第21話 あにまるずっ!公式チャンネルの食レポ配信(すーことシュデールの場合)

「すなっすー!あにまるずっ!のフェネック! 風音すーこだよ! この前の続き! またまたおいしいもの食べちゃうよっ!!」

「すなすー。えーと、何か付き添いすることになった、シュデール・ロイスだよ。まあ、おいしいもの食べれるならいいやって思ったんだけど、公式だとあまりふざけれないからなー……」


:『シュデ、そもそも単独以外ふざけるなしw』

:『すーこちゃんの挨拶使ってる時点で通常営業でしょw』

:『さすがに、狐さんのリスナーのお店だし、商品紹介はちゃんとするでしょ?するよね??』


 シュデールが登場したことによりリスナーの心配のコメントが続々と寄せられるが、当人たちが気にした様子はない。


「じゃあ、すーこくん。早速だけど1品目、紹介してくれるかな」

「うぃ! 一品目は、鍾海廊しょうかいろうさんの白身魚と豚から揚げの黒酢あんかけだよ!」


 手元カメラで映し出されたのは、白身魚の切り身と豚の唐揚げ。それに熱々だとわかる黒酢餡がかかるとカメラが真っ白になり、すぐに誰かの手によりカメラのレンズが拭かれるものの、まだついた蒸気が取り切れないのか少し全体的にぼやけた状態で完成品が映っている。


「おささん、勢いよくかけすぎだよ?」

「こういうのは勢いがあった方がおいしそうに見えるって聞いたから!」


 画面外でスタッフが黄昏ているのを見てすーこは軽くシュデールにツッコミを入れるが、やはり気にした様子はないようだ。


「まあまあ、とりあえず頂こうよ? あ、駄目だこれ。お酒ほしくなるやつ」

「おささん……お酒はダメだって、しゃちょーさんに怒られたばかりだよ?」


 とろり、とかかった黒酢餡は、アマダイは松笠揚げされたものに絡み、豚肉も一つ一つがなかなかに大きい割に柔らかさを追求しつつもカラッと揚げたものに合うように甘さと酸味のバランスを調整したもの、なのだがシュデールは味の感想ではなくお酒が欲しい、と訴えるだけ。すーこも口にするが、肉の柔らかさと噛むたびに出てくる肉汁のおいしさに魅了され、言葉がなかなか出てこないようだ。


:『これ、人選間違ってね?』

:『すーこちゃんは前のでわかってたけど、せめて料理人のリゼかフィリブスを呼ぶべきじゃ…』

:『頭はこれでいいけど…やはり公式に呼ぶのは間違ってる』


「うん。肉はこんなに大きいのに箸で裂けるくらいに柔らかい。揚げてるのにこれってすごいよねえ?」

「こっちのおさかなもおいしい! パリパリサクサクしてるのと中はしっとり! 黒酢を絡めてもそのままでもおいしい!」


 すーこは満足した様子で満面の笑みを浮かべるが、ある程度食べた時点で次に紹介する食品に変わる。


「次は……きりさいファームさんの、チーズフォンデュセットだよ! 自家製ソーセージと、ジャガイモ、それにホワイトアスパラガス!」

「この溶く用の白ワイン……飲んじゃダメかな?」


 画面には陶器でできたチーズフォンデュの器具に、下に入れる用の固形燃料、それにチーズにワイン、具材が映りだされている。

 陶器の上の部分、窪みのある部分にニンニクを擦りつけ、少量のワインとチーズを入れると下の場所に固形燃料を置き、火をつける。

 火の勢いはそこまで強くなく、スタジオでも特に問題なく使えるようだ。


「ソーセージうまっ!!」

「すーこくんは相変わらず勢いよく食べるね。アスパラもおいしいから食べてみなよ」


 決して小さいとは言えないサイズのソーセージを勢いよく食べるすーこにマイペースに食べるシュデール。

 チーズが溶け出し、具材を入れ、引き上げることで具材に絡むそれは見ているだけでもリスナーの悲鳴にも似たコメントが流れる。

 特に自家製のソーセージは2種類あり、一つはオーソドックスなもの。とはいえ大きさは一般的なそれよりも1周りは大きく、皮をかんだ時の音がするたびに羨ましそうなコメントが加速していく。


「ちょっとだけついてきたんだけど、これもっと多くてもいいよね?」


 そうやってシュデールが画面に映りこませたのはイカの塩辛。ジャガイモにチーズを絡ませると小皿に乗せ、その上に塩辛を乗せる。


:『またそうやって酒が進みそうなものをw』

:『むしろその食べ方は贅沢が過ぎる』

:『塩辛っておいしいの?』


「これのおいしさわからないかなー? これがあるとさらにおいしいんだけどね!」


 どん、と音を立ててテーブルに置いたのは一升瓶。『やのもとくら』と書かれたラベルは中に透明な液体を満たしている。


「おささん、それ後で紹介するやつ」

「えー? ちょっとだけ、ちょっとだけだから!」


「もう……おささんが酔うと大変だから最後にしたかったんだけど、くすの葉酒店さんの『やのもとくら』だいぎんじょー……? の一升瓶だよ」

「これは甘口の大吟醸だからよく合うはずだよ! とりあえず、開けちゃうね」


 蓋を開けると、近くにあったプラカップに中の液体を注ぐ。とろみのある透明な液体は8分目まで注がれるとすぐに画面外に消えた。

 数秒後、ふう、とため息が聞こえると空になったカップが置かれ、また注がれる。


:『いやいや、一気しないでw』

:『一升この配信中で一人で飲み切ろうとしてない?』

:『そもそも泥酔するまで飲んだら一切話さなくなるんだから、今日はほどほどになー』


「おささん……2杯までだってさ」

「え? でも、これなら10杯くらいまでなら注げるよ?」

「うん、怒られるから、駄目だよ? あと、味の感想も言ってね?」


 全部自分ものだと言わんばかりのシュデールの態度にすーこは呆れながらも配信を続けるためにも感想を求める。


「日本酒特有のフルーティーさもあるんだけど、少し木の香りもしてね。すっきりしつつなめらかで軽いのに後に残る味わいは重い、というか……おいしいよね!」

「それはわかったんだけどね? もうじゃがいも食べつくそうとしてるんだけど、すーこにも残してね?」


 具材を刺してチーズを絡めて食べるため、撮影用ということもありそれなりの量があったはずのじゃがいもがどんどんと画面外に消えていく。

 茹でたじゃがいもを溶けたチーズを絡めているが、冷やしていた塩辛と、キンキンに冷やした日本酒という組み合わせがシュデールの手を止めない原因らしい。


「このままだと手が止まらないし、次の品物に行こう。古湊こみなと喫茶エイリアンの全力甘味スパだよ」

「……おささん、これ何? すーこ、知らないんだけど」


 チーズフォンデュが下げられ、新たに出されたのは、一言で言えば甘味で構成されたタワー。

 チョコソースや生クリームで構成されたそれは、ところどころに果物が挟まれているし、ウエハースにチョコ、それにマカロンなんかが顔を覗かせているのは、一見してパフェのように見えなくもない。

 ただ、それはパフェのようにグラスに盛られたものではないし、何よりも土台が黄色味は強いものの、パスタの麺のようだ。


「一座の人が教えてくれた商品なんだよね。ほら、すーこくんの商品だけ紹介するのも、ね?」

「一座の人たち、いつの間に。じゃあ、おささん食べて感想お願いするねっ!」

「私、辛党なんだけど。うん、一番美味しそう……じゃなかった、配信映えしそうなものを選んだんだけどさ? すーこくん、甘いもの好きだよね?」

「親戚フェネックから甘いものと麺類は基本合わせちゃだめって言われてるから! それに、せっかく一座の人が薦めてくれたんだから、ほら。あーん」


:『すーこちゃんのあーん!?シュデ、そこかわれ!』

:『狐さんのあーんなんて貴重すぎるものを頭になんて!いや、でも確かに甘いのと麺の組み合わせは好き嫌いが出そうではある』

:『そもそも親戚フェネックからだめって言われてるなら仕方ない』


「……最初はパフェの味だね。チョコと生クリームのどさっとした甘味と、果物の酸味と甘さ、それに……冷たい麺が……甘くて、甘い……」

「麺が甘い? おささん、そんなはず……え? 甘くてちょっと酸っぱい? これ、蜜柑の味するよ?」


 すーこが黄色い麺だけフォークで巻き取り食べてみると、ほのかどころではない甘味と、かんきつ類特有の酸味が口の中に広がった。


「それ、ブランド蜜柑の実と果汁を練りこんでるんだって。しかも塩もこだわりにこだわった甘味を邪魔しない天然塩なんだってさ」

「こ……こだわりすごいね?」


:『エイリアン、おすすめはナポリタンなのに、よりによってキワモノメニューを注文しやがって…』

:『ぜんざいスパとよもぎきなこ餡子スパはなかなかいけた。でもフルーツスパ系は怖くてちょっとまだ手を出せてない…今見てもっと手を出せなくなった』

:『すーこちゃんが食べさせてくれるならいくらでも食べれる。柑橘類のアレルギーだけど克服してみせる』


「え?アレルギーって気合とかでどうにかなるものじゃないよね?」

「アレルギーは甘く見ちゃだめ! 無理して食べれないものもあるから体質で食べれないものは食べないで?!」


:『アレルギーは程度の差もあるけど、重度な場合命にも関わる可能性あるしね』

:『これはさすがにスルー出来ない内容』

:『アレルギーの重さにもよるけど、一度お医者さんに相談しなー』


「さすがに、そういうのは冗談でもだめだからねー。すーこくんにあーんしてもらえるのが羨ましいのは理解できるんだけどさ」

「じゃあ、すなっこの分までおささんに食べさせてあげるね! おささん、あーんして、あーん」




「じゃ……じゃあ、これが今回最後の商品だね……。西野浪化学重工さんの、社長のおすすめサイダーと自家製干し芋だよ。

 干し芋は、自社内にある畑でとれたサツマイモを使ってる、らしいよ?」


:『しっっっぶ』

:『何で、化学重工の敷地内に畑が?しかもサツマイモ作って干して製品化してるの?おすすめのサイダーってどういうこと?』

:『さらにリスナーから自薦の商品なんだよね。西野浪化学重工って、割と歴史長い大きい会社よ?』


 知る人は知っている、業界関連者以外からも知られている会社の、まさかな商品にリスナーの間に混乱が広がる。


「うん。これはこれで日本酒によく合う」

「えっと……あ、甘くておいしいよ? オーブンとかで焼いたらさらに甘くなるらしいから、試してみてね?」


:『ぐっだぐだで草』

:『さすがに、これオオトリさっきのパスタの方がよかったんじゃ…?』

:『すーこちゃんはよく頑張った…』


 気持ちよさそうにわざわざアバターの頬を赤らめ上気分なシュデールとは対照的に、無表情のまま咀嚼し続けるすーこ、という放送事故としか言いようのない状況で配信を終了する。

 最後に「ごめんなさい」と吊り看板がぶら下がった演出がされたのは、ある程度まで運営も承知済み、の内容だったのだろう。


「おささんお疲れ様。……あのパスタ、打ち合わせの時になかったよ……?」

「すーこくんが驚くかなと思って、調理担当のスタッフさんとこっそりと用意してたんだよ!」


 打ち合わせでは干し芋とサイダーの前に本来は同じ店のボロネーゼだったはずなのだが、シュデールの悪戯心により変更になったようだ。


「一座の人のお店なんだよね……? おいしくないわけじゃないけど、脳混乱したから、ちゃんとしたの紹介した方がよかったんじゃない……?」

「うん。ちゃんとマネちゃんからDM送って許可取ったから大丈夫大丈夫。あの量をほとんど食べさせるなんて、意外とすーこくん、Sっ気あるのかな?」


 なぜかシュデールは嬉しそうに言うが、すーこは先ほど食べれなかったジャガイモを食べることに集中しているようでシュデールの話を聞いていないようだ。

 それにさらにシュデールは嬉しそうに笑うが、周囲でドン引きしているスタッフ以外、そのシュデールの表情を見たものはいないようだ。

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