第6話 ハッシュタグの取り扱いについて、あるいはリスナーから見たおじさんというVTuberについて。

 おじさんは、自身のSNSについて、配信予告や何か紹介したいことを紹介する。配信中に画面上に乗せにくい画像を載せる。たまに飯テロのためにエクゼを活用している。そういう意味ではプライベートを窺わせる投稿は非常に少ない。


 また、感想用に『#寛ぐおじさんたち』というものを作っていて、配信画面には出しているがその実、そのハッシュタグを見る、ということはほぼしていない。


 そもそも、VTuberにとってのハッシュタグ、というものは何か。人によって自分がどういった感想を持たれているのか。ファンアートが作られているのか。

 あるいはどういったものをリスナーが本人に見てほしいのか。それに応じてハッシュタグが付けられ、それにまつわる投稿をするよう促している。

 ただ、一番の目的としては簡単に言えば自分のことを認知してもらうために何かしらの情報を広げてもらう、ということだろう。


 そういったこともおじさん自身はしてほしいか、と言われたらおじさんを見ている人がしたいのならしてもらってもいいけれど、無理のない範囲で。と釘を刺している。

 布教を行いたいという人や同好の士を求める人がいるというのは何かしらの分野でも必ず現れる。そういった感情に関してはおじさん自身も理解しているからこそ止めはしないが、無理やり推されるのも嫌だ。

 そういったわけで、それであるのなら自分がまだ介入しやすい状況を作り出して、その上で好きにしてもらおう。というのがおじさんのスタンスだ。

 無為にハッシュタグを増やさない、というのもそれだろう。

 おじさんが認知していないだけで非公式のハッシュタグはいくつか存在するが。


 そんなわけで本人がほぼ見ない状況ではあるが、日々そのタグをつけた投稿がされている。


『おじさんがこの前紹介してたちろりで呑む一杯。この時のために生きていると言っても過言ではない』

『見れてなかった飲酒配信、ようやく見れた。おじさんが飲んでるだけなのに何故こんなにも安らぐのか…』

『飲酒配信ばかりこれまで見ていたけど、雑談配信も中々興味深い。適当具合と変な知識の偏りが一周まわって面白い』


 画像ややや過剰気味な絵文字で装飾された投稿が少なからずあり、「いいね」も決して多くはないが多少はついている投稿も多い。

 以前、『おじさんの配信を見るのはおじさんだから』とおじさん本人が言っていたように、中年男性が透けて見えるような投稿者が多い。

 他のアイドルを見ている人物の投稿ほど投稿者同士での諍いが少ない、というのは母数の違いなのか、あるいは治安や文化の違いなのかはわからないが、悪いことではないのだろう。



『これがある意味でおじさんの全てを表すものか…』


 ある配信画面のスクリーンショットが貼られた投稿。画面にはおじさんとカナが写っており、酒瓶を持ったカナとニコニコとしてるおじさん、という全く知らない人間からは何も伝わってこないであろう画像だが、リスナーからは妙に評判がよく、1000以上の「いいね」がついている。

 返信も何件かされており、『わかる』や『それな』という定番の返信の他に『最近おじさんを推し始めました。この画像については見たことがないんですが、おじさんってこれまでどんなことしてきたんでしょうか?』という返信があり、それにも200以上の「いいね」がついていた。


『どんなことって…伝説の自己紹介動画は非公開で、何故か切り抜きもされてないし、おじさん自身が振り返りもしてないし、そもそも具体的な言葉での説明が難しい』

『酒を飲んだり、酒を飲んだり、酒を飲んだりしてましたよ!』

『妙にフッ軽で色々な分野のVと親交が深いコミュ強おじさんかな』

『日本酒が一番多いんだけど、ビールとかウイスキーとか酒の事めっちゃ知ってる! お酒を紹介してる配信もあるから興味があれば是非!』

『切り抜きおじさんチャンネル(非公式、本人認知済み)を見たら大体わかると思う。あそこが一番おじさんのことちゃんと切り抜いてるから』


 と、おじさんのリスナーが各々新人リスナーを深みへと嵌めるため、自分の知るおじさんの魅力を伝えてくる。

 中には『おじさんのことは分かろうとするな、ただ感じるんだ』というスピリチュアルなことを言い出したり、『おじさんVならV・HOME Theater JPのキリシア・カルディス教授がいいよ!』と大手事務所に所属するVTuberを布教する人間が現れるなど中々香ばしい状況になっている。もちろんそれらの香ばしい投稿に関しては全員がスルーしていたが。

 おじさんのこれまでの投稿はリアルタイムで行われるライブ配信が4割、動画を撮影、編集したものをアップする動画配信が5割(ライブ配信を再編集したものが3割ほど含まれるが)、知り合いが作った切り抜き風のショート動画が1割、となっているが初期の動画やライブ配信に関しては多くが非公開になっている。

 動画、というものはプラットフォームの判断による非公開も決して少なくないが、多くが本人の手により非公開にしたものであり、理由は不明となっている。配信中に聞いてみたリスナーもいるが、「出すには早すぎたかな」や「いつでも初陣だからね。初心でやってたらあとで見てもうちょっと寝かせてもいいかなって思う時もあるよ」なんて言って煙に巻き、わかるようなわからないようなそんな言葉でいつも濁されている。


『そもそも、過去に何かやってた人なんでしょうか?』という質問もその投稿の返信にあったが、何故か誰も返信をしない。閲覧自体はされているがいいね、もされていないため何故か黙殺されているようだ。


 第一前提として、VTuberの中の人や活動前のことを詮索するのはタブーとされている。Vとして生まれたのはVとしてデビューしてからであって、それまでは生まれてもいないため過去も何もない、というのが対外的な説明だ。

 実際には多くのVは何かしら前世と呼ばれる、別の活動をしていることが多いのだが、それはそのVとは全く関係のないことのため、語らないことが粋だと言っても過言ではない。とはいっても、ほとんどが公然の秘密ではあるのだが。

 V自身がにおわせをしようとも、完全に答えになるようなことをいっても、見て見ぬ、聞かないふりをする、というのがリスナーに求められる対応なのだ。

 実際、『VTuber おじさん 前世』と検索をしても一切回答は出てこないし、あってもわかりませんでした。前世はないと思われます。というものしか存在しない。

 配信や動画にボイスチェンジャーを用いたVTuberであり、直筆のものもほとんど出していないため、確認しようがないというのが正しい所なのだが。


 とはいえ、一番「いいね」がされた投稿は次のものだった。『うわ、懐かしい! というか黒歴史だから持ってる全員画像も消してほしいし記憶からも抹消してほしい!』というカナの返信だ。

 内容を知っているリスナーからは草が大量に生やされたし、事情を知らないリスナーからは本人が登場したことへの興奮や、状況を説明してほしいという懇願、あるいは興味を持ったため配信を見た、というものだった。

 草を生やしていた中には知り合いのライバーもいたが、そこは些細な問題だろう。そのライバーがしばらく、その話をリスナーから触れられた時に怯えるようなことがあったようだが、真相は闇の中である。



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短いため2話連続で投稿します

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