何やらかしたの?
緋那に引っ張られるままに身を任せた。
まるでジェットコースターに乗ったみたいな強烈な向かい風を受けて
急激に落下している。でも体感する早さほど怖さはない。
だんだんと足元に地面が近づいてくる。同時に木々の匂いと清浄な空気を感じた。
見晴るかすと眼下に江戸時代の屋敷が見えた。次の瞬間フワッと浮いた様に地上に降りた。降り着く寸前、緋那と分かれ各々の魂だけに戻った。
近くに緋那を感じなくなってた。
降りた屋敷の中庭には常緑のモッコクが繁り深い闇を落としていた。
本物の武家屋敷を物珍しく眺めていると、目の部屋から大声で言い争う声が聞こえた。
緋那?
「でも、父君!本当のことを伝えないと御家断絶に……」
「黙りなさい!それは禁句だと言ったはずだ」
緋那の必死の声に引き込まれる様に部屋に入っていた。体がないので私が入っても誰も気づかないみたい。魂って便利!
ふと、緋那がこっちを向いて薄っすらと微笑んだ。緋那には見えてるらしい。
「父君は藩主の失策で多くの人が路頭に迷っても良いとお思いですか?」
「我々の役目は卜占をすることだけ。その先は私達が関わることではない」
「でも!」
「良いか緋那。このことは絶対に他言無用だ。分かったな!」
緋那の父君は大股で足早に部屋を出ていった。
部屋の中はまだピンとした空気が張り詰めたままだ。緋那に声をかけるのも憚られた。
緋那は唇を真一文字に結んだまま畳を睨んでいた。
私の場所から緋那は近いはずなのに、見えないベールがある様に私達を隔てていた。今は見守るしかできない。楓乃にとって今は部外者なのだと感じた。
下を向いたまま悔しそうな緋那。
「どうして?不幸になると分かってるのに止めないの?止められないの?」
大きな粒の涙がこぼれ落ちてる。
目の前の情景に靄がかかり白が広がって静かに場面が変わった。
今度は前に見た緋那の部屋。
あの時は赤く染まって血生臭い臭いが充満した部屋だったけど
今見えてるのは、あの事件の前だからなのか
お香の良い香りがしている。
空気も清浄でいかにも巫女が生活している部屋だった。
緋那も落ち着いて祭祀をしている。私に見せる顔とは全然違って
引き締まった表情で祭壇を見つめている。
合わせた両手、軽やかな数珠をすり合わせる音。真言ごとに変わる印契。
1つ済むごとに空気が澄んでいく。
やっぱり本物の巫女さんだったんだ。
祭祀が終わった。気が抜けたみたいにホッと一息ついている緋那。
祈るって命がけなことを見せて貰った気がした。
突然、静寂を破る大きく乱暴な足音が迫ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます