第41話 始原の影

朝日が昇らない。


第二の太陽の光も今にも消えそうで、世界は薄暗い黄昏に包まれていた。まるで世界そのものが、終わりを迎えようとしているかのように。


「前進!」


フリードリヒ3世の号令と共に、2100名の大軍が北へと進む。その先頭には、金色に光り輝く翔太とエリーゼの姿があった。愛の連鎖現象は未だ続いており、全軍が淡い虹色の光に包まれている。


「翔太様、前方に虚無の軍勢を確認!」


斥候の報告に、翔太は深く頷いた。地平線の向こうには、黒い霧のような存在が蠢いている。その数、一万を超える。


「ついに来たか...」


リクが剣の柄を握り締める。その隣でミーナが杖を構え、カールが盾を前に出す。


エリーゼの腹部の紋様が、まるで生き物のように脈動を始めた。金色の光が、彼女の全身を包み込んでいく。


「始まるのね...最後の戦いが」


彼女の声は静かだったが、その中に強い決意が込められていた。



前衛500名が、虚無の軍勢と激突した。


「うわっ!なんだこいつら!」


一般兵の剣が虚無獣を斬りつけるが、まるで霧を切るように手応えがない。黒い霧が狼の形を取った虚無獣は、真っ赤な眼をギラギラと光らせながら、牙だけが異様に鮮明に浮かび上がっていた。腐敗した土のような臭いが、その口から漏れ出している。


「魔法も効かない!」


後方から放たれた火球も、虚無獣の体を素通りしていく。


しかし——


「待て...俺の剣が光ってる!」


愛の連鎖現象に包まれていた兵士の剣が、淡い虹色の光を放ち始めた。その剣で斬りつけると、虚無獣が苦しそうに身をよじる。


「私の魔法にも浄化の力が...!」


魔法使いたちの呪文にも、同じような光が宿り始めた。


「みんな、手を繋げ!」


翔太の指示で、兵士たちが互いに手を取り合う。すると虹色の光がさらに強まり、虚無獣たちが後退し始めた。


「浄化王様の力が...俺たちにも宿ってる!」


歓声が上がる。しかし、虚無の数は圧倒的だった。倒しても倒しても、新たな虚無獣が現れる。


「くそっ、キリがない!」


前線の騎士が叫ぶ。その瞬間、巨大な虚無獣の爪が彼の胸を貫いた。


「がはっ...」


騎士が膝をつく。血が地面に広がっていく。


「ジェイク!」


同じ部隊の若い兵士、トマスが駆け寄るが、もう遅かった。ジェイクはまだ二十歳にもならない青年で、故郷には妹が待っている。彼は最期に天を仰ぎながら、血の泡を吹きながら呟いた。


「浄化王様...どうか、世界を...妹を...」


その言葉を最後に、ジェイクは息を引き取った。トマスがその瞳を閉じさせ、涙を拭いながら立ち上がった。


「ジェイクの分まで戦うぞ!」


トマスの叫びが、周囲の兵士たちの戦意を奮い立たせる。


翔太の拳が震える。


「みんなを...守れない...」


彼の心に、重い責任がのしかかっていく。すでに十数名の兵士が倒れ、さらに多くの者が傷ついていた。



突如、戦場の中央に黒い影が立ち上がった。


それは人の形をしているが、顔は見えない。ただ、赤く光る二つの眼だけが、こちらを見下ろしていた。


「我が名は影の君主。虚無の使者第二位」


その声だけで、周囲の兵士たちが膝をついた。まるで存在そのものに押し潰されそうな、圧倒的な威圧感。


「レベル...150だと!?」


ソフィアが震え声で呟く。


ヴァルガスが前に出た。彼の瞳には、激しい怒りが燃えていた。


「クリスタル様の仇...ここで討つ!」


「ヴァルガス、待て!」


翔太の制止も聞かず、ヴァルガスは影の君主に向かって突進した。


「【剛剣・天地開闢】!」


レベル85の全力を込めた一撃が、影の君主に叩きつけられる。しかし——


「ふん」


影の君主は片手でその剣を受け止めた。そして、まるで小枝を折るように、ヴァルガスの剣を砕いてしまった。


「なっ...」


次の瞬間、影の刃がヴァルガスの脇腹を切り裂いた。


「ぐあっ!」


鮮血が舞い、ヴァルガスが地面に倒れる。


「若造が...」


しかし、そこにグレイスが割って入った。レベル65の老浄化士は、静かに杖を構える。


「経験の差を見せてやる」


グレイスの浄化術とヴァルガスの剣技。二人の連携が始まった。


「右から行くぞ!」


「左は任せな」


老練な二人のコンビネーションは見事だった。影の君主の攻撃を巧みにかわし、反撃の隙を作り出していく。


しかし、それでも影の君主には傷一つ付けられない。そして、二人の体力も限界に近づいていた。


「はぁ...はぁ...」


ヴァルガスの呼吸が荒くなる。脇腹の傷から、止まらない血が流れ続けている。


「千年経っても人間は変わらぬな」


影の君主が嘲笑した。



その時、エリーゼが前に出た。


「封印術式・展開!」


彼女の腹部の紋様が、金色の光となって空中に展開された。古代文字が次々と浮かび上がり、巨大な魔法陣を形成していく。


「これは...千年前の封印術式!」


ソフィアが驚愕の声を上げた。


エリーゼが両手を広げると、魔法陣が地面に広がった。その範囲内にいた500体もの虚無獣が、次々と光に包まれていく。


「動けない...!」


虚無獣たちが苦しそうに身をよじるが、金色の光から逃れることはできなかった。そして、一体また一体と、その場に封印されていく。


しかし——


「ゲホッ...」


エリーゼが吐血した。膝が震え、今にも倒れそうになる。


「エリーゼ!」


翔太が彼女を支える。エリーゼの顔は真っ青で、唇からは血が流れていた。


「大丈夫...まだ、戦える」


彼女はそう言うが、明らかに限界が近い。封印術を使うたびに、彼女の命が削られているのは明白だった。


ソフィアが苦い表情を浮かべる。彼女だけが知っている——この封印術の本当の代償を。


(まさか...命と引き換えに...)


しかし、その事実を口にすることはできなかった。今、それを言えば、全軍の士気が崩壊してしまう。



激戦の末、ついに第一陣を突破した。


しかし、その代償は大きかった。


「犠牲者...100名以上」


リクが重い声で報告する。その中には、20名もの浄化士が含まれていた。


重傷者も多数。それでも、誰一人として退こうとはしなかった。


「世界の穴まで、あと10km...」


ミーナが地図を見ながら呟く。しかし、その先からは濃密な虚無のエネルギーが噴き出していた。


第二の太陽が、さらに暗くなる。


「時間がない...」


翔太は全軍を見渡した。傷つき、疲れ果てた兵士たち。しかし、その目には諦めの色はなかった。


「みんな、聞いてくれ」


翔太が声を上げた。


「ここで退けば、世界は終わる。でも、みんなで力を合わせれば、必ず道は開ける。愛の力を信じて、前に進もう!」


兵士たちの間から、歓声が上がった。


「浄化王様!」


「俺たちがついてます!」


「世界を救うんだ!」


翔太の胸で、太陽の欠片が微かに震え始めた。まるで、何かに反応しているかのように。


(これは...何に反応してる?)


しかし、その答えを考える暇はなかった。



世界の穴を前に、全軍が息を呑んだ。


直径1kmを超える漆黒の穴。その底は見えず、ただ虚無のエネルギーが噴き出している。穴の淵からは、低い唸り声のような音が絶え間なく響いており、近づくだけで頭痛がしてくる。空気は冷たく、まるで生命そのものを拒絶しているかのようだった。


「これが...世界の穴」


翔太が呟いた時、穴の奥から声が響いてきた。


「よく来たな...運命の子らよ」


その声は、どこか懐かしく、そして恐ろしく響いた。虚無の使者第一位か、それとも虚無王自身か。


なぜか第一位の姿は見えない。それが不気味な静けさを生み出していた。


(なぜ最強の第一位が来ない?何か理由があるのか...)


エリーゼが翔太の手を握る。


「行きましょう。最後まで、一緒に」


翔太は頷き、聖剣エクスカリバーを抜いた。


剣が激しく震え、まるで何かを警告しているかのようだった。


第二の太陽が、今にも消えそうだった。


残された時間は、あとわずか。


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【翔太】

 職業:真なる浄化王

 レベル:100

 HP:12,000 / 15,000

 MP:6,500 / 8,000

 

 習得スキル:

 ・聖愛浄化・調和(エリーゼとの合体技)

 ・概念浄化Lv.MAX

 ・絶対浄化Lv.MAX

 

 装備:

 ・聖剣エクスカリバー

 ・浄化王の外套

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【エリーゼ】

 職業:王女・封印術師

 レベル:42

 HP:3,200 / 4,200

 MP:4,800 / 5,500

 

 状態:封印術の負荷で体調不良

 

 習得スキル:

 ・封印術・時空凍結

 ・愛の連鎖

 ・聖愛浄化・調和(翔太との合体技)

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【リク】

 職業:真勇者

 レベル:52

 HP:8,500 / 8,500

 MP:3,500 / 3,500

 

 習得スキル:

 ・勇者剣・破邪

 ・真勇者の力

 ・護衛の誓い

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【ミーナ】

 職業:大魔導師

 レベル:56

 HP:4,500 / 4,500

 MP:8,200 / 9,000

 

 習得スキル:

 ・時空固定

 ・希望の灯火

 ・天変地異

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【カール】

 職業:聖騎士

 レベル:46

 HP:6,800 / 7,000

 MP:2,500 / 2,800

 

 習得スキル:

 ・聖騎士の守護

 ・絶対防御

 ・聖剣の誓い

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【レオ】

 職業:見習い浄化士

 レベル:28

 HP:2,000 / 2,000

 MP:1,200 / 1,200

 

 習得スキル:

 ・純粋な心

 ・勇気の一歩

 ・小さな浄化

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