🐾第2章 会社という名のアウェイ
オフィスの蛍光灯がまぶしい。書類の文字が滲む。くしゃみが出る――いや、出そうで出ない、出たかと思えば連発する、もはや一種の生き地獄。
「……ハ、ハックショイッ!!ッオラァ!」
「わっ、また出た! 大丈夫? ハルちゃん」
背後の席から声をかけてくれたのは、総務課の藤原さん。私より二つ年上で、落ち着いた雰囲気の人。いつも小ぎれいで、かすかにアロマの匂いがする。
「うぅ……だめかもです……今日、朝からミルフィが顔に乗ってきて、あのもふもふで私を窒息させようとして……それがもう幸せすぎて……」
「……それ、完全に猫アレルギーの症状よね」
藤原さんは呆れたように言いながら、そっとポケットティッシュを差し出してくれる。優しい。けど、その目の奥に「えっ、マジでヤバい子では……?」といううっすらした気配が見える。
「で、今日は病院には行くの?」
「行きます。抗アレルギー剤もらいに行きます。ええ、もう絶対行きます。でも……」
私は椅子にもたれて、天井を見上げる。
「もし私が死んだら、ミルフィはどうなるんだろうって思って。朝起きたら、誰に鳴いて甘えるの? ごはんはどうするの? お気に入りのぬいぐるみをちゃんと日向に干してくれる人、いるのかなって……」
デスクの周囲が静まり返る。
「……ハルちゃん、なんか……壮絶だね」
「猫愛、重すぎるわね。でも……すごいと思うよ、そこまで一途になれるのって」
藤原さんが、ちょっと引いた笑顔を浮かべながら、でもどこか本気で感心してくれているのがわかる。
「わかってくれる人がいればいいんです。わかってくれない人は、ネコ砂の下に埋めます」
「それは犯罪だからやめてね〜?」
それでも私はくしゃみを一発。机にティッシュが散らばり、画面には猫耳フィルターをかけたミルフィの写真が表示されたまま。
愛って、たぶん、馬鹿で、真剣で、そして……ちょっと怖い
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