いつも隣にいる君へ。

ぐったり騎士

真面目委員長と不良少年 01

「また、こんなところでサボってるの?」



 開放されていないはずの、開放されたドア。

 屋上へと出るそれをためらうことなく押してみれば、ドアの横に座り込んでいる、微かな赤毛を持つ少年を見つけて、彼女は言った。



「……眠いからって保健室で寝てたら、追い出されたんだよ」


 くぁぁ、と大きく伸びをしながら少年は面倒くさげに答える。 

 眠そうな少年の目は、普段からいつも力なく眠そうにしているため、実際に眠いのかどうかが少女にはよくわからない。

 ただ、それもまたいつものことであるので、彼女は気にすることをやめて言葉を返す。



「それはあたりまえでしょう」


「……そういうお前は、なんでここにいるんだ」



 呆れるように、それでもどこか楽しそうにため息をついている少女に、

 「おまえもサボりじゃないか」と少年が言うと、

 


「頭痛いからって、これから保健室に行くトコロ」



 あの先生、嫌いだから、と少女は舌を出す。


 その先生の授業を思うと、頭が痛くなるのは本当だしね――。


 言いながら、彼女は少年の隣に座った。



 瞬間、少女の肩まで伸ばしている黒髪が、ふわりと少年の額を撫ぜる。

 まるで彼女の指でそうされたかのような感覚に、触感とは別のくすぐったさを感じながら、少年は隣でスカートを器用に織り込みながら座った彼女を見る。


 くりくりとした、そして優しく下がる彼女の目は、クラスの女子生徒たちがよく人形に例えて可愛いと評していた。

 その目が今、少年のほうを向いて静かに何かを待っている。 


 少年はしばらくそれを見据えて、改めて思う。



 多分、彼女は美人なのだ。

 それも、純日本的な。

  

 特に、吸い寄せられるのは、彼女の髪の毛。

 異性の、ついでにいえば自分自身のもだが、髪型には特に執着のない少年であったが、それでも彼女の黒髪は、綺麗だと思う。

 少なくとも、自身の地毛にもかかわらず赤みがかかった散切りのソレが、釣り合わないことの証明ではないかと危惧するくらいには。



「……その先生様たちお気に入りの、学年トップの優等生委員長さんが、こんなところで俺といて、いいのか?」



 だから、というわけではないだろう。

 だが、少年は僅かな不機嫌さを込めて、少女への言葉を紡ぐ。

 もっとも、彼女は気にした様子もなく、あっけらかんと笑いながら、


「別に好かれたくて、やってる事じゃないですからね。…って吸殻」


 少年の足元に置かれた空き缶に、二本ほどぷかぷかと浮かんでいるそれ。

 ちゃんと水に浸されているあたり、この少年の妙なところでの真面目さに、少女は噴出してしまいそうになるのを、かろうじて抑えた



「……吸うか?」


 少年が、笑いながら一本差し出す。

 ちょうど子供が、好きな子にいたずらするような顔で。

 

 

「ううん、いらない。去年止めたからね」


「……お前……相変わらず、俺の予想を超えるのな」



 これが彼女流のジョークであれば、上手い返しだと笑うべきかも知れないが――


 おそらくは本当なのだろう。


 いつだって本気で、いつだって真面目。そして、いつだって少年を驚かせる。

 

 そういう彼女だから、少年は、この少女を――。





「だから、貴方もタバコはやめなさい。」


 風に揺れる少女の髪に、少しだけ呆けるように見つめていたて少年は、彼女からの唐突な言葉に我に返る。

 そして少年は不貞腐れるように聞いた。



「なんでだよ…」



 訝しげに聞く少年の唇を、少女は人差し指で塞ぎながら――



「接吻けの時、タバコの匂いを片方だけさせてるの、嫌なの」

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