」

「いえ、勿論客室をご用意します。ただ、そうではなく」


 慌てて申し出る僕の言葉を遮り、トビアス氏はわざとらしく咳払いをした。


「さすがに……お二人を同室にご案内することは気が引けまして」

「へ……?」


 予想もしなかった申し出に、僕は思わず眼をぱちりと瞬かせた。

 

「別に、旅の間も、基本的に同室だったんだ。問題ないだろう」

「いや、その、事前に兄のダミアンから事情はお聞きしておりますが、それでも、えぇと、我々としても、フロスト家との関係もある中、貴族社会の常識と照らし合わせましても、妙齢のお二人を……ですね」

「??」


 妙に歯切れが悪いトビアス氏に、僕は意味が分からず疑問符を上げるだけだったが、カルロは呆れたようなため息をついてあっさりと彼の主張に歩み寄る。


「まぁ、言わんとすることは分かった。だが、それなら俺が傍にいない間、こいつの安全を保障してくれなきゃ困る。ここは今や、竜のお膝元だ。竜神教の連中や、反対に竜への恨みを持つ連中が、竜の器の血縁のこいつを、良からぬことに利用しようと企みかねない」

「もちろんです。最大限の配慮をし、護衛や使用人も、レーヴ家の最高位の客待遇で付けさせていただきます」

「え。いや、さすがにそこまでは申し訳な――」

「いい。受け取っておけ、アルヴィン。お前は妹と同じで、少し目を離すだけですぐにトラブルに巻き込まれる」


 カルロの言い草にむっと口を噤む。

 失礼な。さすがに、シャロンほどではない――と、思う。たぶん。


「今日は、到着初日で、旅の疲れもあるでしょう。ゆるりと休まれてください。明日以降、レーヴ領の警邏隊長を呼びます。これまでの竜に関する調査結果について、何でも聞いてください」

「あ、ありがとうございます」


 人好きのする穏やかな笑顔で申し出てくれたトビアス氏に、僕は深々と頭を下げた。

 ここまでの恩を受けると、今後、どんな見返りを要求されるのかと疑いたくなる。しかし、彼の目元にうっすら隠し切れない隈があるのを見ると、竜騒動の一年、彼も東奔西走してきたのだろうと想像がついた。


 恐らく、レーヴ家の威光を最大限に活用し、何度も討伐隊を差し向けたはずだ。今までシャロンが討たれなかったのは、幸運の積み重ね以外の何物でもない。

 結果として、討伐以外の方法を探す僕たちに協力体制を敷いてくれたことは、感謝すべきだろう。


 年若い当主が疲れた笑顔で退席するのを、僕は頭を下げたまま見送った。

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