第11話 すーこの2回行動
「すなっすー! あにまるずっ!のフェネック! 風音すーこだよ! 今日は、何かおもしろいもの見つけたから、やってみるよ!」
元気よく画面の端から砂色の髪をした少女が挨拶をしながら登場すると、現れては消え、を何度か繰り返す。
たまにフェネックの耳しか出ないのは、ご愛嬌というものだろうか。
その後、テントを模した配信画面の中央に、新たに枠が表示されると、その中にゲーム画面が表示された。
「今日やるのはこれ! 『ふりっぷ…? アンドゴー!』 だよ!」
:『Flip&Goか。すーこちゃん相変わらず横文字弱すぎるw』
:『あ、これやったことある!』
:『どんなゲームなんだろ』
ゲームを開始すると、まずはプレイ人数やオンライン対戦などを選択する項目が表示される。ためらいもなく一人でのオフラインプレイを選択すると、チュートリアルが開始された。
ゲームを簡単に説明すると、盤上にあるカードの上を自駒が1ターンに1度上下左右のいずれかに進むが、盤面以外の移動は禁止、カードに書かれている壁(線)を踏み越えての移動が禁止、というルールなのだが、カードが最初は伏せられており、移動するまでそこが移動可能かどうかわからず、そのカードに移動がそもそも出来なかった場合は戻されターンを消費する。そして特定のターン内に対角線場にあるゴールを目指すというものだ。
「わ、また移動できなかった! も、戻んなきゃ…」
「うにゃ! あともうちょっとなのにー!」
「よし、あともう一マス……!」
「つんだー! なんだよこのゲーム! 責任者でてこーい!」
自駒を進ませるたびに一喜一憂するすーこの姿にリスナーの応援の声や愉悦部、と呼ばれる一部のリスナーからの煽りのコメントが飛び交い、なかなかに混沌としている。
ランダムが故に中々スムーズに進まず、最終的には攻略が不可だったり、ターンがどうしても足りずクリアできない局面もあり、次こそは! と何度も突き進んでいくすーこの姿は応援したくなる、ということもありクリアをできた時は大盛り上がりするし、失敗したときはみんなで嘆く。
すーこの配信はこういった一人でもできるボードゲームをプレイすることが多く、時折"こ"高のすーこと呼ばれることもある。フェネックは哺乳綱食肉目イヌ科キツネ属の動物で、キツネの一種なので孤高、であっているはずなのだが、やけにねこにも思えるような言動が多く、ねこの"こ"、だと、他のものでもこを敢えてひらがなで書いてくるリスナーが多いというのが特徴なのかもしれない。
「えっと…すーこの勝ち越しだから終わり! この後、コラボするから見に来てね!!」
:『はーい』
:『すーこちゃん…勝ち越しって、勝敗数で勝ちが上回ることを言うんだよ…』
:『5勝12敗か…だいぶ難しいゲームだったから仕方ない。そもそもランダム性に負けた』
「みんな細かいよっ! じゃあ、またね!」
ぷんぷん、という擬音が合うように拗ねた表情のまま画面はエンディング画面へと移る。軽快だがどこか大人しさを感じるBGMは配信の締めくくりとしてはピッタリなもので、流れるアニメーションも、すーこが自身のテントで遊んだり寝たりと、すーこが配信後どのような生活をしているか、というものが想像できるようなものになっている。最後に「また次に!」と表示されると、配信が終了した。
「おささん、大丈夫……?」
「すーこくん、ごめんなさい……。大事をとって、にはなっちゃうんだけど、すぐにはちょっと無理で」
「ううん……。おささんの腕の方が大事、だから」
配信後、しばらくしてすーこにコラボ相手からの着信があった。配信に関する事前打ち合わせかと思い、出てみたところ、飼っている犬が原因で腕の骨にヒビが入ってしまい、コラボを中止させてほしい、という申し出だった。
「でも、腕の骨にひびって、しとろん、何したの……?」
「家の中で遊んでたんだけどさ。この前買った機材の段ボールが乗った棚にぶつかっちゃってさ。機材自体は出してたんだけど、置き場がない前の機材入れてたから、段ボールが落ちてしとろんにぶつからないように庇ったら、すごい音がしてね……」
あれは痛かったなーと笑うその相手の言葉にすーこの顔が青ざめる。経験はないが、自分でも庇うだろうし、腕にヒビが入ったら日常生活にも配信にも影響を及ぼす、と考えると怖くて仕方がない。
というか、病院での処置も終わったといっても1時間ほど前の出来事を笑って話せるというそのメンタルに、すーこは変な所で感心もしているけれど。
「雑談だけならまだ何とかなったんだけど、流石に体動かすのは、怖くてさ」
「それは当然……。私の方の枠だから、取り消しておくね?」
「あ、それで相談だったんだけどさ。ごめんなんだけど、パルフェちゃんとコラボできる?」
「……何で?」
今通話しているおささん、と呼んでいるVも、パルフェちゃん、というVもどちらも自身が所属するあにまるずっ! に所属するケモミミVだ。
おささん、というのはあにまるずっ! における、世界のどこかにあるとされるずんばーにゃ砂漠を移動するキャラバンの隊頭、ネコミミVのシュデール・ロイスのことであり、ファンは頭、隊頭などと呼び、あにまるずっ! の一部のVが長、と呼んでいる。
すーこはそのずんばーにゃ砂漠にあるオアシスのすぐ近くでキャンプ暮らしをしている自由気ままなフェネック、らしい。
「うん、実は明日飲みに行く約束してたんだけど、流石にヒビが入ってる状態でお酒飲むの、お医者さんから止められてね? で、治療終わってすぐに連絡したんだけど、パルフェちゃんも配信が権利元の都合で流れちゃったらしいから、よければどうかなって」
「お酒なんてだめに決まってる。パルフェちゃん……あ、確かに中止って来てた。うん、わかった。コラボするけど、スポーツアリーナ持ってるの?」
「あはは、お医者さんにめちゃくちゃ怒られたからね。というか、パルフェちゃんにもまずはすーこくんに連絡しろって怒られたくらいなんだけどさ。スポーツアリーナはパルフェちゃんは持ってなかったはず……だから、ごめんだけど配信内容も、ね?」
「わかった……お大事に」
軽くすーこはため息をつくと通話を終了させ、パルフェへシュデールから話を聞いた旨のメッセージを送った。
「すなっすー! あにまるずっ!のフェネック! 風音すーこだよ! 今日は、2回目の配信! パフェフェちゃんとのコラボだー!」
「こんパフェー。あにまるずっ!の癒し系。島国生まれのうさぎ、パルフェですー」
「今日は、パフェフェちゃんを徹底的に分析してくよー」
パフェフェ、と呼んでいるのはかつてすーこがパルフェの名前を甘噛みして呼んだものが定着した結果だ。
やりとりをする際も基本的にそのように呼んでいるため、すでにリスナーの中でも慣れ親しんだ呼び方になっている。
「分析、ってお互いに改めて自己紹介をしようっていう企画でしょう?」
「あや? そうだったような? とにかく、やってこー」
ゲームをするには設定や確認などの時間も取れず、すぐにできること、として自己紹介カードを作り、お互いに発表していくというコラボに落ち着いた。
名前や誕生日、好きなことや尊敬する人、などお互いに掘り下げながら自己紹介をしていく、というのは短時間で準備ができ、かつ知っている相手であれど再確認や、魅力を掘り下げるのにはちょうどいい企画でもあったりする。
「これですなっこのみんなもすーこちゃんの魅力を再確認できたんじゃないかな? それにしても、すーこちゃんのテント、案外ギミック多くてびっくりしたよ」
「すーこは常に進化をし続けるフェネックだからね! それよりも、まだパフェフェちゃんの最後の分開けてないよ?!」
「あら、そういえば。ええと、相手に対して一言、の所だね」
:『2人のことだからこのまま触れずに終わるものだと思ったw』
:『あにまるずはみんな基本天然だからなぁ…』
:『それにしても、狐さんのテントあんなものあるなんて…』
配信自体は大盛り上がりを見せたらしい。普段では中々話さないことや、今までは積極的に公開していなかったことなども含まれており、妙な満足感があるコラボになったようだ。
「それで、すーこちゃんに対しての一言は、これだね」
:『配信でいわんでもろてw』
:『てぇてぇ』
:『これは新たなカップリングの予感…?』
最後の、相手への一言が公開されると、『キマシタワー』やら『うおおおお』などのコメントが流れる。そのテンションを放置するように、配信はさっさと終了されるが、コメントの熱量は下がらないまま、しばらく流れ続けた。
「お疲れさまー。で、どう?」
「お疲れさまでした。……みんなの言う通り、配信で言うことじゃないのに」
配信終了後、パルフェは楽しそうに、すーこは少し疲れたようにそれぞれ挨拶を交わす。
「でも、ほら。言ってることはほんとのことだし」
「そうなんだろうけど……。でも、パルフェちゃん、飲みに行く予定だったんでしょ? 私、あまり飲めないよ?」
「あ、シュー姉からは詳しくは聞いてないんだ? お姉ちゃんが明日と明後日出張に行っちゃうから、家で飲むことになっててさ。だから、お泊り、来ない?」
「そっか、お姉さんとルームシェアしてるんだっけ? 明日は元々オフだからいいけど……明後日はまた夜コラボしたいから、早めの解散でいい?」
パルフェが最後に書いていたものは『明日遊ばない?』だった。確かにこれは配信で言うものでは決してないのだが、一応内容に関しては事務所のマネージャーに確認してもらっているため、問題はなかったのだろう。
あにまるずっ! の運営が緩いかもしれない、という可能性もあるが。
話も終わり、すーこはお泊りのための準備を始めた。用意を始めるには少し早い気もするが、感想返しなどを行っていたらすぐに時間は進んでいく。
事務所からの連絡を確認しながら、少しだけ楽しみに対し、笑みをこぼしていた。
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よくわかる(可能性は微弱にある)VTuber(?)配信用語説明
愉悦部
人の不幸は蜜の味。それは甘き血潮のようでもあり、熟成の進んだワインの如くでもあり。それは一度手に入れた以上、
つまり、(歪んだ)愛が故に推しの失敗を楽しみ、ワインを片手にその行動を具に監視し、愉しむという紳士の行動の一つである
ただ、相手は推しであるため、あまりにもその失敗が続く場合はワインを投げ捨て必死に慰めたり応援し始めるという側面もある
FLIP & GO のルール説明
・プレイヤーは自駒を移動させ、制限ターン内にゴールに到着できれば勝利。できなければ敗北となる。
・プレイヤーは毎ターン事に1マスだけ自駒を動かすことが可能。
・フィールドは4*4,6*6,8*8の3種類から選ぶことが可能(1人プレイ用は4*4のみ、1~4人でプレイ可能)
・入口と出口以外は裏返しにされたカードを設置。移動することで初めてカードが表になる
・カードには通れる方向が表示されており、下記のカードの種類があり、線を踏み越えての移動や斜め方向への移動は禁止(フィールド外への移動も禁止)
→ 「 (上、左方向への移動禁止、あるいはその方向から来ることも禁止)
→ 」 (右、下方向への移動禁止、あるいはその方向から来ることも禁止)
→ | | (左右への移動禁止、あるいはその方向から来ることも禁止)
→ = (上下への移動禁止、あるいはその方向から来ることも禁止)
→ 白紙のもの (全方位への移動可能)
・移動した先が通れない道だった場合(上記の侵入不可の方向からの移動)、移動はできず、駒元のマスに戻りターンは終了する
・制限ターンは4*4は20,6*6は45,8*8は80ターン、複数人で遊ぶ際は協力モードと対戦モードがあり、対戦モードの場合はそれぞれがその制限ターン内に、協力モードの場合は人数×10%が加算され、その制限ターン内に全員がクリアできない場合は敗北となる
・2人以上の場合、左上、右上、左下、右下に配置されたプレイヤーごとにターンを進行
・1人用の場合は左上がスタート、右下がゴール、対戦モードはプレイヤーが四隅にランダムで配置、対角線にある場所がゴール、協力モードではスタート位置はプレイヤーが四隅にランダムで配置、ゴールはマップ中央となる
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