昔話「天雲丸の鬼退治」

昔話:天雲丸と鬼退治

昔むかし、私たち翼を持つ者は鬼におびえながら暮らしていました。

鬼たちは、ときどき里の近くに現れては、災害や病気をもたらしました。

鬼が現れたあと、あるときはみな全身に水疱ができ、薬草も効かないまま苦しんで死んでいきました。

またあるときは、鬼が里の近くで騒いでいたかと思うと、大きく地面が震え、そのまま大地がぱっくり割れてしまったこともありました。

鬼が現れるたび、里にはよくないことが起きたのです。

里の者たちは、鬼がこれ以上災いをもたらしませんように、と毎日一生懸命空に祈りました。

天上の神さまは、里の者たちをかわいそうに思いました。

そして、ひとかけら雲をちぎり取ると、こねて里の者と同じ翼人の形にし、息を吹き込みました。

翼人の形の雲は、自由な翼を持つ翼人となり、里に下りていきました。

「私は天からつかわされた天雲丸。私が鬼をやっつけましょう。」

里の者たちはみな大喜びし、天雲丸にごちそうをつくってもてなしました。

天雲丸は、里の者たちにお願いしました。

「私に、刀をくれませんか。」

里の者たちは、いちばん切れ味のいい刀や丈夫な兜を用意し、さらに磨いておきました。

天雲丸は頷くと、

「鬼たちは朝、活動が鈍い。明朝、鬼退治に出ます。」

と言って、用意された上等の寝床で眠りにつきました。

夜明け前、天雲丸は里を出発し、空を飛んで鬼の元を目指します。

鬼の住処は川下の川原でした。

天雲丸はまだ眠っている鬼の一匹に切りかかると、他の鬼たちが目を覚まし、雄たけびを上げました。

鬼たちは天雲丸の腕や足をつかみ、押さえつけてこようとします。

身動きが取れなくなった天雲丸は、

「空よ!」

と天を仰ぎました。

すると、たちまち空は黒い雲に覆われ、大雨になりました。

それでも鬼たちはつかみかかってきます。

再び天雲丸が空に叫ぶと、今度は空を切り裂くように、稲光が走りました。

近くに雷が落ちると、草木に火が付き、鬼たちは炎に囲まれてしまいました。

鬼たちは泣いて、許しを請います。

「あなたの力はよくわかりました。もう病気や災いを広めることはしません。」

天雲丸は念を押しました。

「絶対に悪いことはするなよ」

そしてもう一度稲妻を光らせて見せると、鬼たちはひぃぃと悲鳴を上げてひれ伏したのでした。

里の者たちは、天雲丸が里に帰ってくると大喜びです。

「ありがとうございます、里の者一同、とても感謝しています。どうぞ、里でゆっくりお休みください!」

しかし、天雲丸は里へは入ろうとしません。

「気持ちだけもらっておきます。」

どうしてかと里の者たちが尋ねると、

「私は鬼に触れ、鬼の血を浴びました。私は穢れに染まってしまっています。このまま里に入ってしまえば、里に災いを持ち込んでしまうかもしれません。」

里の者たちが引き留めるのも聞かず、天雲丸は里を離れていきます。

そして一人になると、天雲丸の体はだんだん軽くなり、また雲として、空に昇って行ったのでした。

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翼持たぬ子 荷葉とおる @roj

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