第10話 ゲーマー同士のコラボ配信

0proゼロプロ所属、影虎 蓮だ」

「個人勢の橘ユウキでーす」

「……どうした?」

「久しぶりのシャー先との配信だから、力抜けたというか、これから起こることにちょっと恐怖してるというか……」


:『何が始まるっていうんです?』

:『相変わらずトラとユウキの会話は緩いなぁ』

:『ユキくんが脱力するくらい怖いって…ホラゲかな?』


 配信が始まったにも関わらず、普段と違い少しトーンが低いユウキにコメントが少し心配の色を見せる。

 ある意味では、カゲトラとユウキとでは両者とも普段よりも緩い雰囲気を醸し出しているが、やっているゲーム配信の種類が似ていたり、それ以外の趣味も似ているなど、お互いが緊張するような仲ではない、ということもあり、むしろ二人のコラボでは相手を意識する方が難しい、とまで言いあっている仲だ。

 そんな中、ユウキが虚空を眺めているというか、何やらぼーっとしているように見えること自体が珍しい。


「まあ、やってくぞ。……今回は、とある人物から送られてきたゲームだ。配信開始するまではリンクを開くことも禁止されてるから、正直何かはわからん」

「その人言うには、配信でやっても問題ないらしい、です。でも、シャー先の所も使用許諾が取れてるとか……」

「ああ。そう聞いている。……俺、あの人にマネージャーの連絡先を伝えた覚えがないんだが」


:『それはホラー』

:『そしてこの二人がここまで従う相手とは…』

:『そもそもこれからゲームが何か確認して、ダウンロードからインストールまで行う必要があるってこと?』


 ただならぬ様子、とまでは行かないが微妙に意味が分からない行動にコメント欄も戸惑うような言葉が並ぶ。

 ゲーム配信、自体はこの二人の定番コラボの一つだ。レースやアクション、協力プレイなど色々と弄り弄られながらをしながらプレイをしていく様はダラダラと見るにもうってつけだ、と週末に開催されることも多いこともあり、普段は盛り上がりつつものんびりと進行していくが、流石にただただ笑ってみているだけ、では済まないようだ。


「さて、鬼が出るか蛇が出るか。……ん? なんだ、これ」

「えっと。みんなに、見てもらった方が早くない……?」


:『ええ…』

:『何これ。とりあえずホラゲーなのはわかった』

:『見ててなんか不安になる……』


 ダウンロードされたゲームは、ドット絵のキャラクターが中央に1人設置されており、その周囲をランダムに揺らめき、光を変える、複数の色を持つ油膜のようなものがゲーム画面いっぱいに表示されている。

 画面上部にはタイトルが、下には『さいしょカら』『つづキカら』『せってい』と表示されており、『さいしょカら』の項目の隣に大き目の三角が表示されている、という情報の少なさがやけに不気味なものだった。

 ゲームタイトルは『喫茶えーるへようこそ』となっている。


:『喫茶えーる、ってミントちゃんの店だっけ…?』

:『いや、ミントさんの店は喫茶店「えーる!」だ。オマージュなのか、わざとなのか。でも、トラとユウキがここまで従ってるってことは、送ってきたのミントさんだろうな…』

:『あの人、たまにとんでもないホラゲやるんだよな…』


「コメントでも言われてるように、今回はミントさんから突如、2人でやるよう指示されたゲームだ。オンライン協力プレイも実装されてるらしいから、そっちでやる、らしい」

「何でシャー先と俺なんだろ……。いつもなら、れとろみんとの二人でやってそうなのに」


 二人ともやりたくない、という態度を隠さずに、ただそれでも指定されたがままゲームの設定を始める。二人もよくやるオンラインのゲームプラットフォーム経由でダウンロードされたものらしく、『さいしょカら』という項目の後に、オンライン、フレンドから探す、というよくあるゲーム画面を遷移し、二人が操作するであろうキャラが横並びに表示されたところから、ゲームが始まった。



「えっと、あ。この光ってるやつ拾えばいいのかな? シャー先、そっち何か見つかった?」

「いや……こっちには、今の所何もなさそうだ」


 ゲームが始まって早々、二人が操作するキャラクターが分断され、各々が別々の場所で操作を行っているようだ。本来であれば、どちらの画面も両方一緒に表示させることもできるが、今回はユウキのみの配信画面にゲームを出してほしい、と事前に指示があったためリスナーやユウキからはカゲトラが今どのような画面で操作を行っているかわからない。

 コメント欄もそんな二人を応援しつつ、進めていくのだが、今表示されているのは一見何の変哲もない、普通の喫茶店だ。ミントの配信を見たことがあるリスナーにはどことなく見たような記憶のある店内は、配信画面をゲームの中に落とし込んだものらしい。

 実際には、あるはずの小物がなかったり、置いてある家具の種類が違うが、見る限り簡単にRPGなどを作れるゲームエディタで作成したもののようで、設置できるものが決まっているのだろうとリスナーも納得したようだ。


「拾ったの、何かのピースだって。形からしてジグソーパズルかなぁ?」

「こっちは色々探してるが、何もないな。何で、こんなに部屋数があるんだ? この喫茶店」

「え? こっち、喫茶店の、お客さんがいる所と、扉が2つあるけどどっちも開かないよ?」



「え!? い、いやこっわ!」

「……どうした?」


:『ああ…終わりだ、もうおしまいだ…』

:『今日もう眠れない…』

:『逃げて! ユウキくん超逃げて!』


 探索中、窓の外を眺める、という選択肢を見つけた所から物語は動き出した。覗き込んだ先には、真っ赤に染まった『なにカ』と表示されているものがおり、笑っているかのようなSEが鳴り響く。

 画面が一瞬、赤に染まったかと思えば、元に戻り、その赤く染まった何かが画面に表示されたかと思うと、ユウキの操作しているキャラにとびかかり、どこかに連れ去ってしまう。


「シャー先、そっちの画面どう?」

「変なものが飛んで行って、物が落ちたな。……血で汚れたピース、らしい」


 ユウキの動きが止まり、コメントも『あ…』やら『察した』、などの言葉で埋まる。とはいえ、ユウキのゲーム画面は真っ黒に暗転したままで特にゲームオーバーの表記などは出ていないため、まだゲームは続くらしい。



「よし、これでピースはすべて揃った……、か? ユウキ、画面は何か変わったか?」

「うん……。座敷牢、っていうのかな? 畳の部屋に、倒れてる。……ねえもしみんとんずの人が見てたら教えてほしいんだけど、ミントさんの所、こんな部屋、ないよね……?」


:『多分ないはず』

:『きっとないよ』

柊ミント:『喫茶店ですよ?そんなのあるわけないじゃないですか。いやですね、ユウキくん』

:『ミントさんもよう見とる』

:『終わったな…』

:『ミントさんが直接送ってきたんだぞ、2人とも、やっちまったな…』


 恐る恐る、といった様子で聞いてみた内容に本人がコメント欄で答えるとコメント欄が盛り上がり、加速する。若干、怯えるようなコメントが多いのはきっとお約束と茶目っ気から来る行動だろう。


「ま、まあ進めてみるぞ……? だ、脱出してくれな……?」

「は、はい。ミ、ミントさんもみ、見守ってくれてることです、し……」


 二人の声が上擦っているようなことはない。Live2Dの体のはずなのに細かく震えているように見えるわけもないし、ミントの名前の隣にある、モデレータを示す盾とペンを組み合わせたアイコンが鈍く光っている、なんてこともない。



「じゃ、じゃあ。いい所になったから、今日はここまでな……」

「つ、次も頑張って攻略していくから、楽しみにしてて……。ミ、ミントさんもありがとうございました……」



 結局、ミントのコメントはその1回だけだったが、ホラーゲームとはまた少し違った緊張感を漂わせたまま、物語を進め。

 合流し、少し探索をしたところで配信を切り上げることにした。


:『ゲームでこんなに手に汗握ることあるんだな…見てただけなのに』

:『中々緊張感のある配信だった…』

:『次回も、楽しみだ…』


 リスナーも思い思いのコメントを残しつつ配信を後にしていく。いつもはもう少し感想をコメントしていくリスナーも多いはずだが、何故だか今日はみな早く撤収していったようだ。



「ごめん、シャー先。これから出かけなきゃいけないから、次回のコラボできそうな日程送っといて!」

「ん? ああ、何だか知らんが、あんま遅くまで出歩くなよ?」


 よくコラボ配信をし、その後も何だかんだで一緒にゲームをしながら配信のことを話し合う二人だが、たまにこのようにどちらかに用事があることもある。

 ユウキは一言断ると音声チャットのルームから抜け、オフラインになった。カゲトラはそれを確認すると、今練習しているゲームを起動させ、その世界に没入することに決めた。




 冬の、すっかり日は沈み込み。帰路を急ぐ人間や、誰かを待っているのか、手元の画面を気にしながら立ちすくむ多くの人々。

 そんな中、一人の少年が駅からそれを見つけたのは単なる偶然だった。駅前の大型デジタルサイネージ。そこに映し出されているのは繰り返されてるいくつかの映像。

 それは人の姿だったり、街の姿だったり、あるいは人の生活そのものだったり。それらが全てシルエットだけで構成され、最後にアドレスだけが表示され、またそれを繰り返す。

 少年はただ移り行くそれをしばらく瞳に残すと、ふと我に返ったかのようにサイトにアクセスする。

 広告よりもさらにシンプルな内容を確認し、少しの間じっと見つめると画面を消し、どこか大事そうにポケットへとしまい込んだ。


 もとより向かう、目的の場所に向かう足取りは、誰にも気づかれることはなかったが、少しだけ弾んでいた。



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よくわかる(可能性は微弱にある)VTuber配信用語説明




モデレーター


名前の隣に特殊な記号がついた人のこと


モデレーターとは、本来は配信者本人が行う、不適切なコメントの削除や非表示、またそういったコメントを行ったリスナーを非表示にしたり、参加の制限(コメントの連続での書き込み時間の制限や一定時間の書き込みの禁止など)などを行ったりする


記号を付ける条件は人それぞれで、上記のサポートを行ってもらう場合や、知り合いの配信者、あるいは古くから自分の配信を応援してくれる人に感謝の意を伝えるためにつけたりもする

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