第50話 六畳一間ダンジョン①せっま

現在、蘇鳥はダンジョンに来ていた。

 今回ダンジョンに来たのは攻略するためではなく、ダンジョンを調査するためだ。

 つまり、久しぶりのダンジョン再生屋の仕事ということ。


「久しぶりのダンジョン、気分が上がるぜ」

「うんうん、ダンジョンは楽しいよねー。でも、ダンジョンに来るのは久しぶりじゃないよ」

「ん、ダンジョン来た」


 蘇鳥はダンジョンの中にいるのだが、なぜか隣には二人の女性がいる。止木と氷織だ。

 今回のダンジョン、特に護衛が必要なダンジョンではない。ダンジョンランク0。無害認定されているダンジョンだ。

 だから蘇鳥は一人寂しくダンジョンに来ていたのだが、隣には女性二人。どういうことだろうか?

 ちなみに、蘇鳥は二人がいることに気づいたのはダンジョンに入ってからだ。ダンジョンの入口で中を眺めていたら、二人が後から入ってきて気づいた。


「なんで、二人がここにいるの?」

「輪ちゃんが一人で出かけてたから追いかけてーーじゃなくて尾行してきたんだよ」

「なるほど。どうして尾行したんだ、という疑問はあるが、ここにいる理由は判明した。で。氷織は?」

「蘇鳥を尾行している人がいたから、尾行の尾行をしてたら、いつの間にかここにいたよ」

「そ、そっか。(これ以上、追求しないほうがいい……か)」


 蘇鳥はそれ以上の追及をやめた。追求したところで、ダンジョンに二人がいる事実が変わることはない。そんなことを追求する時間があるのなら、ダンジョンを調査する時間に回したい。


「まあ、調査の邪魔だけはしてくれるなよ」

「はーい、見守ってまーす」

「ん、わかった」


 外野がいるが、蘇鳥のダンジョン調査が始まる。


 今回調査するダンジョンは六畳一間ダンジョンと呼ばれている。

 ダンジョンの広さが六畳一間しかないことから名づけられた。隔門を潜ると部屋に出るのだが、それ以上の空間が存在しないダンジョンとなっている。一部屋で完結するダンジョンとなる。

 その一部屋の広さがだいたい六畳なのだ。なお、実際には六畳より少し狭いそうだ。

 六畳一間ダンジョンの特徴は狭いだけではない、モンスターがほとんど出現しない。モンスターの出現頻度は一日に一体出るかどうか。モンスターと邂逅する確率はかなり低い。ダンジョンで生活でもしていなければ、出会うことはないと考えていい。


「ほとんどモンスターが出現しないダンジョンか。はてさて、どんな価値を見つけられるかね」

「輪ちゃん、頑張ってねー」

「応援、いる?」


 女性陣二人は不穏な空気を放っているが、蘇鳥は無視してダンジョンに思いを馳せる。


(レンタルスペースとして活用するのはどうだろうか?)


 蘇鳥は六畳一間ダンジョンの新しい価値を探るため、思考を巡らせる。

 レンタルスペースとしてはちょうどいいサイズだ。しかし、問題が多い。

 まず、頻度は少ないとはいえモンスターが出現すること。中に保管している物が壊される可能性がある。一つのスペースとしてはちょうどいいが、他にスペースがない。

 レンタルスペースとして貸し出しても、利用できる人が一人に限られる。利益を出すのは不可能だろう。


(なら、ダンジョン内に店を出すのはどうだろうか?)


 ダンジョンは特殊な空間だ。普通のお店には出せない特別な雰囲気がある。雰囲気次第では客が入るお店になるだろう。

 それに、お店なら店主がいる。モンスターが出現しても商品を壊される前に倒すことができる。ただし、お店に人がいない時にモンスターが湧いたら、商品を壊される可能性がある。

 毎回、ダンジョン内の商品を全部持ち出せば壊される可能性はない。面倒だが、商品のことを考えるのなら、24時間体制で商品を守るか、商品を毎回移動させるしかない。

 ダンジョン内店舗、悪くない案だが、わざわざ出店する意義があるかと言われると難しい。


(お店ということならカラオケも悪くなさそうだが……)


 ダンジョンのサイズからするとカラオケルームはちょうどいいサイスだ。

 しかし、ダンジョンに入れる客が一人、もしくは一つのグループになる。利益を出そうと思ったら、利用料がアホほど高くなる。

 わざわざダンジョンカラオケに来る客はいないだろう。顧客体験としては面白いが、高いお金を払ってまで体験する価値はない。

 カラオケ案は却下だ。


「店を出すのは難しいか」


 蘇鳥は他のお店を出せないか考えてみたが、どれもこれもダンジョンにわざわざ出店する理由が見つからなかった。お店の方向で活用するのは難しい。


(いや、待てよ。モンスターに壊されるというのを逆手に取るのはどうだろうか?)


 蘇鳥は新たに活用できそうな案を考える。

 モンスターに攻撃されても壊れないものをダンジョンに置いておけば、わざわざ回収したり、見守る必要がなくなる。

 案外悪くないのでは、と思う。


(ダメだな。販売できる商品がかなり限定される。売れる商品を並べられるか難しいな)


 今までの案に比べたら、いくらかマシだが、新しい価値としては弱い。先方に提案するにしても第三、第四の案となるだろう。


TIPS

六畳一間ダンジョン

全体でほぼ六畳しかないダンジョン。世界でも有数の狭いダンジョン。

ダンジョンランクは0。無害ダンジョン。

出現するモンスターはスケルトン、ブラウニー、シロカラス。

スキルの効果が消えるのが早い。そしてモンスターの出現間隔が非常に長い。一日で一匹しか出ないこともある。

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