第10話 消えたぬいぐるみ
公休日―リューは自宅リビングで孫が来るのを待ちわびていた。
家の中は静かで、どこか温かい灯りがリビングをぼんやりと照らしている。
「おじい様、こんにちは」
孫娘が1人部屋に入ってきた。
だが、その声のトーンはいつもより少しだけ、か細く感じられた。
リューは微笑みながら、孫娘を抱えるとソファーに座り膝にのせてその顔をじっと見た。
いつも無邪気に笑うあの小さな顔が、今日はどこか沈んでいる。
「どうしました?元気がありませんね」
孫娘は目を伏せ、小さな声で答えた。
「プーアさんが……いなくなっちゃって、悲しいの」
リューは驚いた。
「プーアさん?」と繰り返すと、孫は大事そうに抱えていたはずのぬいぐるみがないことに気づいた。
「ああ……そういうことですか」
リューは眉をひそめた。
だがその瞬間、胸の奥で、何か冷たいものがじわりと広がった。
「プーアさんはね、いけないことをしたから、いなくなったんですよ」
リューは淡々と、孫娘に説明しようとした。
しかし、孫娘の目はうるんで、強く首を横に振る。
「違うよ。プーアさんは悪いことしない。プーアさんはいい子だもん」
その言葉に、リューの心はわずかに揺らいだ。
そして孫娘は、涙をこぼし始めた。
「困りましたね……」
リューは孫娘に対する憐みといら立ちが内心で渦巻き、どうあやしたらよいものか考えあぐねていた。
その時、娘婿が居間に入ってきて、その様子をみて咄嗟に頭を下げた。
「申し訳ございません。お義父様。娘が粗相をしてしまいまして……」
「いえ、構いませんよ。ただし、家庭での「教育」は今後しっかりと行うようにしてください。しっかりと、ね。このことは娘にも伝えておいてください」
リューの言葉に再度一礼すると、娘婿が孫娘の手を引いて慌ただしく退室した。
扉が閉まる音がして、ひとりになったリューは、なんとなくスマホを手に取った。
ふと、人気のSNS「センドゥ」を開く。
画面の中には黄色い影がちらついていた。
画像をタップすると──そこにいたのは、例のプーアだった。
投稿にはこんな書き込みが並んでいる。
「ネットの書き込みがよほど怖いんだな「プーア」は」
「確か「プーア」は学生時代、成績悪くて周りからバカにされていたんだっけ?」
「うん、だからゴマすりで出世したんだよ「プーア」は?」
「それで、自分より優秀で人気のあったリン首相は更迭されたんだっけ。」
「人間って、本当のことを言われると頭にくるって言葉わかるわ~「プーア」を見てると。
藁」
リューは画面を見つめ、怒りと焦燥に胸が焼けるのを感じた。
「くそ……」
指が震え、スマホの画面を破壊するかのように強く握りつぶす。
彼の中に、暗い闇が広がっていった。
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