踏切
はるむらさき
踏切
また明日、そう言ってお別れするのが好きだった。
春から始まって、夏も一緒に帰って、秋も冬も一緒に歩いた。
多分ずっと続くのだと、漠然と思っていた。
「え、都会の方に進学するの?」
そう言われた時、びっくりを通り越して思考が停止してしまった。
「うん、だからこうやって帰るのも今年で終わり」
「そうなんだ、君もこっちで進学なり就職なりすると思ってた」
「そのつもりだったんだけどね、やりたいことが見つかったんだ」
震えそうな声を我慢して、極力普通に話を続ける。
「でも、帰ってこないわけじゃないんでしょ?」
「盆と正月にはちゃんと帰るよ」
「私はこっちで生きていくからさ、帰ってきたら連絡してよ、遊ぼう」
「もちろん、君に会うために帰ってくるようなものだしね」
文明の利器である携帯電話があるこの時代に距離なんてものはあってないようなものだった、取ろうと思えば毎日連絡をするのは容易になっているこの時代は素晴らしいのだろう。
「私は、こうやって一緒に帰るの好きなんだけどな」
そう呟いたのが聞こえただろうに、君は聞こえない振りで笑うだけだった。
「僕もだよ」
だから、その呟きを私も聞こえない振りをする。
沈黙、しかし、嫌いじゃない沈黙、消えるのは二人の足音だけ。
「ねえ」
それを破ったのは私だった。
「毎年さ、会いに来てよ」
「盆と正月以外に?」
「うん、いつでもいいからさ、私に会うのを目的にして、来て欲しい」
少し前を歩く君の顔は、私からは見えない。
「いいよ、いつにしようか」
「それはお見送りの時に考えよう、行く日は教えてくれるんでしょ」
「もちろん、じゃあその時考えようか」
再び沈黙、そして目の前には踏切、これが私とあなたの境界線。
「約束だよ」
「うん、約束だ」
そう言ってあなたは、私を置いて踏切を渡る。
「またね」
「うん、またね」
渡りきったあなたは、私の方向を見て、そう言ってくれる。
さよならじゃなくて、またねと言って。
降りてくる遮断機と信号の音が聞こえる、規則正しくなる音が、私とあなたの会話を遮る。
それを合図にあなたは帰路を歩く、私を置いて、今日はいつもより長く、あなたを見送ることにしよう。
さようなら、また会いましょう。
その言葉は電車の音に巻き込まれ消えたけれど、多分届いていたんだろう、一瞬止まったあなたの背中を小さくなるまで見送った。
踏切 はるむらさき @HrkMrsk
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