女子高生艦長、がんばる!〜白銀のマビノギオン 第一章 『遥かなる地球へ』〜

杵露ヒロ

第1話  女子高生のわたし、戦艦の艦長に… ①

新暦0997年。12月。もうすぐ、わたしの誕生日。そして、地球もコロニーもキラキラしたクリスマス一色になる季節がやってきた。最近のニュースは、『プラチナミレニアムまで後3年!』って、どこもかしこも大騒ぎで、なんだかすごいことになりそうな予感!


…あっ、ごめんなさい!わたし、エリィシア・ノイマン。みんなからはエリィって呼ばれてるのよ。真っ赤な髪とルビーみたいな大きな瞳がトレードマークの私立高天第参高等学校に通う、16歳の、まぁいわゆる『華の女子高生』ってやつかな!アーチェリー部のエースで、趣味は可愛い帽子を集めること。

そう!何を隠そう、わたし達こそが、記念すべき新暦1000年にハタチになる『プラチナミレニアム世代』なの!



そんなわたしが今どこにいるかというと――毎年恒例、二学期の特別プログラムで行く、宇宙コロニーの姉妹校との交流研修の帰り道。長かったようで短かった研修を終えて、久しぶりに地球に帰るために、学校のみんなとシャトルに乗り込んでるところ。


このシャトル、乗客と乗務員を合わせたら400人も乗れる大型機なんだって。もちろん、信頼と安心のアーク・ジャパン製!なんたって、わたしのお父さんが勤めてる天照重工の名機らしくて、就航以来一度も事故を起こしたことがないのが自慢なんだとか。さすがだよね!


…なんて、わたしが当たり前のように『地球』とか『コロニー』とか言ってるけど、ひょっとして、わたしのいる世界がどんなところか、知らない人もいるかな?


ざっくり言うとね、今の地球は、遥か昔にあった『大破壊グレート・カタストロフ』っていう大災害のせいで、ほとんどが氷漬けになっちゃってるんだ。大暗黒時代の到来ね。その大災害の影響で、わたし達の国、日本は、赤道近くまで南下して、世界で一番住みやすい常春の『楽園』になった。そして、周りの島々も一緒になってできたのが、今の『アーク・ジャパン』ってわけ。


今じゃ、世界の言葉も、時間も、お金も、全部アーク・ジャパンが基準。その基準が生まれたのが『新暦』の始まり。


そんなアーク・ジャパンの首都、高天市で生まれ育った、ごく普通の高校生。

それが、わたし、エリィシア・ノイマン。


「エリィちゃん、食べる?」

チェックインを済ませ、席に着こうとするわたしに声をかけてくるのは、クラスメイトにして、親友、というか幼馴染のピンクの髪が特徴の『星宮ヒメカ』が、早速コロニーのお土産を開けて食べ始めている。

「いや、出港して安定航行に入るまでダメっていつも言われてるじゃない」

「だって…お腹すくし…」

ぐぅ~、と鳴るヒメカのお腹。

この娘は、常に何かを食べてないとダメな娘なのよ。子供の頃から燃費がすこぶる悪く、それでいて極めて鈍臭くて運度音痴。ぼ〜っとしてる事も多く、クラスでは不思議ちゃん扱いね。ただ、不思議と学力は高いのよね。


溜息をつきながら周囲を見渡す。

担任の汐見ナギサ先生を見つける。わたし達の担任の先生で担当科目は家庭科。大きい眼鏡にセミロングの黒髪のおっとりしていて優しい先生。少しドジでたまに、調理実習の手順間違えてパニクるけど…

そんな、先生は既にお疲れな様子。丁度窓際の席だったのが幸いして既に口を開けて寝ている。あっ!眼鏡ズレてる。ちょっとカワイイ♪


「さっすが!天照重工製!パネルの継ぎ目とかどうなってんだ?宮大工の技術の応用か?おお!シートもまぁ、良い合皮使ってんねぇ!いや~経費じゃなきゃ乗れないよ!たまんないなあ!」

何かテンション高い変なオネイサンがいる…

日本人っぽいけど、茶髪のショートカット。頭に…ゴーグル?服は…ツナギ?メカニックの人なのかな?

うわぁ、話しかけられて隣の男子ドン引きしてるし…


別の方を見てみると、おっ!ダンディなオジサマ発見!わたしのお父さんに負けず劣らずのダンディだわ!

短く整えた清潔感のある金髪に知的な眼鏡。EUかアメリカの人かな?スーツをビシッと着こなして、脚を組んで優雅にお茶を飲んでるわ。

あ、さっきの「安定航行まで飲食禁止」というのは学校のルールね。

あ!隣の女子!声かけられてる!うらやましい!


「ちょいとごめんよ」

わたしの後ろに現れたのは、30歳くらいの中国系のお姉さん。高そうなチャイナドレスに、レザーのジャケット。って、どんなセンスなんだろ?

それにしても。

……

………

なんか、お酒臭い…

「ああん?アタシの顔に何か付いてんのか?そこが、アタシの席なんだけどね」

空いていた窓際の席を顎で指すお姉さん。

「あ、ごめんなさい!ほら、ヒメカ!」

わたしの注意お構い無しに既にモグモグタイムのヒメカを立たせて、お姉さんに座ってもらう。

ドカッと席に座って脚を組む、そして…

懐から銀色の。なにあれ?スキットルっていうんだっけ?アニメとか映画で見たお酒入ってるやつ、を取り出してわたし達お構いなく飲み始めるお姉さん。

「ああん?何か文句あんのか?お嬢ちゃん。別に飲酒は禁止されてないだろ?」

いや、そうですけど!

隣が未成年なんだから少しは遠慮しなさいよ!

これだから、中国系はっ!

ここで、重大な事実が発覚。


わたしの、隣。この昼から呑んだくれお姉さんじゃん…

うわ!最悪!楽しいシャトル旅行はどこに!席替えを所望するわ!


下を見るとチケットが落ちてる。

誰か、落としたのかな?名前は、『孫麗玲ソン・リーリン』。中国系?近くに中国系の人は…

隣の人だ…

え~っ…声かけ難いよぉ…

チラ見でもしようものなら睨み返してくるし…

恐いよぉ…


隣の恐いお姉さんに緊張して生きた心地のしないシャトルの中。

ヒメカに話しかけようにも…睨まれそう…

そんなヒメカを横目に見ると…

「あ、CAのおねえさん、ポテト追加でください。大盛りでお願いします」


人の気持ち、おかまいなしかよ…


安定飛行に入ってからは、もう止まらない。と言っても、ガツガツ食べるんじゃなくて、一口は小さいのに、ずーっと淡々と食べ続けてるタイプなんだけどね。


うん、知ってた。

この娘、周りの空気読まないで食べ続けるとか、普通だし。


横目で恐いお姉さんを見る。

よかった、寝てるみたい。

それにしても、よく見ると凄い美人よね。なんか、こう、中国系の理想的な美人さんって感じ。でも、お化粧もしてないし、髪も、肌も荒れてるし。飲み過ぎでしょ。


ヒメカは我関せずでずっと食べてるし、手持ち無沙汰のわたしは15歳の誕生日にお父さんからもらった綺麗な不思議な宝石のペンダントを見ながらいじり始める。光の当て方によって万華鏡の様に七色に色を変えるホント不思議な石。見てると飽きないし、心も落ち着くのよ。


石の綺麗な輝きに魅入っていると、光の角度からなのかな?急にキラッと強い光を石が放ったの。

ちょっとびっくりしたけど、まぁ、この石ならよくあることだから…


と、思ってたら、光がどんどん強く大きくなって、る?


え?


ウソでしょ?


わたしのペンダントの光がどんどん強く、大きくなって広がっていく!



シャトルの客席全体をわたしを中心とした白く強い光が覆い、包まれていく。


何も見えないくらいの白い光に包まれきった時、わたしは意識を失った。




【作者より】

本作をお読みいただき、ありがとうございます!

物語の世界に一気に没入していただけるよう、初回は第4話まで投稿させていただきました。

今後の更新は、毎週水曜日と土曜日の21時を予定しております。

これから始まるエリィたちの壮大な旅を、どうぞお楽しみください!

フォローや応援、レビューなどいただけますと、執筆の大きな励みになります!

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