続・情熱のメス 〜熱血外科医・炎堂烈の信念〜

塚元守

炎堂烈の戦場

【第一章】命の危機と共闘の決意


 聖陽総合病院の会議室は、重苦しい空気に包まれていた。長編のカルテとモニターに映るデータが、患者の深刻な状況を物語る。


 患者は津田彩、34歳。急性肝不全に伴う劇症肝炎。肝臓が急速に機能を失い、全身の凝固異常と脳浮腫が進行。緊急の肝部分切除と補助人工肝臓(MARS)治療が必要だが、成功率は10%以下という絶望的な症例だ。

 

 会議室の中心で、聖陽総合病院の外科医・炎堂烈、38歳が、燃えるような眼光でカルテを見つめていた。


 熱血漢として名高い彼は、最新の術式や複雑な理論には疎いが、最低限の知識は持つ。同僚からは「情熱の剣」と呼ばれ、その信念に周囲の心を動かす存在だ。


 対するは、帝都医科大学病院から派遣されたトップ外科医・氷室涼。医学界の「知識の化身」と称される彼は、冷静にデータを分析する。

 

「津田彩、劇症肝炎による急性肝不全。凝固因子の枯渇と脳浮腫が進行中だ。MARS治療と部分肝切除を組み合わせても、術中のDICと脳圧管理のリスクは計り知れない。成功率は10%が限界だ」


 氷室の冷徹な声に、若手医師の高城が眉をひそめる。

 

「10%……でも、このままじゃ彼女は……! どうすれば……」


 炎堂が立ち上がり、力強く拳を握った。

 

「氷室、高城君、細かな数字など、命を救う信念の前では霞む! 10%を情熱で100にも200にもする――それが我々、医療従事者としての使命だろう!」


 高城が不安げに口を開く。

 

「炎堂先生、MARSの設定や術中の凝固管理のプロトコルをどうするんです?」


 炎堂は高城を真っ直ぐ見据え、燃えるような声で答えた。

 

「高城君、以前にも言っただろう? 命を救うのは、患者の心に寄り添い、希望を灯す魂だ!」


 氷室が冷静に割り込む。

 

「炎堂烈。劇症肝炎の手術は、MARSの流量調整と術中の脳圧モニタリングが鍵だ。0.01秒の誤差が命を左右する。『魂』とか『情熱』ではなく、具体的な方法を聞かせてくれるか?」


 炎堂は一歩踏み出し、氷室を真っ直ぐ見つめた。

 

「氷室涼。以前、君は若き日の情熱を取り戻したな。その情熱と私の情熱が合わされば、希望の光はさらに輝きを増す――氷室、言いたいことは分かるな?」


 氷室は一瞬沈黙し、わずかに頷いた。

 

「フッ、そうだったな……いいだろう。MARSの流量を分時300mlに設定し、脳圧センサーをリアルタイムで監視する。手術は私が主導、炎堂、君はサポートに徹しろ」


 炎堂はニヤリと笑い、拳を握った。

 

「戦おう、氷室! 必ず彼女を救う!」


 

【第二章】テロリスト襲来


 手術の準備が始まったその瞬間、病院のロビーから爆音が響いた。


 叫び声とガラスの割れる音。5人の武装テロリストが病院を占拠しようと侵入してきたのだ。黒いマスクと自動小銃で武装し、受付スタッフを人質に取りながら叫ぶ。

 

「全員動くな! この病院を制圧する! 抵抗すれば命はない!」


 会議室の医師たちは凍りついた。氷室は冷静に状況を分析し、呟く。

 

「手術を始める前に、セキュリティを確保する必要がある。炎堂、君の『情熱』でどうにかできるか?」


 炎堂は真っ赤なスクラブの袖をまくり、燃えるような笑みを浮かべた。

 

「氷室、任せておけ! この病院と命を守る戦いは、私の魂で切り開く!」


 炎堂は会議室を飛び出し、テロリストが潜むロビーへと突進した。


 

【第三章】炎堂の戦場


 ロビーは戦場と化していた。テロリストのリーダーが人質に銃を突きつけ、患者やスタッフが恐怖で震える。炎堂は一瞬で状況を把握し、叫んだ。

 

「貴様ら! 命を救う聖域を汚すな! 私の魂の炎で、貴様らの悪行を焼き尽くす!」


 テロリストの一人が小銃を構えるが、炎堂はまるで雷鳴のように動いた。かつて習った格闘術を駆使し、敵の懐に飛び込む。拳が空を切り、テロリストの銃を弾き飛ばした。

 

「何!? この医者、ただものじゃねえ!」


 別のテロリストがナイフで襲いかかるが、炎堂はスクラブの裾を翻し、流れるような回し蹴りで相手を倒す。


 ロビーの机を盾にし、消火器を投げつけ、電光石火の動きでテロリストを次々とねじ伏せた。

高城が廊下から叫ぶ。

 

「炎堂さん、すごい動きだ! 何やってるか全然わかんないけど、めっちゃ強いってことだけはめっちゃ伝わる!」


 別の看護師が目を輝かせる。

 

「炎堂先生の拳、なんだか……魂そのものみたい! 何してるかさっぱりだけど、絶対すごいことしてるわ!」


 最後の一人、リーダーが人質に銃を突きつけ、叫んだ。

 

「やめろ! 近づけばこいつを撃つ!」


 炎堂は一瞬立ち止まり、静かに、しかし燃えるように言い放った。

 

「貴様の心も、魂のメスで切り開く! 命を傷つけるその手を、私の信念が止める!」


 彼は人質の隙をつき、リーダーの腕をひねり上げ、銃を奪い取った。


 テロリストたちは全員床に倒れ、炎堂のスクラブは戦いの激しさでズタズタに。破れた布から覗く筋肉は、命の戦場を駆け抜けた証だった。


 

【第四章】奇跡と改心


 ロビーでテロリストを制圧したその時、氷室がオペ室から現れた。冷静な声で告げる。

 

「炎堂、手術は無事成功だ!」


 患者のバイタルが安定し、命が奇跡的に保たれた。


 ロビーは歓声に包まれた。炎堂は戦闘でボロボロになったスクラブをなびかせ、誇らしげに胸を張った。

 

「諸君! 私の拳は、命を守る炎だ! 信念があれば、どんな強敵も、どんな巨悪も打ち砕ける!」


 高城が感嘆の声を上げる。

 

「炎堂先生の戦い、感動しました! 医療界の希望だ!」


 別の看護師が続ける。

 

「炎堂先生の拳は『光』そのもの! 理論なんか関係ない、『命の炎』です!」


 周囲のスタッフは、口々に炎堂を称賛し始めた。

 

「炎堂先生の情熱が病院を救った!」

「彼の信念が、再び奇跡を呼び起こしたんだ!」

「彼は救世主だ!」


 称賛の嵐は止まらず、ロビーはまるで炎堂の英雄譚を讃える舞台と化した。


 患者の命が氷室によって救われた事実すら、炎堂の「魂」に帰結され、周囲は彼の熱さに飲み込まれていく。



【第五章】燃える信念


 テロリストたちは警察に連行されていく。リーダーが振り返り、炎堂に叫んだ。

 

「お前……そのバカみたいな熱さ、一体!? 『たとえ絶望しかなくても、燃える魂で突き進めば道は開ける!』……俺たちを制圧したときの言葉、俺たちの心に火をつけた! 間違った道だったが、お前の情熱に感謝する!」


 炎堂はボロ布と化したスクラブをなびかせ、静かに微笑んだ。

 

「貴様らの魂も、いつか正しい炎で燃える日が来る。行け、そして生まれ変われ!」


 氷室が近づき、珍しく感情を込めて呟いた。

 

「炎堂烈、君の戦い……見事だった。君のサポートがなければ、手術の成功はなかった。ありがとう」


 炎堂は燃えるように答えた。

 

「いや、氷室涼。彼女を救ったのは君だ。だが、君の知識ではない! 君の熱い信念が、患者の魂に希望の炎を灯したのだ!」


「フッ、君には敵わないな……炎堂」


 氷室は小さく頷き、心からの笑みを浮かべた。そして炎堂の肩に静かに手を置く。


「炎堂。君の『患者を救いたい』という熱い信念があれば、最新の論文や理論も難なく覚えられるはずだ。今度は学んでおいてくれ」


「そんなことより――飲みに行くか、氷室!」


 炎堂は豪快に笑い、彼も氷室の肩を叩く。


 聖陽総合病院は、炎堂烈の伝説で沸き立った。


 最低限の知識を持ちつつ、情熱と信念で病院と命を守り抜いた男。


 その原型をとどめないスクラブから覗く、傷だらけの腹筋は、数々の戦場を駆け抜けた証だった。


 彼の名は「炎の外科医」として、医療の常識を焼き尽くす存在となり、その拳はこれからも命を切り開く炎として燃え続けるだろう。


【完】

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