エピローグ

コックピットの中、俺は後ろに立つ少女の言葉が信じられず、ただただ固まっていた。

母星に来てほしい? 一緒に?

目の前のモニターには、ヴォイドリザードを倒した後の静かな夜景が広がっている。

だが俺の頭の中は、今まさに投下された爆弾級の発言によって、大混乱に陥っていた。


「い、一体何を言ってるんだ、お前は!?」


俺がようやく絞り出した声は、情けなくも裏返っていた。

すると、セレスティアは俺の肩に置いていた手を離し、俺の目をまっすぐに見つめると、ふぅ、と息を吸い込んだ。

彼女の表情から悪戯っぽい笑みや、快活な雰囲気は完全に消え失せている。

そこにいるのは、星々の輝きをその身に宿したかのような、気高く、そして美しい一人の王女だった。


「正直にお伝えします。私、ファルファリーナ星第一王女、セレスティア・ライフォード・ファルファリーナは、御堂拓実様に心より惚れました。もしよろしければ、我が星に同行し、私の夫となってはいただけないでしょうか」


その声は、凛としていながらも、どこか祈るような響きを帯びていた。

普段の「~っす」という砕けた口調は影も形もない。完璧なまでに洗練された、王族としての品格に満ちた言葉遣い。

あまりのギャップと、その言葉が持つ圧倒的な熱量に、俺の顔はカッと熱くなった。

惚れた? 夫に?

思考が追いつかない。出会ってまだ数時間の相手だ。いやそれ以前に、この世のものとは思えないほどの美少女に真正面から求愛されるという経験が、俺の人生の経験値を遥かに超えている。

だが正直に言えば、俺だって彼女に惹かれていなかったわけじゃない。

地球という、彼女にとっては全く無関係な星を守るために、たった一人で宇宙の果てからやってきた。

その優しさと、気高さと、そして何より、絶望的な状況でも決して諦めないその勇気に。俺の心は間違いなく揺さぶられていた。

しかし、だ。

彼女は、遥か彼方の星の王女様。対する俺は、地球という辺境の惑星に住む、ただの高校生だ。

いくらなんでも、身分も住む世界も違いすぎる。


「……その、気持ちは……すごく、嬉しい。でも……」


俺は、意を決して口を開いた。


「ごめん。流石に、俺とあんたとじゃ、立場が違いすぎるよ」


それが、俺が出せる精一杯の、誠実な答えだった。

俺の言葉を聞いたセレスティアは、しかし取り乱すことはなかった。

ただ、その美しい碧眼をわずかに伏せると、寂しそうに微笑んだ。


「……そうですか。残念、です」


まるで、最初から断られると分かっていたかのような、あっさりとした引き際だった。

その様子に、俺は少しだけ、本当に少しだけ安堵の息を漏らした。

だが、その安堵は、次の瞬間に木っ端微塵に打ち砕かれることになる。

セレスティアは、伏せていた顔をぱっと上げると、いつもの悪戯っぽい笑顔を浮かべて高らかに宣言した。


「それじゃあ、しばらく星には帰らず、タクミと一緒に暮らすっす!」


「はあああああああ!?」


俺の絶叫が、狭いコックピットにこだました。

口調も、態度も、完全に元通りだ。というか話がとんでもない方向に飛躍している。

俺が混乱のあまり口をパクパクさせていると、セレスティアは勝ち誇ったように胸を張った。


「地球の文化に『押してダメなら引いてみろ』ってのがあるらしいすけど、あたしの星では『押してダメならもっと押せ』なんすよ! これから毎日一緒に暮らして、ドキドキなイベントをこれでもかと体感させて、タクミの口から『セレスティアのこと好き好き大好き愛してる!』って言わせてみせるっすからね!」


「な、な、何言ってんだお前は! 落ち着け!」


俺が慌てふためいていると、どこからともなく、冷静なカノンの声が響いた。


『御堂拓実の自宅情報をサーチ。該当地域の賃貸アパートと特定。ルート案内、設定可能です。また、彼は一人暮らしのため、同居に際し他の同居人の許可を取得する必要はありません』


「ナイスっすよ、カノン!」


超高性能AIの、まさかのファインプレー。俺の個人情報は、完全にこの宇宙人コンビに筒抜けだった。

セレスティアは嬉しそうに笑うと、俺に向かってビシッと指を差した。


「というわけで、しばらくお世話になるっすよ! 拒否権はないっす! 無理やりついていくっすから!」


「ば、馬鹿野郎! 男の一人暮らしの部屋に、女の子が転がり込んでくるなんてマズイに決まってるだろ! しかもお前、王女様なんだろ!? 絶対にダメだ!」


俺が必死に抵抗すると、セレスティアはニヤニヤしながら、俺の体にぎゅっと抱きついてきた。

柔らかく、そして豊満な感触が、再び俺の体を襲う。


「もしかして、タクミ。何か『間違い』が起きるのが心配って話っすか?」


耳元で、彼女が悪魔のように囁く。


「別に、あたしは全然構わないっすよ? 間違い、起こしちゃいます? なんならぁ、今、ここで……♡」


スーツ越しでも分かる胸の感触を、これでもかと俺の腕に押し付けてくる。

俺の理性は、三度目のクリティカルヒットで完全に砕け散った。


「うわああああああ! やめろおおおお!」


俺は真っ赤な顔で絶叫し、必死に彼女の体を引き剥がした。

その時だった。俺はコックピットの外が、やけに騒がしくなっていることに気がついた。

見渡すと、戦いが終わったアークスレイヤーの周囲に、無数のパトカーや消防車、そしてあの無謀な報道ヘリを含む、たくさんの野次馬が集まってきている。


「まずいぞ! 早くここから逃げるぞ!」


俺が焦ってセレスティアに伝えると、彼女は引き剥がされたのが不満だったのか、少し頬を膨らませていたが、すぐに「きゃっ」と可愛らしい声を上げながら、頬に両手を当ててくねくねとし始めた。


「ハイハイ、了解です、愛の逃避行っすね旦那様~!」


そのわざとらしい仕草に、俺の額に青筋が浮かぶ。

俺は再び操縦桿を握りしめ、魂の底から叫んだ。


「旦那様じゃねええええええええっ!」


俺のツッコミと同時に、アークスレイヤーのブースターが蒼い炎を噴き、夜空へと一気に舞い上がった。


こうして、俺の平凡だった日常は、壮大かつ唐突に終わりを告げた。

宇宙からやってきた、規格外のおてんば王女様。

彼女が駆る、超高性能な鋼の巨人。

そして、ひょんなことからその相棒になってしまった、女性が苦手な隠れオタクの俺。

これから先に、一体どんなとんでもない騒動が待ち受けているのか、想像するだけで頭が痛い。

だけど――。

眼下から遠ざかっていく街の灯りを眺めながら、俺の胸を満たしていたのは、不思議な高揚感だった。

彼女の隣にいれば、どんな困難も、どんなトラブルも、きっと最高に面白くて刺激的な毎日になる。

そんな確信だけが、そこにはあった。


俺と彼女の物語は、まだ始まったばかりだ。

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機動兵器アークスレイヤー~コンビニに舞い降りたスーパーロボットと美少女宇宙人~ たまやん @TamayanHRO

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