小噺2 レイブンとミィの井戸端会議

ロウクワット一族が去った後の城は、奇妙な静けさに包まれていた。荒らされた庭の隅で、レイブンは翼を休めている。その近くに、ミィがぴょんと跳び乗ってきた。


「まったく、あんな愚か者たちが現れるなんてね。ジェイドは怯えちゃったわ」


ミィは不機嫌そうに尻尾を振る。レイブンは、そんなミィを半眼で見つめながら、深く溜息をついた。


「…仕方あるまい。あの者たちは、自らの力こそが絶対だと信じて疑わん。我らの主の怒りを買うとは、実に滑稽な話だ」


「滑稽なのは、あの人たちが馬鹿なことよ。でも、ジェイドがひどい目に遭わなくてよかったわ」


ミィはジェイドのことを心から心配しているようだった。レイブンは、ミィの言葉に静かに頷く。


「…ああ。主が、あの娘を守るために、あれほどの力を振るうとはな。永い時を、感情を捨てて生きてきたというのに」


「そうよ。ジェイドは特別なんだから。主だって、彼女のことが好きなのよ」


ミィは得意げに胸を張る。レイブンは、その言葉に、少しだけ考え込むような素振りを見せた。


「…どうだろうな。だが、あれは確かに、感情の揺らぎだった。単なる苛立ちではない。…何百年ぶりだろうか。主が、あそこまで明確に、他者のために怒りを露わにしたのは」


「でしょう? ほら、やっぱりそうなのよ!」


ミィはレイブンの肩に飛び乗り、彼を揺さぶる。レイブンは迷惑そうに首を振るが、その表情はどこか嬉しそうだった。


「…しかし、厄介な話になってきたな。セルリアンのことまで持ち出すとは。あれは主にとって、触れてはならない過去だ」


レイブンは、ふと真面目な顔に戻って呟いた。ミィも、その言葉に少しだけ神妙な顔つきになる。


「あの人たち、何を考えてるのかしら。セルリアン王子は、とっくに…」


「そうだ。だが、あの者たちは、その力を利用しようと企んでいる。そして、そのために、あの娘の魔力が必要だと考えているのかもしれんな」


レイブンは、鋭い目で城を見つめる。ミィは、心配そうにジェイドが過ごす部屋の方を見上げた。


「ジェイドを、そんなことに巻き込ませないわ」

「…ああ。主も、そう思っているだろう」


レイブンは、そう言って静かに飛び立った。彼らの間には、スカーレットとジェイドを守るという、新たな決意が生まれていた。

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