【30分読破シリーズ①】手のひらサイズのクマは、僕の未来を最適化するためにやってきた。
アキラ・ナルセ
【1/3話】手のひらサイズのクマは、僕の未来を最適化するためにやってきた。
その日、僕は英語の小テストで盛大に
「じゃあな、コータ!」
「うん、バイバイ!」
下校途中、友達と別れた。――その瞬間だった。
僕の頭の上にポスンッとやわらかい衝撃が落ちてきた。
「いたっ」
足元を見ると、手のひらに乗るくらいのサイズの、クマのぬいぐるみの
誰かの落とし物だろうか。そんなことを思っていた時――玩具のぬいぐるみ、のはずなのに、その青い瞳が発光し
『
「……うん、僕、だけど」
『初めまして、のほうが今のキミには適切かなコータ。』
「なんで僕の名前を」
『そんなの当たり前だよ。ボクは二十年後から来た、キミの“味方”なんだから』
二十年後から来たということ、そして、ぬいぐるみが
「一体なんなんだい君は?」
『うーん、ここは人目が多い。移動しよう、コータ』
言い切ると、クマは自分でぴょん、と僕の
鞄に人形が乗っているのは女の子みたいでちょっと恥ずかしかった。
* * *
家には連れ込めない。だから僕は、とりあえず、いつもの
『ボクのことはベアって呼んでよ。型式コードは“BEAR《ベア》-EX《エクストラ》-01《ゼロワン》”だけど長ったらしいでしょ。二十年後の未来ではね。人間とAIは脳波で
「……AI? 最適化? 難しいことはよくわかんないけど、もし本当にベアが言うことが本当なら、それって……すごく便利そうだけど。勉強も運動も、恋愛だって楽々じゃん」
『その通り! キミ達人間にとってこんなに便利なことはないよ――でもね』
「……でも、なに?」
『ただ便利は、しばしば自由を
「どういうこと?」
『ごめん、ちょっと難しかったかな。未来でボクをそう批判する人がいるのさ』
このあともベアは、さらさらとピンとこない説明を続ける。AI構造の仕組み。未来での都市の交通や医療、教育がどう変わったか。僕の頭の処理速度が、
「で、どうして未来から今ここに?」
『未来の“キミ《コータ》”が、ボクに言ったのさ。十四歳のキミに会いに行けとね』
「え、未来のボクが!?」
『そう。ボクはねキミを――』
青い目でクスッと笑う音。だけど同時に、河川敷の
目に映ったのは制服。僕らの学校のだ。それを着た
相変わらず、少しやんちゃな彼の耳たぶに銀色のピアスが光っている。しかし、僕の目はそこではなく、彼の頭にへばりついている手乗りサイズのぬいぐるみに
「ベア。猪塚の頭についてるイノシシのぬいぐるみ!」
『うん。あれは未来のボクのAIを
「ちょっとまって、刺客ってなんなのさ?」
『言葉のあやだよ。本当にボク達を殺したいわけじゃあない。
――二十年後の未来でボクは世界最高の性能を誇るんだ。だから当然、
猪塚は制服の内ポケットからカッターナイフを取り出すと刃をキリキリと伸ばした。
僕はそれを見て後ずさり。
『怖い?』
「当たり前、だろ。なんとかできないのかベア!?」
『そうだね、せっかく来たのにボクとしてもキミに死んでもらっては困るし、ボク自身も奴らに奪われるわけにはいかない』
そう言うと、ベアはぴょんと
『じゃあ
「何それ!?」
『
「パスコード?」
『
猪塚は
よくわからないが、とにかくやるしかない。
「
僕がそう言うとベアの青の瞳がさっと濃くなり、こめかみに針のような冷たさを感じる。
次の瞬間、世界の線が一本ずつ太くはっきりと映って見えた。猪塚の足の重心、刃先のぶれ、汗の
そしてベアの音声が脳内に直接響いてくる。
『右。しゃがむ。左足に体重。いま』
言われるまま、僕は動く。なのに、確かに動かしているのは自分だ。
イノシシのような鋭い突進から繰り出されたナイフの刃は空を切る。僕の
彼の手首をひねり、ナイフが落ち、柔道の要領で足を
沈黙。
猪塚は気を失っているだけで、呼吸もしており命に別状はなさそうだ。
『よくやったコータ。これで廉価版の模倣品とのリンクは切れたね。この前後の記憶も
これがリンク。やけに喉が乾いた。でもベアに助けられた。まだ足が震えている。
「ね、強くなれる。ボクとキミなら」
ベアの青い目が、やさしく笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます