13、デート?(1)



 あの後、しばらくして龍が戻ってきて一緒に夜ご飯を食べた。いつも通りの龍に戻ってて、さっきのがなんだったのかは謎。なにより日髙とあんなことがあったのにも関わらずしっかりお腹は空いて、食欲もバンバンにある自分を褒めてあげたい。


 ご飯も食べてお風呂にも入って龍とリビングで適当に寛いでた時、例の人物からようやく返信がきた。


 《悪い、遅くなった。今ちょっと電話できるか? 話したいことがある》


 話したいこと……? なんか急用っぽいな。


 《大丈夫です、電話できます》

 《んじゃ俺からかけるわ》

 《わかりました》


「龍、ちょっと電話してくるね」

「うい」


 部屋に戻ったタイミングでちょうど電話がかかってきた。


 [はい]

 [あ、悪いなこんな時間に]

 [いえ]

 [明日ちょっと会えねーか?]


 ん? 明日って土曜日だよね、休みだよね、どういうこと? 担任と生徒が休みの日にプライベートで会うって……デート? なわけがない。たぶん日髙のことでしょ。理事長に呼ばれたっきり戻って来なかったしね。


 [別にいいですけど]

 [ああ、心配すんなー。ちゃんと親御さんには許可取ってあっから]

 [はあ]


 いや、そこの心配はしてないけども。


 [明日朝イチで羽柴ん家に迎えに行くから準備頼むぞー]

 [あー、はい。わかりました]

 [んじゃ、夜更かしすんなよー。おやすみ]


 教師から『おやすみ』っていうワード聞くのが違和感ありすぎてどう反応していいのか一瞬戸惑った。まあ、ここは普通に『おやすみなさい』でいいのか。


 [おやすみ……なさい]

 [ん、じゃーな]


 電話が切れた後、最後の『ん、じゃーな』のトーンが優しすぎた担任の声が、なんでか耳にへばりついて離れなくなった。あんな優しい声で喋れる人なんだ、あの人。


 ── 翌朝


「どこ行くんすか、そんな格好して朝っぱらから」

「美智瑠っ」

「美智瑠ちゃんじゃないっすよね。あの子と遊ぶ時そんな格好しないじゃないすか」


 ごもっともすぎて言い返せない。いや、別にさ? 担任に会うから気合いを入れた服装にってつもりはないよ? けどさ、いつもみたいなカジュアルよりもうちょっとしっかりしたほうがいいかなー? って思ったりして、ちょっとキレイめ系にしてみただけであって、本当に深い意味は全くない。


「はぁー。担任とちょっと会うだけだって」

「あ?」


 眉間にシワを寄せてひっくい声の龍が私にガンを飛ばしてくる。


「たぶん日髙のことについてだと思うから」

「俺も行く」

「はあ? 別にいいって、保護者でもあるまいし」

「だいたい休日に呼び出すセンコーなんざ信用ならね」

「いや、だからさっ」


 ピンポーンと鳴り響くインターホン。間違えなく担任だろうけど、すぐさまそれをモニターで確認したのは龍だった。


「凛子さん、コイツすか」

「ええ、まあ、そうすね……ってちょ、龍」


 ズカズカと玄関へ向かう龍を追って、『落ち着きなさい』と背中をベチンと叩いたら少し雰囲気が大人しくなった。ガチャと玄関ドアを開けるとそこにいたのはしっかりスーツを着て、昨日のめんどくせぇーって雰囲気がまるでない担任。どう表現していいのか分かんないけど、ワイルド系が爽やかワイルド系になった的な?


「おはようさん」

「お、おはようございます」

「おい。センコーが休日に生徒と出かけるってのはどういうことだ」


 龍が取って食いそうな勢いで担任に接近したから慌てて裾を引っ張って、こりゃ担任もビビっちゃってるだろうなって思ってチラ見したら……めちゃくちゃ興味なさそうな顔してるっていうか『なんだオメェ』感が半端ない。


「どちらさんで?」

「あ?」

「あー、この人は親の会社の従業員で」

「そうか。じゃ行くぞ~」

「おい、待て。話は終わってねえ」

「なんですか、急ぎなんですけどね」

「なんの用で凛子さんを連れて行くのか説明しろ。つーか俺も同伴する」

「悪いがそれは無理だ、部外者に聞かせられる話でない。それに羽柴の親御さんには事前に許可を得ている。これ以上話すことはない」


 ねえ、なんで担任までピリピリしてんの……? もお、ほんっと勘弁してよ。だいたい龍も龍で昨日から様子おかしくない? 過保護っぽくはあったけど、男がどうのこうのって口出してきたりもしなかったし、彼氏ができようが別れようが特に感心なさそうだったんじゃん。


「龍、ちゃんと連絡するから」

「……飯」


『夜飯なに食いたいんすか?』って聞きたいんだろうけど、もう拗ねくれるモードに入ってる龍はいつも以上に言葉足らずになる。


「カレーが食べたい」

「ん。凛子さんになんかあったらただじゃ済まねぇぞ」

「行くぞ、羽柴」

「え、あ、はい。じゃ、行ってくるね」

「ん」

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