巡る日々③

 サジャは一旦自室に戻り、外行きの服を脱ぐと、ベッドの縁に腰を下ろして息を吐いた。

「なんとか無事に終わった……」

 日中はあまり意識していなかったが、やはり相当緊張していたらしい。アンシルは気さくな皇女だったが、そうは言っても皇女は皇女だ。サジャはもう一度安堵の息を吐くと、いつもの服に着替えて食堂に向かった。

 食堂に着くと、「あ、サジャ。こっちこっち」と呼ぶ声がした。振り向くと、隅の席に腰かけたアンシルが手を振っていた。

 目を点にしたサジャに、セーラが申し訳なさそうな顔で弁明する。

「驚かせてしまって申し訳ありません。魔王陛下から食堂で食事する許可を頂けたので……」

「魔王様も食堂でお食事されると聞いたから、わたしも使ってみたくなったの」

「そ、そうでしたか」

 来客にも食堂は開放されているが、アンシルのような国賓に対しては当然、専用の場が設けられる。というか、サジャの記憶が正しければ、今日の主の夕方以降の予定は「アンシル皇女と会食」となっていたはずである。

「魔王様の前の予定が長引来そうなんですって。それで、わたしは先に食堂で夕飯を食べて、会食は魔王様のお部屋で別途開催ということになったの」

「別途、ですか」

「魔王様のお友達の、ガルプ伯の御令嬢もいらっしゃるんですって」

「……なるほど」

 ガルプ伯の令嬢の話は、アンナから訊いている。その話からすると、今夜主の部屋で行われるのは、和やかな会食ではないだろう。果たしてそんな場に、年若い皇女を連れ出して良いものだろうか。……案外、あっさりと順応しそうな気もするが。

「そういうわけだから、ほら、サジャも一緒に食べましょ」

「は、はい」

 お盆を手に食事を取りに行く道中、サジャはまたも奇妙な場面に出くわした。

 リックがなんとも微妙な表情でテーブルに着いている。彼は夕飯の時刻は厨房か洗い場にいるはずなので、普通ならこの時間の食堂で見かけることはない。しかしそれだけなら、そういう日もあるのだろうで済ませることができる。

 リックの手前の席には、日中ともに町を回ったふたりの魔術師が座っている。見たところ喋っているのはもっぱらラジンで、アインはリックと同様になんとも微妙な雰囲気を醸し出しつつ押し黙っている。

「おや、サジャ殿。今日はご苦労様でしたな」

「あ、いえいえ、こちらこそ一日お付き合い頂いて……あの、ラジン様のお弟子というのはひょっとして」

「無論、このリックめのことです。数年厄介になったあげく、何の断りもなく姿をくらました不肖の弟子ですじゃ」

 無言でスープを口に運んでいたリックは、わずかに顔を上げて「そのことはさっき謝ったでしょう」と無愛想に呟くと、また食事に戻る。

 感動の師弟再会とは言い難い雰囲気を察し、サジャはそそくさとその場から立ち去ろうとする。するとふいに、静かに佇んでいたアインが声を発する。

「なんにせよ、リックが無事にやっているようで安心したよ」

「そうじゃな。おおかた王都へ辿りつく前に野垂れ死ぬか、王都の路地裏で行き倒れるかのどっちかだと思っとったんじゃが」

「私は、そこは大丈夫だと思っていましたよ。リックは優秀でしたから」

「うん、優秀ではあったな。しかし、どうにも融通が効かんというか、思いこんだら突っ走るようなところがあるからの」

「それはまったく同意見です」

 褒められつつ貶される状況を、リックは黙々とやり過ごしている。しかし、

「サジャ殿から見てリックはどうですかな。わしの不肖の弟子は、ここで上手くやっていけていますかの」

 突然同僚に話を振られると、リックは目に見えて動揺する。

「サジャは魔王様付きだから、僕の仕事のことなんて知らないだろ」

「そうね。ただ、厨房で働いている人たちからも、とても評価が高いとは聞いています。それから魔王様も、リックはものを教えるのが上手いとおっしゃっていました」

「あ……サジャ、その話はちょっと……」

「どうして? 立派なことじゃない。今はタニサさんの許可も頂いているし」

「そういう問題じゃ……」

「魔王様に何か教えてさしあげているのかね?」

 ラジンに問われ、リックはふいと顔を背けるが、やがてか細い声でこう呟く。

「……料理の作り方を、少々」

「ほう、料理」

 ラジンは意外そうに眉を上げる。

「なるほど。リックは昔から料理が上手でしたからね」

「そうじゃな。お前さんがいなくなってから、飯の時間がつまらなくなった。アインのやつめときたら、味付けも火加減もまるでなってないからの」

「味付けはともかく、火加減は仕方ないでしょう。私ではリックの真似事もままならないのですから」

「まあな。火の魔術の微細な加減に関しては、わしも敵わんほどじゃったからな」

 リックが顔を背けたまま「……そうでしょうか」と問うと、ラジンとアインは目を見合わせる。

「驚きましたね」

「ああ、随分角が取れた。以前なら、調節が上手なだけでは何の意味もありません……とかぬかしとったじゃろうからな」

「気が変わったんです」

相変わらず無愛想な顔でリックは言うが、その声は少し丸みを帯びているようにも聞こえる。

「リックはどうして王都にやってきたの?」

 サジャの突然の問いにリックは目をぱちくりとさせ、しばらく考えた後にこう答える。

「そんなたいした理由はないけど……僕は強くなりたかったんだ。だから、魔王様の元で働きたいと思った。理由はたぶん、それだけだよ」

「じゃあ、本当は厨房以外の場所で働きたかった?」

「最初というか割と最近まではそう思ってたんだけど……今は、どうだろう」

「まあ、好きにすればいいことじゃよ。お前さんには天分があり、今はその天分を活かせる仕事に就いている。それは得難い幸福じゃが、お前さんが求めているものが他にあるなら、それを目指してみるのもひとつの道じゃろ」

 リックは拗ねたような顔で師を見る。

「荒事には向いていないとおっしゃったのはラジン様じゃないですか」

「うん、その意見は今も変わらんよ。だが、わしの意見はわしの意見に過ぎんし、老人の言葉に素直に従ってやる義理もないじゃろ?」

「ただのご老人の言葉なら気にも留めないでしょうが、他ならぬラジン様のお言葉ですから、流石に気にします」

 リックの言葉にラジンが言い返し、リックがまた言い返す。その様子をアインが穏やかな顔で眺めている。これ以上は邪魔と思い、サジャはその場を離れる。

 

「だから、絶対そこの廊下で見たんだって! 胸に短剣が刺さってて、血をぼとぼと垂らしながら歩いてるペトランタ公の幽霊!」

「メル、あんたって相変わらず馬鹿ねえ……血を垂らしながら歩いてたなら、跡が廊下に残ってるはずじゃない」

「それはあれなの、あたしが起きてくる前にサジャが拭いちゃったの!」

 一瞬の間の後、部屋の中に弾けるような笑いがこだまする。陽気を通り越した、乱痴気騒ぎめいた雰囲気。

 ……やはり、想像が当たってしまった。

 サジャは首を振り、それから横に立つセーラを見る。彼女もまた、目の前の光景に言葉が出てこない様子である。その横のアンシルだけが、柔らかな笑みを崩していない。

「ほら、皇女様もこっち来てお話ししましょうよ」

「そうそう、美味しいお酒もお菓子もいっぱいあるんだから」

 赤らんだ顔で手招きする魔王とガルプ伯令嬢を、サジャはなんとも言えない表情で眺める。ガルプ伯令嬢は、素面のときは魔王よりまっとうな性質の持ち主に思えたが、やはり類は友を呼ぶということらしい。

「ニナ様、殿下に対してその口の利きかたは流石にいかがなものかと……」

 ふたりの横で居心地悪そうに佇む青年が言う。たしか彼は、ガルプ伯の元で研究をしている学者だったはずである。

「大丈夫よ、エイブラム。アンシル皇女はとってもお優しい方だもの」

「陛下、そうはおっしゃいましても……」

「気遣ってくれて、ありがとうございます。でも全然構いませんよ、わたしも堅苦しいのは苦手だから。ところであなたはリード子爵の御子息ですよね?」

 アンシルが問うと、エイブラムはいずまいを正して端正に挨拶をする。そうすると、横でへべれけになっている主たちとの落差が一層大きくなる。

「慈幽草の研究をされているのですよね?」

 そうそう、と魔王は大きく頷く。

「あたしも話を聞かせてもらったんだけど、すごく優秀よ。エイブラムの研究が上手くいったら、きっとたくさんの人の命が救われると思う」  

「そうですね……これまでは研究が軌道に乗るまでだいぶ時間がかかりそうだと思っていたのですが、幸い想定よりも早く結果を出せそうです。優秀な助手がついてくれたので」

「助手……それは帝国から一緒に来た方? それとも王国の?」

「王国の方です。やんごとない御身分にも関わらず、私のような若輩に手を貸してくださる、大変広い心をお持ちの方なのです」

「……あんたね」

 ニナがぶんと手を振りかざすと、エイブラムはすかさずそれを避ける。

 アンシルはきょとんとふたりを見比べてから、ニナに視線を向ける。

「ニナ様がエイブラム様のお手伝いをされているんですか?」

 アンシルが問うと、ニナは先ほどまでの箍の外れた陽気さはどこへやら、みるみるうちにしおらしい様子になる。 

「お手伝いっていうか、そんなたいしたことはしてないんだけど……」

「とんでもない、ニナ様のおかげで研究が予定より五年は早く進んでいます」

「またそんなこと言って……」

「お世辞ではありませんよ。私は本当にニナ様に感謝しているんです」

「あっそ」

 ニナはぷいと顔を背けたが、その顔が赤らんでいるのはワインのせいばかりではなさそうだった。

「……ほら、皇女様もそんなとこ突っ立ってないで、座って座って」

 照れ隠しのようにニナが言うと、アンシルは床に敷かれた毛布の上に行儀良く腰かける。

「アンシル様、お酒は……」

「ふふ、大丈夫よ。セーラ」

「え、飲めないの?」

「帝国の法律では、わたしはまだ飲んじゃいけない年なんです」

「いいじゃない、ここは王国なんだから。魔王陛下だってそれくらい許してくれるわよ」

「うん、許す許す! 魔王の名の元になーんでも許す!」

「あら、本当ですか? それじゃあお言葉に甘えて……」

「アンシル様、私が叱られてしまいますのでどうか……」

 サジャはこれからこの場所で巻き起こるであろう大惨事と、その後の片づけを想像してため息を吐くが、自分より何倍も齢を重ねているくせに子どものような振る舞いの主を見る目は暖かかった。

 しかしその目も数刻の後、実際に片づけを行う段になると、冷たく無機質な色にすっかり染まってしまっていた。屍のように横たわる主。毛布に突っ伏したまま何やら譫言を漏らしているガルプ伯令嬢。その間で相変わらずにこにこと微笑んでいるアンシルと、耐え忍ぶように杯に口をつけているエイブラム。彼らの周囲に散らばる食べかけの菓子。飲みかけのワイン。床の食べかすと毛布に落ちたシミ。

「それじゃ、そろそろお開きにしましょうか」

 アンシルの言葉に、サジャとセーラは無言で頷く。エイブラムはアンシルに恭しく別れの言葉を告げると、ニナを抱き起こし、というか担ぎ上げて退散する。

「後はわたしが綺麗にしておきますので……」

 サジャがそう言った瞬間にはもう、セーラとアンシルは片づけに取りかかり始めていた。

「サジャ様おひとりでは大変でしょう」

「わたし、こう見えて掃除は結構得意なのよ。セーラが来てくれる前は部屋も自分で掃除してたしね」

 サジャはまた口を開きかけたが、思い直して深々と頭を下げる。皇女に片づけをさせるなど本来あるまじきことだが、不思議とこれ以上何か言う気持ちにはならなかった。

 飲み残しのワインを抱えて部屋の外に出ると、廊下にひとつの人影を見つけた。背の高い、一分の隙もない立ち姿。近づくサジャに気づくと、礼儀正しく頭を下げる。帝都の騎士団の団長を長年勤めたほどの人物でありながら、ランダルトの物腰はあくまで丁寧で控えめである。

 サジャも頭を下げ、そのまま立ち去りかけたが、思い直して立ち止まり、振り返る。

「あの、ランダルト様。今日、ディア……門番の子と話されていましたよね」

 サジャの問いに、ランダルトは頷く。

「一体何の話をされていたのですか?」

「とある方のことについて、尋ねておりました」

 ランダルトは一拍間を置き、また話し始める。

「私は五十年前にも王都を訪れているのですが、その際、ひとりの女性が王都への道案内を務めてくれていました。その方は、あの門番の少女とよく似た姿をしていました。だから私は彼女に、その女性のことを知らないだろうかと尋ねたのです」

「ディアは、その方のことを知っていたのですか?」

「はい。その方は彼女の祖母でした」

「……それは、すごい偶然ですね」

「はい。その方……彼女の祖母は、私が王都を訪れてからしばらく経った頃に故郷に帰ったそうです。それからずっと、亡くなるまで故郷で暮らしていたと」

「そうなのですね」

 サジャの表情に影が差す。ディアの故郷で起きた出来事については、サジャも聞いていた。

「彼女に一言、約束を破ってしまったことを謝りたかったのですが」

「約束?」

「聖祭の最終日には、大広場に多くの人が集まり、歌や踊りに打ち興じるそうです。五十年前、私は彼女と大広場で踊る約束をしました。しかし私は結局、大広場に行かなかった」

「何か行けない理由があったのですか?」

「はい。私には、彼女と踊ることができない理由がありました。私は彼女に謝り、なぜあの日私が大広場に行けなかったのか話したいと思ったのです」

 ランダルトの声は静かだった。しかしその奥には何か、張り詰めたものがあった。迂闊に部外者が踏みこんではいけない領域。サジャはそう直感し、その場を立ち去ろうとした。

 そのとき、背後で扉の開く音がした。

「サジャ、これも持ってちゃってくれるかしら……あら?」

 寝起きの声で言った魔王は、廊下にサジャ以外の人影があることに気づくと、寝癖のついた頭を軽く振る。

「あ、そうか。あなた、ランダルト様よね。あたし、あなたに会ってみたかったの」

「……なぜでしょうか」

「帝国の小説を読んでると、あなたの名前がよく出てくるの。だから、実物はどんな方なんだろうって」

 想定外の答えだったらしく、ランダルトの顔に当惑が浮かぶ。

「だけど、意外と細身なのね。竜を斬ったって書いてあったから、それこそ山みたいに大きな人を想像してたんだけど」

 魔王が言うと、ランダルトの表情は再び硬くなる。

「竜を斬ることができたのは、私自身ではなく武器の力です」

「あら、そうなの?」

「陛下も覚えておいでではないでしょうか。五十年前の聖祭の最終日、この城に現れた竜のことを」

 魔王の表情が少しだけ変わる。

「あったわね、そんなことも。そう、あれを倒してくれたのはあなただったのね」

「はい」

 少しの間を置いた後、魔王はふっと微笑む。

「王国を脅かす脅威を払ってくれたこと、国主として礼を言わせてもらいます。五十年越しになってしまって申し訳ないけど」

「……いえ」

 ランダルトは俯き、絞り出すような声で言う。

「謝らなければならないのは、私のほうなのです。私は……」

 ランダルトの言葉を遮るように、魔王は大きな欠伸をひとつする。

「真面目な話したら、なんだかまた眠くなってきちゃった。あ、サジャ。それ、やっぱりまだ飲むわ」

「もう十分すぎるほど飲まれたかと思いますが」

「飲み足りないのよ。一年に一度のお祭りなんだから、盛大に祝わないと。ランダルト様も、せっかくいらしたんだし楽しんでいってくださいな。たとえば、そうね……大広場の踊りに参加されるとか。ランダルト様となら踊りたい子はごまんといるはずですし、是非一緒に楽しんでやってください」

「一緒に、ですか」

「はい。あたしは帝国の方たちにも、王国の民たちとともに楽しみ、一緒に笑いあってほしいんです」

「わかりました。アンシル様の傍を離れるわけには行きませんが、考えさせて頂きます」

「本当? ランダルト様にそう言ってもらえると、うれしいです。ありがとうございます」

「……感謝するのは、こちらのほうです。ありがとうございます、陛下」

 ランダルトは深々と頭を下げる。

「あ、ランダルト。ごめんなさい、待たせちゃったわね」

 部屋から出てきたアンシルとセーラに、魔王はぺこりと頭を垂れる。

「アンシル皇女。それにセーラも、今日は本当にありがとう。サジャ、皆さんを送ってあげて」

 道中、サジャとアンシルとセーラは、ぽつぽつと今日一日の出来事について話をした。夜の城の廊下はひんやりとした空気に包まれていて、先ほどの宴会、もとい会食の熱気がすうっと冷めていくようだった。

「サジャ」

 アンシルに名を呼ばれ、サジャは振り返る。

「ダナモス様から、魔王の城で働かないかって訊かれたとき、どう思った? すぐに、やりますって返事をしたの?」

「そうですね。その日のうちに返事をしたと思います」

「怖くはなかったの?」

 サジャは、ダナモスが尋ねてきたあの日のことを思い出す。

「はい。怖くはなかったし、当惑もしていなかったと思います。ただ淡々と、与えられた機会に対して頷いたような覚えがあります」

「本当ですか?」

 セーラが感嘆混じりの声で言う。

「私なら……もしあのとき、アンシル様の侍女でなく、魔王様の侍女になってくれと言われてたら、尻込みしてしまったと思います」

「そうよね。わたしだって、今日からあなたは魔王様の侍女ですって言われたら、どういうこと? って返しちゃうと思うわ」

「そうですね。わたしも祖父から話を聞いていなければ、そういう印象を持っていたと思います」

「え、おじい様から魔王様の話を聞いていたの? それってどういうこと?」

「魔王様の話ではなく、王国の町や村の話なのですけど……」

 言いかけて、サジャはふと小さな違和感を感じる。

「どうかした?」

「あ、いえ。なんだか自分の言葉に引っかかりを覚えて」

 祖父から聞いたのは、旅をした王国の町や村のこと。王都で偶然出会った奇妙な仮面の人物のこと。

 ……本当にそれだけだっただろうか。

 朧げな記憶を丹念に手繰り寄せてみると、翠の髪の美しい女性の姿が現れてくる。実際にその人物を見たのではなく、祖父の巧みな語りを通して描かれた姿だ。彼女はある日、仮面の男とともに酒場に現れたという。どこの誰なのかも、何の仕事をしているかも謎だったが、妙に話が盛り上がり、ふたりはすっかり意気投合した。

 生まれたばかりの孫娘がいると言うと、女性はいつか会ってみたいと言った。だから、祖父はいつか必ず孫を王都に連れてくる、なんならこの町で働かせたって構わない、ただし次の勝負で俺に勝てたらな……と請け合ったのだという。

「サジャ、どうしたの? 不思議そうな顔してると思ったら、今度は急に笑いだして」

「あ、いえ。ひとつ、腑に落ちたことがありまして」

「ふうん。それっていいこと?」

「はい。思い出すことができて良かったです。アンシル様の言葉のおかげですね」

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