宇宙人の約束
雪解わかば
地球の未来は、高校生に託された
俺は言った。
「お前が、あの時の少女か」
するとお前は、首をかしげる。
君みたいなイケメンには会ったことがない、と。
「俺は50年ほど前に来たのだが、覚えていないのか」
なに? 私はまだ生まれていない、と。
高校生なんだから当たり前でしょ、とお前は語尾の勢いを強くして言った。
そういえば地球人は我々よりも成長が速かったな。と、すると……
「どうやら、攫う人を間違えたみたいだ。悪かった、すぐに開放する」
俺は素直に謝罪するしかなかった。しかし、お前が許してくれはしなかった。
私は巻き込まれた側なんだから、ちゃんと事情を説明しろ、と。
「――仕方がない、無関係のお前を巻き込んだ俺が悪かったのは事実だ。ちゃんと説明しよう」
ただし、と俺は強調する。
「このことは誰にも言ってはいけない。もしも口外した場合は、地球全体の存続が危ういと思ってくれ」
それを聞いたお前が大きな声を出すのは容易に想像ができた。
「安心してほしい。これから先の説明を聞いたら、わかってもらえるはずだ」
安心できるわけがない?
「じゃあ事情説明することなく開放してもいいのだが……」
――ちゃんと説明しろ? 話は聞くから? まったく、地球人というのは強欲なものだな。
「仕方がないから説明してやる。よく聞いておくことだ」
お前がコクコクとうなずいたのを合図に、俺はゆっくりとあの時のことを思い返した。
「それは、お前らの暦で1981年のことだ。俺たちは地球を滅ぼすことにした」
お前は何か言いたげそうだが、俺は無視して話を続ける。
「地球人は争いをよく好む。こんな種族が宇宙に進出されたら危険だ、星間連合でそう決まったのだ」
そう言った瞬間、君は大きな声で叫んだ。
宇宙人だったの!? って言われても、お前が気付くのが遅すぎるだけだろう。
「続けるぞ。そして俺たち地球滅亡作戦本部は、純粋な地球人の子供を利用することにしたのだ」
お前がもはや怒っているのはわかるが、もう少し話を聞いてほしい。
「利用といっても、大したことではない。まだ争いを知らない子供を保護しようとしただけだ。――そうして攫った一人の少女が、俺たちを変えたのだ」
おっ、話の流れ変わった、とお前。そうだ、ここからが重要なのだ。
「少女は、この地球が大好きといった。それを守るためなら、どんな手も使うと」
どうだ、ずいぶん勇敢な少女だろう。
「彼女は俺に約束してくれた。大人になったら戦争を地球からなくす、と。俺たちもわずかな期待を込め、50年の猶予を与えた」
お前もこれで少しは納得したようだな。だが、本題はここからだ。
「もうすぐのその猶予の時が過ぎようとしている。しかし、今でも争いは絶えないどころか増えているではないか」
そだねー、とのんきに言うお前ももう少し危機感を持っていただけないだろうか。
「で、あの時の少女にもう一度接触しようとしたのだが、地球人の成長は思ったより速くて……というのがお前を攫った一連の事情だ。これで満足してもらえただろうか」
おや、お前は思ったよりも満足していないようだな。
地球人は確かに争いをやめない。だけど平和を愛するまともな人もいる、だと?
「お前の言うことはもっともかもしれない。しかし、お前らに何ができる?」
……なるほど、お前らには選挙があると。でも、今の地球も選挙の結果ではないか。
それは大人たちの教育不足、か。なるほど。少しは地球人も反省しているようだな。
将来を見据えるなら地球も星間貿易に参加してくれることが本当は望ましい。そうだな……
「少なくともお前は選挙に行くことだな。しかしそれだけではダメだ」
これは地球のことを信じてる俺からの最後のアドバイスだ。よく聞いておけ。
「周囲の人へ働きかけることだ。一人が二人に働きかければ、累乗の形で広がっていくだろう」
お前も理解してくれたようだな。じゃあもう俺からの用はもうないな。
「じゃあ、残りの猶予で頑張って変えてくれ。戦争が少しでも減ったなら、地球の滅亡作戦は延期されるだろう」
え? 延期? とお前。当たり前だろう。
「俺たちが地球の侵攻を止めるのは、地球の争いがすべてなくなった時だ。それだけは覚えておいてくれ」
わかった。とお前の確かな意気込みが感じられた。
「それじゃあ開放するぞ」
期待してるぞ、お前。
宇宙人の約束 雪解わかば @fuyuyu_winter
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