エピローグ

それから十年が経った。


山路慎一は五十五歳になっていた。髪に白いものが混じり始めたが、その表情は穏やかで、深い経験に裏打ちされた威厳があった。


山路亭は今や、全国から人が訪れる「心の安らぎの場」として知られていた。しかし、決して商業的になることはなく、本当に必要な人だけが静かに訪れる場所として守られている。


健太は今では慎一の正式なパートナーとして、探偵業と案内人のサポートを両立させていた。論理と直感を組み合わせたアプローチで、より多くの人を助けることができるようになっていた。


田村雅子は、全国で講演活動を行い、喪失の悲しみを乗り越える方法を伝えていた。彼女の体験談は多くの人に希望を与えている。


そして山路亭には、新しい世代の客も訪れるようになっていた。かつて慎一に導かれた人たちの子供や孫が、人生の節目に山路亭を訪れるのだ。


慎一は彼らを見つめながら思う。人生という旅は、世代を超えて続いていく。そして山路亭は、その旅路の中で迷った人たちが立ち寄る、永遠の道しるべなのだと。


案内人としての役割に終わりはない。しかし、それこそが山路家に課せられた、美しい使命なのだった。


今日も山路亭には、新しい旅人が訪れる。


そして慎一は、変わらぬ笑顔で彼らを迎え入れるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最後の案内人 千日 匠 @SUNLIGHT-CARPENTRY

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ