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《うむ》
愛染は一呼吸おいて説明を続けた。
《――幼児を乗せたベビーカーを持ち上げ、靴とパンツがずぶ濡れになる状況――。いろいろ考えてみたが、現実性のある可能性は一つ。ベビーカーを抱えて池か川を渡ったというものだ》
《そんなバカな》
私は吹き出して言った。愛染が柄にもなく冗談を言ったと思ったのだ。
《いやいや、きわめて論理的な考察に基づく結論だよ》
と愛染は言った。
《しかし、今朝は局地的な雨も降った様子はないから、キャンプをしていて川の中州に取り残されたといった状況は考えにくい。公園の池に入って遊ぶ季節ではないし、まして早朝にやることではない。そこで、ベビーカーを抱えて水の中を歩くメリットはなにか考えてみた。――まず、川や池に入ると足跡を消せるし、臭跡も絶てる。それから、路上には至る所に防犯カメラがあるが、そうした人が歩かない場所まではカバーしていない》
私はようやく愛染の言わんとしていたことがわかってきた。
《それで、誘拐と……》
《ああ。あえて水に入るのは犯罪者が逃走経路をごまかす常套手段だが、宝石箱ではなく8キロのものを載せたベビーカーを抱えていたとなれば、結論は明らかだ》
《それで私に誘拐事件は起こっていないか、と聞いたんだね?》
《うん、あくまで推理の上でのことだがね。推理が間違っていたのなら、僕を笑いものにすればいい。でも、もし推理が正しいとしたら、由々しき事態だ》
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