第55話 仲間たちの結婚

掃除士学校の開校式の朝は、雲一つない快晴だった。


「第一期生の皆さん、ようこそ!」


翔太が壇上から35名の新入生に向かって語りかける。煌国からの留学生5名も、緊張した面持ちで並んでいた。異国の地での学びに、期待と不安が入り混じっているのだろう。


「今日から皆さんは、ヴェリディアン王立掃除士学校の第一期生です」


校舎は朝日を受けて白く輝いていた。わずか一ヶ月前にはただの丘だった場所に、立派な学び舎が完成している。


「掃除は、ただ汚れを落とすだけの仕事じゃありません」


翔太の声が、静かに、しかし力強く響く。


「世界を守り、育てていく技術です。そして何より、人々の心を清める尊い仕事です」


生徒たちの目が輝き始めた。最弱職と呼ばれていた掃除士。その価値観を変えた英雄の言葉は、若い心に深く染み込んでいく。


「皆さんがここで学ぶことは、きっと世界をより良い場所にするでしょう。共に頑張りましょう」


拍手が響き渡る中、エリーゼが優しく微笑んでいた。お腹も少し目立ち始め、新しい命の存在を実感させる。彼女は名誉顧問として壇上に座っていたが、その表情は誇らしげだった。



式典が終わり、祝賀会が始まった。


広い中庭に設けられたテーブルには、王都の料理人たちが腕を振るった料理が並んでいる。教師陣と生徒たち、そして建設に協力してくれた職人たち、王国の関係者が集まり、和やかな雰囲気の中で歓談していた。


「いやあ、立派な学校ができたもんだ」


大工の親方が、ジョッキを片手に満足そうに言う。


「英雄様の学校建設に関われて、光栄でしたぜ」


カールとレオは、早速生徒たちに囲まれていた。


「先生! 浄化魔法のコツを教えてください!」


「授業が楽しみです!」


若い熱意に、二人も嬉しそうに応えている。


そんな賑やかな雰囲気の中、突然、リクが立ち上がった。


手には何か小さな箱を持っている。顔は真っ赤で、明らかに緊張していた。


「あの、皆さん! ちょっと聞いてください!」


ざわめきが静まり、視線が集まる。


リクは深呼吸をしてから、ミーナの前に片膝をついた。


「ミーナ」


声が震えている。


「俺と……俺と結婚してください!」


箱を開けると、シンプルだが美しい指輪が光っていた。


一瞬の静寂。


ミーナは目を見開き、頬を赤く染めた。


「リク……」


「ずっと一緒にいたい。これからも、ずっと」


リクの真剣な眼差しに、ミーナの目に涙が浮かぶ。


「はい」


小さく、でもはっきりとした返事。


「もちろん、はい!」


歓声が上がった。


「やったー!」「おめでとう!」「ついにか!」


拍手と祝福の声に包まれる中、リクはミーナの指に指輪をはめた。


すると、突然――


《システム通知:祝福モード起動!》

《幸せのお祝いをします!》


空中に無数の花火が打ち上がり、紙吹雪が舞い始めた。しかも実体のない、光の演出だけの花火だ。


「なんだこれは!?」


リクが慌てるが、皆は大笑い。


「システムまで祝福してるじゃないか!」


「粋な計らいだな!」


BGMまで流れ始める。どこからともなく聞こえてくる結婚行進曲。


「相変わらずやりすぎだな、このシステム」


翔太も苦笑いしながら拍手を送る。



リクとミーナの幸せそうな姿を見て、他のカップルたちも動き始めた。


「レオ」


カールが急に真剣な表情になる。


「私たちも、そろそろ……どうかな」


「え、ええ!?」


レオが真っ赤になって動揺する。でも、その表情は嬉しそうだ。


「カール先輩……」


「ダメ、かな」


「ダメじゃない! 全然ダメじゃないです!」


レオが勢いよく答える。


「私も、ずっと一緒にいたいです。掃除士として、そして……」


言葉が詰まる。


「夫婦として?」


カールが優しく聞くと、レオは真っ赤になりながら頷いた。


また歓声が上がる。


「連鎖してるぞ!」


「幸せが伝染してる!」


そして、意外な組み合わせも。


「アルテミス」


ケンが静かに声をかけた。元山賊の彼も、今ではすっかり掃除士として活躍している。


「なんですか、ケンさん」


精霊術師の美しい女性が振り返る。


「あなたといると、安心するんです」


アルテミスが微笑む。


「戦いの中で、お互いを支え合いましたからね」


「これからも、支え合いたい」


シンプルだが、真摯な言葉。


「……はい」


アルテミスの頬が薄く赤く染まった。


さらに驚きの展開が。


「グレイス殿」


ヴァルガスが、珍しく緊張した様子で声をかける。85歳の老戦士と、65歳の癒し手。年の差はあるが、戦いを通じて育まれた絆があった。


「まあ、ヴァルガスさん」


グレイスが優しく微笑む。


「私のような老いぼれでも、よろしければ……」


「老いぼれだなんて。あなたほど頼もしい人はいませんわ」


グレイスの言葉に、ヴァルガスの厳つい顔がほころぶ。


「では、共に余生を」


「ええ、喜んで」



祝賀会は、いつの間にか婚約発表会のようになっていた。


「皆で一緒に結婚式をしよう!」


誰かが提案した。


「それいいね!」


「4組同時なんて、豪華だな!」


リクが皆を見回す。


「どうだ? 皆で一緒に式を挙げないか?」


カールが頷く。


「賛成です。仲間と一緒なら心強い」


ケンも同意する。


「俺たちは、戦いを共にした仲間だ。幸せも分かち合おう」


ヴァルガスも豪快に笑った。


「若い者たちと一緒とは、活気があってよい」


「じゃあ決まりだ!」


翔太が前に出る。


「合同結婚式の準備を始めよう」


エリーゼが手を挙げた。


「私が総合プロデューサーをやります!」


「でも、体調は……」


心配する翔太に、エリーゼは明るく答える。


「大丈夫よ。私は既婚だから、皆の幸せを演出するのが楽しみなの」


リン・シャオも協力を申し出た。彼女は月一回の特別講師として、この日も参加していた。


「煌国の婚礼衣装もお持ちします。東西の文化を融合した式にしましょう」


「それは素敵!」


ミーナが目を輝かせる。


「煌国式の儀式も取り入れて、国際的な結婚式に」


「では、二週間後はどうでしょう」


エリーゼが提案する。


「準備期間もちょうどよいかと」


「二週間後か……」


リクが少し考える。


「学校も始まったばかりだし、ちょうどいいな」


日程が決まった。


二週間後、ヴェリディアン王国史上初の、4組同時結婚式が行われることになった。



その晩、それぞれのカップルが、静かに語り合っていた。


学校の屋上で、リクとミーナが肩を並べて座っている。


「やっと平和になったから」


リクが静かに言う。


「戦いばかりの日々だったけど、これからは違う」


ミーナが優しく微笑む。


「これからは、守るだけじゃなく育てていく時代ね」


「ああ。子供たちが安心して暮らせる世界を作りたい」


「子供……」


ミーナが少し赤くなる。


「いつかは、ね」


リクも照れくさそうに笑った。


別の場所では、カールとレオが授業の準備をしながら話していた。


「掃除士として、夫婦として頑張ろう」


カールの言葉に、レオが頷く。


「生徒たちの手本になれるように」


「そうだね。公私ともに、良いパートナーになろう」


二人の間に、穏やかな空気が流れる。


ケンとアルテミスは、瞑想棟の近くを散歩していた。


「昔の俺を知ったら、きっと嫌われてた」


ケンが自嘲的に言う。


「過去は過去です」


アルテミスが静かに答える。


「今のあなたが大切」


「ありがとう」


月明かりの下、二人は手を繋いだ。


グレイスとヴァルガスは、中庭のベンチに座っていた。


「まさか、この歳で」


ヴァルガスが照れくさそうに言う。


「人生に遅すぎることなんてありませんわ」


グレイスの優しい声。


「新しい人生の始まりです」



翔太とエリーゼは、自宅のベランダから星空を眺めていた。


「皆が幸せそうで良かった」


翔太の言葉に、エリーゼが頷く。


「平和の証よね」


「そうだな」


エリーゼが、そっとお腹に手を当てた。


「この子が生まれる頃には、もっと平和な世界になってるかしら」


「きっとなってる」


翔太がエリーゼの肩を抱く。


「皆で作っていくんだ。より良い世界を」


「あなたと出会えて、本当に良かった」


「俺もだよ」


二人は静かに寄り添った。


お腹の中の新しい命に、翔太が語りかける。


「君が生まれてくる世界は、きっと素晴らしい場所だよ」



二週間はあっという間に過ぎた。


結婚式の朝は、前回の開校式と同じく、雲一つない快晴だった。


王都中がお祝いムードに包まれている。街のあちこちに花が飾られ、祝福の横断幕が掲げられていた。


『英雄の仲間たち、4組同時結婚式!』

『末永くお幸せに!』


王宮の大聖堂には、朝早くから人々が集まり始めていた。


控室では、花嫁たちが最後の準備をしている。


ミーナは純白のドレスに、煌国風の髪飾りを付けていた。東西の文化が見事に融合している。


「綺麗よ、ミーナさん」


エリーゼがうっとりと言う。


レオは少しシンプルなドレスだが、清楚で美しい。


「緊張します……」


「大丈夫よ。カールさんも緊張してるはず」


アルテミスは、精霊の加護を象徴する淡い緑のドレス。


グレイスは、年齢を感じさせない優雅な装い。


「皆、本当に美しいわ」


別の控室では、新郎たちが身支度を整えていた。


リクは正装の勇者の礼服。


カールとレオは、掃除士の正装に身を包んでいる。


ケンは、シンプルだが品のある黒の礼服。


ヴァルガスは、騎士団の正装で凛々しく。


「緊張するな」


リクが苦笑いする。


「魔王と戦った時より緊張する」


「分かる」


カールも同意する。


「でも、いい緊張だ」



いよいよ式が始まる。


聖堂には、国王夫妻を始め、多くの人々が集まっていた。煌国からの使節団、建設を手伝った職人たち、掃除士学校の生徒たち。


オルガンの荘厳な音楽が流れる中、花嫁たちが入場してきた。


美しい花嫁たちの姿に、聖堂中からため息が漏れる。


新郎たちの顔に、幸せそうな笑みが浮かぶ。


司祭が、厳かに宣言する。


「本日ここに、4組の新たな夫婦が誕生します」


そして、誓いの言葉。


「病める時も健やかなる時も、共に歩むことを誓いますか」


「誓います」


8人の声が重なる。


指輪の交換。


口づけ。


そして――


《システム通知:永遠の祝福バフを付与》

《効果:幸福度+∞(永続)》


「またか!」


皆が笑う中、聖堂に光の花びらが舞い始めた。


システムが勝手に演出を始めたのだ。でも今回は、皆それを楽しんでいた。


「これも思い出になるな」


リクが笑いながら言う。


新しい4組の夫婦に、盛大な拍手が送られた。


王国の歴史に残る、幸せな一日。


平和な世界で、新しい人生が始まる。


次なる冒険は、もうすぐそこに。


でも今日だけは、純粋な幸せに包まれていたい。


皆がそう思った、特別な日だった。


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【ステータス】

翔太 Lv.200【創世の掃除士・校長】

HP: 99999/99999

MP: 50000/50000


エリーゼ Lv.60【聖女・生命を宿す者】

HP: 8000/8000

MP: 5000/5000


結婚するカップル

リク Lv.72【真勇者】♥ ミーナ Lv.65【賢者】

カール Lv.48【上級浄化士】♥ レオ Lv.37【正式浄化士】

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